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連載

#200 #withyou ~きみとともに~

先生はIT企業の社員 中学生に教え込む「起業」の授業 本当の狙い

「学校と社会を断絶してはいけない」

ドルトン東京学園で開かれた「起業ゼミ」の様子
ドルトン東京学園で開かれた「起業ゼミ」の様子

目次

中学生が「起業」を学ぶオンライン授業が、7月、東京にある私立の中高一貫校で開かれました。生徒の反応は「むちゃくちゃおもしろい」と前のめり。でも、義務教育の年齢から「お金もうけ」を学ぶなんて……。企画した先生の答えは「起業はツールにすぎません」という意外なものでした。起業を教えているのに、必ずしも起業はすすめていない。不思議な授業から、学びの手段について考えます。

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コロナに課題を見いだし起業アイデア

「気になっているニュースを1分間で書けるだけ書いてください」「良く知っている人の名前を10秒でできるだけ書いてください」「その人が困っていることを5分で書いてみてください」ーー。

2019年に開校したドルトン東京学園で7月、ソーシャルメディアなど様々なビジネスを手がける「ガイアックス」のスタッフが講師となる「起業ゼミ」が、3日間計3時間にわたりオンラインで行われました。中学1、2年生の希望者約30人が参加し、起業家による講演を聞いたり、ビジネスにつなげるための社会課題の設定の仕方などを学びました。

16日に行われた授業では、起業経験者やガイアックスのスタッフが講師役となり、生徒たち自身が日常生活で感じる社会課題を設定し、それを解決するためのビジネスを設計する体験授業が行われました。

生徒たちからは、「コロナで集まれなくなった世界中の音楽家が、オンラインでつながり練習ができるツール」や、「コロナで運動不足になった人たちに、運動するとメリットが得られるようなビジネスができないか」など、新型コロナウイルスを経て設定された課題が多くみられました。

オリジナルの起業アイデアを発表する生徒に拍手を送る講師の佐々木喜徳さん
オリジナルの起業アイデアを発表する生徒に拍手を送る講師の佐々木喜徳さん

わかっていても答えられなかった小学校時代

その授業を「むちゃくちゃおもしろい」と前のめりになって受けていたのが、中学1年生のガントゥルガ・テルメン君です。
「実際に起業をしたいと思っている人とか、マネジメントしている方から話を聞くことができたのはすごく面白かった」

この4月、公立の小学校からドルトン東京学園に進学したテルメン君は、小学生の頃、学びたいことを自由に学ぶことができない環境に物足りなさを感じていました。

「授業中、答えがわかっていても『分からない人もいるから先に答えを言うな』って言われたり、先生から『わからない子に教えてあげてほしい』と言われたりしていて、それがすごく嫌だった。それが良い教育なのか?…って」。
学校生活は楽しくはありましたが、自由に学べないことに対しては不満がありました。

現在のテルメン君が関心を持っているのは近代史です。「20~21世紀のアメリカ、ヨーロッパが好き。産業革命で急成長した時代なので、過去とは違う暮らしが生まれてきたギャップを感じる。世界経済を引っ張ってきたアメリカの大恐慌とか、戦争とかに発展した原因とかお金の動きがおもしろい」。
自分のパソコンを学校内に持ち込むことができるので、気になることは自宅でも学校でもすぐ調べ、近代史を紹介するテレビ番組を繰り返し見て、「完全にコピー出来ている状態」だといいます。

今回起業ゼミに参加した理由は、将来、起業することも視野に入れているからだそう。
「そもそも起業するにはいろんな知識が必要。起業ゼミを受ければ、より発展的に経済や社会のこと学べると思って参加しました」と話します。

Zoomでの取材に応じるガントゥルガ・テルメン君
Zoomでの取材に応じるガントゥルガ・テルメン君

中学2年生の宮本珠文君も、小学校の頃とは違う学びに、面白さを見いだしている一人です。小学校のときは、自分のペースで学習を進めることができなかったという珠文君。ドルトン東京学園に入学してからは、「そこまで使い慣れてはいなかった」というパソコンを使って課題を進めたり、わからないことを調べたりしています。
「将来の夢は決まっていない」と話す珠文君ですが、「クリエイティブなことをしたいと思っている」。起業ゼミを受けた感想は「学ぶところが多かったです。実際に起業したことのある人の話を聞くと、すごく勉強になりました」。

Zoomでの取材に応じる宮本珠文君
Zoomでの取材に応じる宮本珠文君

「学校を使って社会とつながって」

起業ゼミ企画者の、社会科教諭・木之下瞬さんは、「『起業』は、あくまで学ぶためのツール」と話します。「情報収集してから課題を解決していくという流れは総合学習と同じです。教員が設定した課題に、生徒たちがアプローチするというのはこれまでの学校でもやられてきたことですが、起業ゼミでは、子どもたち自身が課題設定力を身につけ、それを通じて社会とつながることができると思っています」

起業ゼミでは「社会とつながる」という点も重視しています。荒木貴之校長も「学校と社会を断絶してはいけない」とし、「学校は社会に出る前の準備期間。安全な環境で失敗し、教訓化していけばいい」と話します。講師として生徒たちと関わったガイアックスの佐々木喜徳さんも「社会で活躍する人材は、子どもの頃から社会と接してきた人です」と話します。

16日の授業で木之下教諭は生徒たちにこう語りかけました。
「勉強のための勉強って意味がない。学校を使って社会とつながって欲しい。与えられたものをやるだけでなく、主体的に自分が必要な情報を学び取ってほしい。うまく学校を使ってほしいと思います」

生徒たちの発表を聞く木之下瞬教諭(奥)と佐々木喜徳さん(手前)
生徒たちの発表を聞く木之下瞬教諭(奥)と佐々木喜徳さん(手前)

目的があることで深まる学びも

私は中学生向けの起業ゼミと聞いたとき、最初に思い浮かべたのは、義務教育期間中の子どもたちが「成果」を求めるビジネスを学ぶのは少し窮屈なのではないかということでした。もっとのびのびと、関心領域を深めていく時間が長くあっていいのではないかと思いました。

しかし起業ゼミ担当教諭の木之下さんは「起業はツール」と断言しました。「起業」の枠にとらわれるのではなく、社会の中に課題を見つけ、その課題解決に向けての思考する力を生徒たちに求めているのだと理解しました。

講師を務めた佐々木さんも「僕自身、子どもの頃は何のために勉強するのかわからず落ちこぼれていった」と語っていましたが、「目的」があることで深まる学びもあるのだと思います。
もちろん、何を目的に学ぶかは自由ですし、目的を設定しない自由もあります。目的を設定しないことで力を発揮する人ももちろんいます。

その上で、「社会課題を設定して学びを深める」という学びの手段もあるという選択肢を示すことは、その手段がマッチする子どもたちの可能性を広げることにつながるのだと感じました。

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