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設計図どおりの「最期」迎えた父 おかざき真里が描く「医療と宗教」

おかざき真里さんがチャリティーグッズに寄せたクジラのイラスト
おかざき真里さんがチャリティーグッズに寄せたクジラのイラスト 出典: #SNS医療のカタチTV やさしい医療の世界

目次

「医療現場のコミュニケーション・エラーで苦しむ人たちを救いたい」とボランティアの医師4人が活動するプロジェクト「SNS医療のカタチ」。この活動費にあてようと売り出したチャリティーグッズには、漫画家のおかざき真里さんがイラストを寄せています。2年前、がんの父が自宅で息を引き取ったというおかざきさんは「人は〝物語〟の中を生きていると思います。父が『自分の希望する最期』の設計図を示してくれたから、大変だっただろうけれど家族はそれをかなえられた」と振り返ります。

おかゆを食べさせてもらったスプーン

――おかざきさんの描いたチャリティーグッズのイラスト、スプーンの上のクジラがとてもかわいいです。

SNS医療のカタチでグッズをつくるので、何かイラストを描いてくれないかとお願いされました。SNS上で医師の皆さんの活躍は拝見していたので、二つ返事で「何でもやります」と答えました。

◆SNS医療のカタチとは
「医師の言葉に傷ついた」「○○を食べれば治ると聞いたので実践した」といった医療にまつわるコミュニケーション・エラーを解消しようと、情報提供する活動です。医師の大塚篤司さん・堀向健太さん・市原真さん・山本健人さんがボランティアで活動しています。8月23日午前10時からは、オンラインイベント〝SNS医療のカタチTV 「やさしい医療の世界」〟を開催し、元SKE48で乳がんを経験した矢方美紀さんや、「ほぼ日」の糸井重里さん、写真家で血液がん患者の幡野広志さんらを招いて「やさしい医療」について医師たちと語ります。
#SNSやさしい医療のカタチTV 「やさしい医療の世界」

――どうしてこのイラストの構図にしたのでしょうか?

身近でやさしい医療を考えたとき、具合が悪くなったときにおかゆを食べさせてもらったスプーンが思い浮かびました。クジラは、いちばん大きくてやさしい「叡智」のイメージです。 

私たちに届く医療は、お医者さんや研究者の長い長い汗と涙と努力の結晶なのだと思います。それがスプーンの上に乗ってやってくるような、医療のやさしさを表現したんです。

人に寄り添うのが医療と宗教

――おかざきさんも23日のオンラインイベントでは、11時のセッション「医療と和尚の、あうんの呼吸」で、医師の市原さん(ヤンデル先生)、編集者のたらればさん、高野山の飛鷹全法和尚とお話しする予定ですね。

本来は、医療も宗教も、人に寄り添うものだと思います。私が漫画『阿・吽』(小学館、11巻続刊)で描いている平安時代は、仏教が医療までカバーしていました。もともと近いはずのものです。

――『阿・吽』では天台宗の最澄と、真言宗の空海を主人公に描いています。

でも、実は仏教にはうとかったんです。何かの宗教に傾倒しているということもありません。編集者と監修者の方が高野山になじみがあって、「これを漫画にしたら面白いかも」と思ったそうですが、読者はみんな仏教徒というわけではありません。それなら一番遠い人がいいと、私に白羽の矢が立ちました。

歴史も全然詳しくなくて、今でも鎌倉と室町時代はどっちが先だったっけという感じなんですが(笑)、当時どんなことがあったかを調べて、ただ驚いたことを順を追って描いているんです。

死の匂いがしない世代が描くおこがましさ

――『阿・吽』では「生老病死」についても描かれていると感じました。特に3巻では、にうつ様(丹生都比売)が空海に向かって「命とはなんだね」「延々とくり返す、生と死とはなんだ? 人とはなんだ?」と問いかけています。

漫画を通して問いかけていて、答えを描いているわけではありません。そのまま私が「なんだろう」と思ったことを描いています。分かった気にならないことが大切だと思っています。

90年代は都市論や『メメント・モリ』などが流行りました。バブルの影響がまだ少し残っていた頃、死の匂いはできるだけ隠されていました。人が死を実感できなくなっていた世代と言われていたんです。

私の平安時代のイメージは「雅で豊か」でしたが、それは後期のことでした。奈良から平安へ移る頃って、死が身近で、街中がひっくり返ってるような時代なんです。

死の匂いがしない時代の人がそれを描くおこがましさを感じながら、謙虚に、できるだけ生々しく描こうと思ってきました。

――『阿・吽』でたびたび登場する「怨霊」の存在も印象的です。


昔は物質がどうできているか、原子や分子のことなんて分からなかった。解明されていないことを怨霊のせいにすると説明がつくね、と納得しながら暮らしていたんですね。

実は、分からなさすぎる仏教と、不思議な次元で似ていると感じるのが「量子力学」なんです
大学の先生に「密教のことが全く分からないので、量子力学を教えてください」と聞きにいったことがあります(笑)。

