ネットの話題
「ミュージカルみたい」運転士と車掌の「奇跡の連携動作」が話題に
本当は「堅い仕事」なんです
静岡県浜松市を走る「遠州鉄道」、通称「赤電(あかでん)」。「観光電車ではない」という鉄道ですが、運転士と車掌のユニークな動作が話題になっています。二人の息がぴったりで、「ミュージカルみたい」とネット上で評判です。いったいこの動作は何なのか? その舞台裏を聞くと、「市民の足」として真摯に取り組む、鉄道会社と乗務員たちの姿が浮かび上がりました。
きっかけになったのは、ツイッターに投稿された30秒ほどの動画です。「超仲良しで息ぴったりな車掌さんと運転士さん(笑)」というコメントとともに、はまやんさん(@Ii1BnIwFjL13KBp)が「衝撃的な動画」を公開しました。
駅に到着した遠州鉄道の2両編成の電車。
前の運転席からは運転士が、後ろの車両からは車掌が身を乗り出し、乗客がホームに降りるのを確認します。ここまでは、よく見る光景です。
しかし、扉を閉める前になると、車掌が手をひらひらと回転させながら、車内に入ったり、出たり。軽やかにステップを踏むような動作をします。
すると、車掌と向かい合うように、前の車両から身を乗り出していた運転士も、その動きに合わせたかのように、入ったり、出たり。
最後は2人で顔を見合わせ、ひざをぴょこっと曲げます。端から見ると、仲良しの二人が「ねー!」と言い合うようにも、舞台でダンサーが会釈するかのようにも見えます。
そして、運転士と車掌は、何事もなかったかのように車内に戻り、電車は出発します。
この動画に、「動作がかわいすぎる」「ほんわかする」とほっこりする人が続出。「パフォーマンスなのか」「すごくかわいいけど、それだけじゃない気もする」と動作の意味を考える人もいて、反響が広がりました。
超仲良しで息ぴったりな車掌さんと運転士さん(笑) pic.twitter.com/emoqzsHIKM
— はまやん(遠鉄民) (@Ii1BnIwFjL13KBp) August 13, 2020
遠州鉄道に話を聞きました。
鉄道営業所副所長の澤井孝光さんによると、運転士と車掌の二人がしていたのは、れっきとした乗客の安全を守る確認作業でした。
乗客には高齢者など、乗降するまでに時間がかかる人もいます。もし扉に挟まれれば、けがをする恐れもあり、運行の遅れなどにもつながります。
「運転士と車掌が車両に出たり入ったりしているのは、二人で車両の内側と外側から、乗客がきちんと降りられたか、そして、乗り遅れがないかを確認するためです」と澤井さんは説明します。
手をひらひらと上げていたのは、お互いに「安全である」ということを確認した合図でした。
さて、反響が集まった、最後の「ねー!」の部分。
ホームが直線でなく、曲がっている場合などに、挟み込みなどがないか、よく確認することがあるそうです。
澤井さんは「全員が全員あのような動きになっているわけではないので、公式なコメントはしづらいんですが……。たまたま、いい二人だったのかもしれません。そして、撮影されていた方に、たまたま、いい絵を撮っていただいたんです」と話しました。
運転士と車掌は月替わりでペアを組むそうで、今回、撮影された二人組は遠鉄電車の中核を担う、中堅の乗員でした。「かわいい」と話題になりましたが、澤井さんは「普段は堅い仕事をしている二人です。今回の映像でも、しっかり二人で安全確認してくれたことが分かります」と評価します。
注目された動画では、車体が緑色のラッピング電車でしたが、遠鉄電車は本来、真っ赤な車体で、「赤電」と呼ばれて、親しまれてきました。浜松市中心部から南北に約17.8キロ伸びる単線鉄道ですが、一日の運行本数は166本と、単線鉄道としては全国でもトップクラスの忙しい路線です。
車両が赤いのは、目立つ色で、遠くからでも人が気づいて事故を防止できるように、との願いも込めてあるといいます。
澤井さんは「観光電車のようにカラフルではありませんが、『赤電』は市民の通勤・通学の足として役目を果たすための色です」と話します。
しかしコロナによって、「赤電」の景色も変わっていきました。
定期券利用を除き、切符を購入する乗客は前年比で半減。12分間隔だった運行も、土日は20分間隔にするなど、調整することになりました。
ただ、「安心して乗ってほしい」という思いから、コロナ前と変わらず朝晩は2両編成を4両編成にして、「密」にならない工夫をしながら、運行を続けています。
今回、予期せぬ形で注目を集めましたが、澤井さんは「こうして広く知って頂いて、ありがたいです。沿線には浜松城や、『世界のヤマハ』の楽器作りの歴史を知るミュージアムもあります。赤電に乗って楽しんでいただけるとうれしいです」と話しました。
1/18枚