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過激な政見放送「選挙系YouTuber」を直撃 突き動かすものとは?

選挙ポスターや政見放送での奇抜な行動が注目を集めた後藤輝樹さん
選挙ポスターや政見放送での奇抜な行動が注目を集めた後藤輝樹さん

目次

選挙のたび奇抜なポスターで世間をにぎわせ、政見放送では過激な言葉を連発しそれがSNSで拡散する。大きな選挙で現れるようになった「選挙系YouTuber」。2020年の都知事選に出馬した後藤輝樹さんもその一人と言えるだろう。「キャラを作る必要がある」という信念から理解を得にくい行動を重ね続けてきた。政治への無関心が生んだとも言える「選挙系YouTuber」後藤さんに、お笑いジャーナリストのたかまつななさんが直撃した。

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紫外線を警戒「変わった人だなぁ」

「一番綺麗なのはどれですか?」。YouTubeの撮影場所に、現れた後藤さんは、いくつか並べられたスリッパを見て、そう聞いてきた。質問に戸惑いながらも、「多分、一番新しいのは、これだと思います……」と私が答えると、それを履いた。

一面が窓ガラスで日差しが入ってくる部屋であることに気づくと、「ちょっと待ってください」と言い、廊下に出て日焼け止めクリームをたっぷりと塗る。

「変わった人だなぁ」と思った。

軽く打ち合わせしてから、撮影を始めるが、目をなかなか合わせてくれない。こっちまで緊張してきた。

仕方ない。「じゃあ撮影しましょうか」。私はそれしか思い浮かばなかった。だが、麦わら帽子を被ったまま。顔の表情が一切カメラで捉えられない。「撮影の時外してもらえませんか?」というと、「紫外線が強いので」と、かなり嫌そうだったので、そのまま開始することに。

今までたくさんの芸能人と共演してきたが、ここまで徹底的に紫外線を拒否してきた生活を送る人を私は知らない。

「紫外線が強いので」麦わら帽子を被ったままの後藤輝樹さん
「紫外線が強いので」麦わら帽子を被ったままの後藤輝樹さん

「儲かっているんですか?」

この日のテーマは、ずばり収入だった。後藤さんが政見放送で目立つことで、YouTubeの広告収入につながっているのなら、そのことを問題提起しようと思っていた。

YouTubeの広告収益は正確にはわからないが、分析プラットフォーム「NoxIfluencer」では、約700万円だと表示された。そこで、後藤さんに「月700万円ぐらい儲かっていますよね?」と聞いてみる。「いってないです。いってないです。政見放送は広告つかなかったりしますので……」。選挙に出た時のプラスマイナスでいうと、供託金でマイナスになるという。

供託金とは候補者が一時的に支払うお金で、一定の得票数に満たないと没収される。都知事選の場合は、供託金が300万円かかる。

後藤さんは、今まで、治験やヤフオク、株やアルバイトなどをして、10年で1000万円溜め、そのお金を切り崩しながら、選挙に立候補をし続けてきたという。約10回の選挙に挑戦し、これまで1千万円以上の供託金を没収されたと話す。

なんで、そんなことができるのか理解不能だ。そこまで選挙にこだわる理由は何か、聞けば聞くほどわからなくなってきた。

「政見放送は広告つかなかったりしますので……」YouTubeの広告収入の多さを否定する後藤輝樹さん
「政見放送は広告つかなかったりしますので……」YouTubeの広告収入の多さを否定する後藤輝樹さん

これまで選挙に1千万円費やす

意外にも、最初の選挙は普通に挑戦したという。地元から出馬し、落選するも、ある程度の得票数があったので、供託金は返ってきたという。

でも、挑戦して5~6回がたち、なんで俺が通らないんだと思うようになる。そして、投票率が低いのがいけないと問題意識をもったという。風変わりなことを始めたのは、選挙にいかない人を振り向かせようと思ってのことだったようだ。

1千万円もお金があれば、地方選挙でしっかりと対策すれば十分当選できなくはない。だけど、本人は、キャラを作る必要があるとしきりに言う。

「橋下さんや石原さんはスキャンダルをキャラで乗り切る時がある」。だから、クリーンなイメージではなく、ダメなところを出していっているのだという。最初から真面目だと裏切られたと思われる、だから、トランプやプーチンと対等に話すためにはキャラ付けが必要らしい。

今のスタイルになった理由は「キャラを作るため」だという後藤輝樹さん
今のスタイルになった理由は「キャラを作るため」だという後藤輝樹さん

きっかけとなった在日米軍の存在

小さい頃は友達がいた。鬼ごっこしたり、釣りに行ったり、サッカーをしていたという。

12歳ぐらいの時に、「在日米軍の在日アメリカ軍人が、僕と同い年の少女をレイプして、それが日本の法律で裁けなかったと。本当に情けない。戦後すごい時間経っているのに。今もなお改善されてないっていうのが……」と熱く語る。

ただ、そういう政治の話を誰かにしたことも、しようとしたこともなかったという。「でも、そういう場があればしたかったかなぁ」と思い返して、私の質問に対して、丁寧に間違いがないように話す。