一見、一番遠いような存在ですが、「宇宙の成り立ち」を探るとか、同じようなことをやっているような気がするんです。量子力学で扱う事象は、生で見たわけではありません。計算や頭の中で考えたことですよね。

密教も、言葉や文字で追いつかない、もっと先にあるものが真理という考え方です。「こうじゃないか」「ああじゃないか」と考えることが、量子力学と仏教で同じ感じがしました。

「量子力学を学ぶにはこのペースでも半年かかるよ。大学にいらっしゃい」と言われましたが、その大学には聴講生の制度がなかったんです。大学に入り直すところからか……と今の学びは止まっています(笑)

患者側にも「受けとる用意」が必要なのでは

――まだまだ仏教について分からないことが多いのですね。

私が因数分解できず、僧侶に聞いてまわっていることのひとつに「慈悲」があります。
ある僧侶からは、「慈悲の心を受けとる側に用意がないと、慈悲は成立しない」と言われました。

「受けとる用意」ってなんだろう?と考えると、それは医療でも同じかもしれません。

私はすでに、医者は十分きちんとやってくれていると思うんです。患者の受けとる用意も必要なんじゃないかと。

――仏教の教えと医療にも、リンクするところがあるんですね。

仏教の「生老病死」は、四苦八苦のうちの「四苦」にあたります。

でも仏教では、生老病死は普通にあるものとして半ば諦めています。「生老病死そのものではなく、それにまつわる苦しみの方がつらいよね」と言っているんじゃないかと感じています。

今でもみんな、病や死そのものよりも、それにまつわる関係性にすごく振り回されてしんどくなるんですよね。イベントで飛鷹和尚に聞いてみたいです。

ネットの医療情報、怖いことは書いてあっても……

――おかざきさんはどんなときに「医療のコミュニケーション・エラー」を感じますか?

今は子ども3人のお母さんとして、検診や予防接種に連れていくことで主に医療と関わっていますが、自分の身体ではない難しさはありますね。

過保護になって常に病気ばかり心配していてもしょうがないし、かといって、じゃあどんな状況なら救急病院にかかっていいのか……そのさじ加減が難しいです。ネットには怖いことは書いてあっても、「大丈夫」とは言ってくれないんですよね

だから地域のかかりつけ医の存在はとても大きいと思います。今のかかりつけ医には、安心して「行っておいで~」と送り出して、先生も子どもに「お母さん元気にしてる?」と聞いてくれます。

家族のことを全部分かっているお医者さんがいるのはとても安心です。でも、何度か引っ越しをしているので、見つけるのは大変でした。

父の設計図どおりの「最期」

――2年前にお父さんが亡くなったときは、ご家族が自宅で看取ったそうですね。

がんになった父は、最初は放射線治療も受けないと言っていました。長野の自宅で孫の顔を見ているうちに、「放射線治療はやってもいい」に変わったようです。

手術をして病巣をとったあと、できるだけ入院せずに治療をしたと聞いています。

一度、自宅で昏睡状態になった時も、家に呼ばれた医師が点滴をしようとしたら、父がふと目覚めて「点滴はだめだ」と言ったそうなんです。とにかく「寝たきりにはならない」と決めていました。

最期も、母にトイレに連れていってもらったあと、仕事で使っていた論文を書く机に座らせてもらって、1時間ほどしたあと、「寝る」といって休みました。そのあと様子を見にいったら息を引き取っていたんです。

すごいなぁと思いました。もちろん皆さんに薦めるわけではありませんが、みんなが「よく生きたね」と言える最期でした。

――お父さんには「こう生き抜きたい」という希望の最期があったんですね。

父は頑固だったので「こうだ!」と決めてくれました。家族も腹をくくって、大変だったろうと思いますが、父が書いた設計図通りに、最期を迎えさせてあげた。やれることをやったので家族も思い残すことがないですよね。

でも「決めるのは大事だな」と思う反面、知識がないと決めることも難しいです

父は、理系の大学の先生で、兄がお医者さんで、それなりに知識があったんだと思います。

知識がないとお医者さんにお任せ、になりがちですが、それは医者も困りますよね。

人は物語の中を生きている

――お父さんの死で感じたことはありますか?

