連載
#47 ○○の世論
世論も推す「菅氏」の気になる数字 支持層の47%「選び方よくない」
辞任を表明した安倍晋三首相の後継者「ポスト安倍」を決める自民党総裁選が8日に告示されます。総裁選には、菅義偉官房長官、石破茂・元自民党幹事長、岸田文雄・自民党政務調査会長の3氏が出馬を表明しています。朝日新聞が緊急に行った全国世論調査(電話)を分析すると、世論推しの「ポスト安倍」が見えてきました。(朝日新聞記者・磯部佳孝)
自民党総裁選の構図が固まった後の9月2日~3日に行った朝日新聞の全国緊急世論調査(電話)では、「ポスト安倍」について、次のように聞きました。
菅、石破、岸田3氏を比べると、約7年8カ月続いた安倍政権で官房長官を務めてきた菅氏が全体、自民支持層、無党派層いずれもトップでした。
菅氏は総裁選の出馬会見で「安倍(自民党)総裁が全身全霊を傾けて進めてきた取り組みをしっかり継承し、さらに前に進める」と述べました。世論も「安倍政権の継承者」を宣言した菅氏を「ポスト安倍」に位置づけているようです。
2番手は石破氏。朝日新聞は2019年9月から今年6月の計4回、菅、石破、岸田3氏に小泉進次郎氏ら4氏を加えた7氏について「ポスト安倍」の質問をしています。この調査では、石破氏が19年12月以降、つねに全体と自民支持層でトップを走ってきました。かたや菅氏は19年9月の支持率が自民党支持層で12%だったほかは、1ケタにとどまっていました。
ところが今回は、選択肢が異なるので単純な比較はできませんが、石破氏は全体と自民支持層で菅氏に首位を明け渡し、「選挙の顔」をはかる指標の一つである無党派層の支持率でも菅氏を下回りました。
なぜ菅氏の支持層が膨れあがったのでしょうか。
永田町では、二階俊博・自民党幹事長が安倍首相の辞任表明直後に菅氏を担ぐと、党内の派閥が菅氏支持をこぞって表明しました。こうした永田町の「菅雪崩」の動きに影響を受けるかのように、これまでは小泉氏らを支持していた人が菅氏支持に心変わりした可能性もありますが、この点は引きつづき調査が必要です。
菅氏支持の勢いのあおりを受けて、厳しい結果となったのが岸田氏です。政界では安倍首相の「意中の人」と目されてきた岸田氏ははしごを外された形になり、菅、石破両氏に大きく水をあけられています。
ただ菅氏が圧倒的な優勢であるものの、「この中にはいない」の高さにも注意が必要です。自民支持層の19%が「この中にはいない」と答えています。自民支持層の一定数が3氏に物足りなさを感じているのかもしれません。
世論が「ポスト安倍」に有力視する菅、石破両氏の支持層にはどのような特徴があるのでしょうか。今回の調査では、次のような質問をしました。
菅氏の支持層は、安倍首相の実績を「評価する」と答えた人や安倍政権の路線を「引き継ぐほうがよい」と答えた人が大半を占めていることがわかります。
一方の石破氏の支持層は、安倍首相に否定的な評価を下す人が半数近くに達し、安倍政権の路線からの転換を求めている人の支持を得ていることが浮かびます。
次の首相に求めるものについても、菅氏と石破氏の支持層で異なる傾向がみられました。
菅氏の支持層は「リーダーシップ」42%がトップ、次いで「公正さや誠実さ」21%、「政策や理念」19%、「調整能力」15%と続きます。
対する石破氏の支持層は「公正さや誠実さ」44%が最も多く、「リーダーシップ」30%、「政策や理念」13%、「調整能力」10%という結果でした。
「公正さや誠実さ」が石破氏支持層で高く、菅氏支持層で低いことの背景には、安倍政権の「負の遺産」に対する姿勢の違いがありそうです。「負の遺産」とは、森友・加計学園問題や「桜を見る会」問題などをめぐる疑惑のことで、真相解明を求める声が根強くあります。
「負の遺産」について、石破氏は「政治が何かごまかしている、うそをいっているという思いがある限り、納得にも共感にもならない。何がどういう問題であるのか、解明をまず第一にする」と述べているのに対し、菅氏はいずれの疑惑についても真相の解明は不要との立場をとっています。岸田氏は状況を把握する考えは示したものの、真相究明に踏み込むかどうかまでは明言していません。
今回の自民党総裁選は国会議員票と地方票が同数で争う「従来型」とは異なり、全国一斉の党員投票は行わない「簡易型」の総裁選となりました。
今回のように、総裁の任期途中の辞任にともなう総裁選はこれまでも「簡易型」で行われてきたとはいえ、「政治空白は一刻も許されない」(二階幹事長)として「簡易型」に決めた党執行部のやり方と、辞任会見で「次の総理が任命されるまでの間、最後までしっかりと責任を果たしていく」と、政治空白を否定する安倍首相発言との矛盾が目立ちました。
このため、「簡易型」ではなく「従来型」の総裁選を行うよう求める声が党内外で上がりました。
「簡易型」の総裁選は地方票が減るだけでなく、地方遊説などのための選挙期間も短くなります。地方の党員に人気が高い石破氏の票数を減らす思惑があるのではないかという疑念も、こうした批判を後押ししています。
今回の調査では、総裁選のあり方についても聞きました。
今回の選び方が「よくない」は全体で60%、自民支持層でも過半数近くでした。菅氏の支持層は「よい」と「よくない」がともに47%で割れています。
総裁選に1票を投じることができるのは自民党所属の国会議員と党員の一部とはいえ、安倍首相の次の首相を事実上決める選挙だけに、透明性や正統性も問われます。
3氏の論戦が「疑問の声」を払拭するものになるのかどうか。党員だけでなくても、14日の投開票日まで注目の総裁選となりそうです。
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