思考回路が私とは違いすぎて、理解できないことが多々あったが、言葉に対して、すごく丁寧な人だと思った。

「つまり、こういうことですか?」と聞くと、「雑に言うと、そうですけど、それは……」などと説明し、補足する。自分の感情や考えを丁寧に間違いがないようにする真摯さは伝わってくる。

「都政で訴えるメインテーマが表現の自由というのは違うんじゃないですか?」と聞くと、「例えば、憲法や消費税や原発に対して、賛成なのか反対なのか、自分と似ている考えの人が当選した方がいいと思うんです。国政だからしゃべるなって言ったら分かんないわけじゃないですか」と即座にこたえる。

何を聞いても、受け答えの瞬発力が高い。政治をどうやって伝えるかとか、という面においては考えぬいてきた人だとも思った。目立ちたいから場当たり的にやっている人ではないのかもしれない。

会話では受け答えの瞬発力を見せた後藤輝樹さん
会話では受け答えの瞬発力を見せた後藤輝樹さん

にじみでる孤独としんどさ

ただ、私が思うのは、後藤輝樹という人物は、かなり変なやつで、ヤバイやつだと思われていることだ。とある週刊誌の関係者からは彼については静観すると明言され、驚いたことがあった。

彼の政見放送は300万回YouTubeで見られており、簡単にpv数を稼げそうなのに。あんだけ芸能人の不倫に土足で足を踏み入れるのに、後藤さんはNGなんだと。腫れ物に触るよう扱われている。

お笑い芸人なら、仲間がいる。彼は孤独ではないか。AbemaTVが後藤さんを呼んでいたが、そこでの後藤さんは少し緊張している好青年という印象だった。あわあわしていた。政見放送とあまりにギャップがあり驚いた。

普段おとなしい人があの政見放送をやるのはかなりきついだろう。そのことを聞くと、「無理をしていた」と話す。「いい精神科ご紹介いただけたら」とも言われた。やはりメンタルは辛いようである。結構傷つきやすい性格であるとも、本人は言っている。

私も人見知りでシャイだけど、人前に出て訴えたいことがあり、場数で克服していった人間なのでよく分かる。しかも、彼は捨て身でいっているため、理解者を得にくい。

瞬間的にな受け答えは得意だが、政治家になりたいとは思えないぐらい、自分の人生のストーリーテリングは下手だ。「なぜ選挙に出たいのか」ときくと「地球を幸せにしたいんです」と返ってきた。そこには自分の原体験などはない。幼少期にこうだったから、こうしたいみたいな政治家のあるある話はない。街頭演説もしていないし、する気もないから仕方ないのかもしれない。

彼が孤独で、辛いことは容易に想像がつく。でも、彼女はいるし、秘書もいるから相談できる仲間はいるようだ。「辛い時にSOSを発しましょう。本当に辛ければ病院に行くことはわるいことじゃないので、いきましょう」とお伝えした。

政見放送では「無理をしていた」と明かす後藤輝樹さん
政見放送では「無理をしていた」と明かす後藤輝樹さん

秘書が語りだした「後藤輝樹」の魅力

とはいえ、後藤さんは人気がある。

YouTubeのチャンネル登録者数は11万人、twitterのフォロワーは7.9万人。私よりも全然多い。なんと後藤さんのファンから秘書をやりますと立候補もあったそうだ。

現場には秘書がきていたので、その魅力を聞いてみた。まず、20年かけて、1000万円かける生き様と政策にひかれているという。

「政策は例えば、供託金の撤廃や、歯のセラミック・美容整形の一部を保険適用にするという点。他は、虐待への対策。毎日一緒にいると虐待をしてしまう親も、週に一回とか週末だけ会うとかだったら優しく接することができる。だから、義務教育の家を作って、そこで養母さんがちゃんと愛情を注いで育てる施設を作る、などの政策は共感できるんです」と楽しそうに語ってくれた。

極端なパフォーマンス生んだのは?

話が進むと、徐々に心を開いてくれたのか、目が合うようになった。

後藤さんの奇抜な手法の背景には、政治に対する無関心への憤りがある。「皆、政治に興味を持とうよ」という気持ちや、政治について話そうよと声をかけてもかけても届かないから、週刊誌も触れない行動を起こしてしまう。

その思考は、正直、とてもよく分かる。私も前職ではたびたび物議を醸す行動をとってきた。私はお笑いという手段、彼は政見放送をでコント風にするという違いなのかもしれないだ。

若い人が、政治について問題意識を持っていても、大学の熱心なゼミに入るか、マスコミに入るか、どこかの政党で政治活動をするかしないと、話せる場所自体がない。私は、それが本当に問題だと考えている。

後藤さんの訴える「地球を救う」という意図や意味はよくわからない。でも、社会に対して問題意識を持ち、それを語り合い、変えたい、伝えたいという気持ちは否定できるものではない。

そういう人が、自分の意見を聞いてもらうために、極端なパフォーマンスをしなければならないのだとしたら。そのことにこそ、私たちは目を向けるべきだなと思う。後藤さんのような存在を生んだのは、今の閉鎖的な、政治的発言をタブーとする社会なのかもしれない。

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