自分が漫画家だから余計にそう思うのかもしれませんが、「人は物語の中を生きてる」と思うんです。父には、こう生きたいという物語があって、それを伝えておいてくれれば、まわりも用意ができる。

私は漫画の物語が作れないときは、取材をして物語をつくっていきます。父も知識があったから、自分の物語がつくれたんじゃないでしょうか。

でも、医療のアップデートが進むのはかなり早いですし、素人だと間違ったものを勉強してしまう可能性もあるので、「知識を入れろ」とも言えません

ただ、「自分の人生ってこうなんだ」「こういう物語で終わりたい」って大きく決めておいてくれたら、あとは知識のある専門家が合わせていってくれると思うんです。

とくに家族は、本人のために精いっぱいやるしかないですよね。でも何が本人のための「精いっぱい」なのか分からなければ、やりづらいです。

――家族はわらにもすがる思いで、本人の希望とは違うことをしてしまうこともありそうです。

そうですね。「正しくない」医療の人たちが薦めてくる「こういうことができますよ」に、ついつい行きたくなってしまうこともあるかもしれません。いわゆる怪しい宗教に通じることもあると思います。

それぞれ個人が何を杖にして生きていくかはその人次第かな、とは思います。ただ、私の世代は新宗教組織の大きな事件もありました。自宅を訪れて勧誘したり、やりがいのある修行を用意してはまりやすいようにしたりといった開かれていない宗教には、個人的には拒絶感が強いです。

「治る=幸せ」ではない グレーゾーンの世の中

――そういった医療や宗教には「わかりやすい」言葉も多いですね。

タイトルを見ただけで何が書いてあるのか分かる、キャッチーな啓発本もありますよね。

仏教は一言ではまとめられません。まとめられないから、修行や段階があって、師匠・弟子がいて、寝食を共にします。すがりたい人は、今すぐ宝くじに当たる、今すぐ若返りたい、とか、「今すぐ」結果がほしいんですよね。

仏教を調べていて、「仏教のことが分かったら人生変わっちゃうかも!」と思っていましたが(笑)、今は仏教は幸せとは全く関係ないところにあるんだな、と思っています。

医療も同じかもしれません。「治る=幸せ」「手術成功=幸せ」ではありませんよね

医師はきっと「治る」がイコール幸せではないと説明してくれていると思いますが、患者は病気さえ治れば幸せになれるんだと期待している。そこに医師とのゴールの齟齬があるのかもしれません。同様に、「病気=すべてが不幸」でもありません。

何かと分かりやすく導いてくれるものや、今すぐ分かるものに飛びつきがちですが、世の中は「グレーゾーン」でしかできていません

単純な達成感も、バトル漫画にある敵を倒した感じも、分かりやすい呪文でHPが戻って、また同じようにに戦えるということもないんですよね。

――一方で、とっつきにくい医療情報を「漫画」で分かりやすく伝えるということも増えてきました。

医療漫画は、ものすごく責任を負うものになったと感じています。

ある人が病気になったとき、その結果は、最近読んだ医療漫画のイメージがつきやすいと思うんです。読んだ漫画では治ってたのに……と考え始めると、なかなか難しいです。
 
リアルを追求しすぎると、闘病記に自分を重ねてしまうかもしれません。でも、マンガはプロットを描いてから最低3カ月ほど世に出るまでにかかります。コミックスは半年以上ですね。最新の医療は、その間に変わってしまう。そこも難しいですね。

でも、支えになる医療漫画がたくさん出てくれれば、その中から、自分が「いいな」と思うストーリーを選ぶやり方もできるかもしれません。

そして漫画には主人公がいるので、少し「他人事」として読むことができます。特に病気の時って難しいものは読めないですし、少し距離を置いて読める部分があるのはありがたいですよね。

――いまの社会ではなかなか「死」について考える機会がありません。自分の将来を描いても、「死」はなかなか物語の中に入ってきません。

連載漫画を描く人は、「結」を作らずに考える人が多いです。つくっていけばいくほど、起承転結の「転…………」が続いていくんです。

連載漫画で「自分の物語」を考えてしまうと、どんどん終わりが遠くなってしまうかなと思います。だから4コママンガぐらいで自分の物語を意識してつくってみるのもいいかもしれません。

とはいっても私も、「明日も生きてる」と思うから、子どもをしかっちゃったりするわけですよね。実際に考えるのはとても難しいなぁと思っています。
おかざきさん「自画像」=おかざきさん提供
おかざきさん「自画像」=おかざきさん提供
◆おかざき真里(おかざき・まり)
漫画家。広告代理店にてデザイナー・CM制作、在職中に集英社ぶ~けで漫画家デビュー。退社後結婚・出産。3児の母。代表作『サプリ』月9ドラマ化、『彼女が死んじゃった。』土9ドラマ化、『渋谷区円山町』映画化。フランス、イタリア、韓国など各国翻訳版も出版多数。現在最澄と空海を主人公にした『阿・吽』を月刊スピリッツで連載中。
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