連載
#76 #父親のモヤモヤ
妻の育児記録に衝撃「日記と思っていたら…」子育てアプリ開発の理由
寝て、起きて、うんちをして、ミルクを何CC飲ませて……
育児への向き合い方は妻と温度差がありました。長女が生まれたころ、妻は手書きで育児記録をつけていました。その様子を「思い出づくりの日記」だと思っていた服部さん。しかし、内容を見て目を疑いました。「寝て起きてうんちをしてミルクを何CC飲ませて…日記だと思っていたものが実はタスク管理だったんです。衝撃でした」
生活リズムが定まっていない赤ちゃんの記録は、体調を管理する上でも大切です。ミルクを飲ませすぎていないか、睡眠時間は足りているか、便秘になっていないか。初めてだからこそ特に注意深くチェックします。
今はアプリを使って夫婦で育児記録を共有できますが、当時はほとんどありません。服部さんの家庭では育児記録は妻がつけるもので、共有するものではありませんでした。「僕は共有してほしかったけど、紙の記録の共有はなかなか難しく。この経験からアプリで育児記録を共有することを考えたのですが、当時は旦那に育児記録を見られて何か言われるのが嫌だという意見が多かったです」
育児記録の「見える化」は、夫婦で子育てをする上でストレスを減らす役割もあります。服部さんが必要性を感じたのは、妻が美容院へ出かける時のことでした。子どもの世話を任されてもミルクを何CCあげたらいいのか分からず、引け目を感じたと言います。
「ミルクの量は日進月歩で変わっていきます。今どれくらい飲ませているか聞きたかったけど、あきれられるだろうと思って素直に聞けませんでした。でも仕方ないので聞いたら、少しイライラしながら『そんなことも知らないの?』と言われて…まあそうですよね」
服部さんは、当時の妻からの評価は「減点法」だったと考えています。「ミルクもすんなり任せられない旦那だったので、妻は『私が頑張らないと』と感じていたのではないでしょうか」。サポートはしたいけど、妻のストレスを増やしては意味がありません。代わりに掃除や洗濯などできることをしたと言います。
赤ちゃんがなぜ泣いているかわからないし、全然泣きやまない。これも頭を抱える人が多い問題です。眠いのか、おなかが空いているのか、おむつが気持ち悪いのか、抱っこしてほしいのか、順番に試して理由を探さないといけません。
自分が世話をしている時にギャンギャン泣かれ、奥さんにヘルプを求めてしまった。服部さんにもそんな苦い経験があります。妻にしかできないことを言い訳にしていないか、という思いです。
「いろいろ試したけど、頭の片隅では『絶対おっぱいが飲みたいんだよ』と思って奥さんにお願いしたシーンが何度もあります。申し訳ないと思いましたが、それは男性にはどうもできないことです。でも、もうひと頑張りできたかもしれません」
「泣いている理由がわかれば」と、育児記録アプリには泣き声診断機能もつけました。泣き声から感情を分析し、「お腹が空いた」「眠たい」「不快」「怒っている」「遊んでほしい」のパーセンテージが表示されます。
「できることをあまり試さず奥さんに戻してしまう人でも、もうひと頑張り、もうふた頑張りする後押しができれば」と服部さんは話します。
「初めての子育てに、ほとんどの人は心の余裕がありません。でも、日々成長をしている姿を見られるのは幸せです。旦那さんの中には、『手伝いたい』と思う人が結構いますが、手伝い方がわかりません。今は育児記録を共有したいニーズが増えてきて、社会の意識が変わったのはいいことだと思います」
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