連載
#41 ○○の世論
安倍首相の指導力「発揮していない」急増の理由 3人に2人がダメ出し
「GoToトラベル」が決定的に
7月18、19日に実施した朝日新聞の世論調査では、安倍内閣の支持率は33%で、不支持率は50%でした。第2次政権で最低の29%まで下がった5月下旬に比べると、やや持ち直しましたが、依然として低空飛行が続いています。世論が安倍政権から離れている背景には、やはり新型コロナウイルス対策の迷走ぶりがありそうです。(朝日新聞記者・君島浩)
世論調査では、コロナの感染拡大の防止に向けた安倍晋三首相の指導力を問う質問を、4月から3回質問しています。
安倍首相が指導力を「発揮している」と答えた人は、4月が33%、5月中旬は30%でした。もともと低かったのですが、7月は24%まで落ちました。指導力を「発揮していない」は7月には66%に達し、3人に2人がダメ出しをしていることになります。
首相の支持基盤である自民党の支持層では4月、5月中旬は「発揮している」が5割を超えていました。それが7月には44%に減り、「発揮していない」の47%に逆転されました。
コロナが蔓延し始めてからというもの、安倍政権の対応は、場当たり的なものが目につきます。
政府方針は二転三転。安倍首相の唐突な表明で、全国一斉の休校要請をしたり、布マスク2枚の全戸配布が決まったりしました。
緊急経済対策では、減収世帯に限って30万円を配布すると閣議決定したのに、10日もたたず一律10万円の給付に方針転換。9月入学の検討も、1カ月ほどで断念に追い込まれました。
国会が閉会した後、首相は1カ月余りも記者会見や国会答弁の場に立ちませんでした。首相の影はすっかり薄くなり、コロナ対応といえば、西村康稔・経済再生相ばかりが目立つようになりました。指導力を「発揮していない」が7月に急増したのは、こうした首相の姿勢に対する世論の不満の高まりと言えそうです。
政府の朝令暮改ぶりを象徴するのが、観光支援策「GoToトラベル」です。
当初は8月中旬に始める予定でしたが、夏休みに間に合わせようと、7月22日からの前倒し実施を、突然、発表しました。東京を中心に感染者が再び増えているタイミングでの事業開始に、反対論や延期論が噴き出すと、今度は「東京除外」を打ち出しました。
調査では、まず7月22日に事業を開始することの是非を聞きました。
反対は7割を超え、内閣支持層ですら6割が反対しました。
コロナ禍で打撃を受けた観光業や地域経済を回復させる目玉政策の一つでしたが、恩恵を受けるはずの製造・サービス従事者層でも、賛成は17%で反対は79%と、全体よりも反対が多めでした。
調査では、「GoToトラベル」について、「開始時期や対象の地域を決めるまでの安倍政権の一連の対応を評価しますか」という質問もしました。「評価する」は18%にとどまり、74%が「評価しない」と答えました。
前倒しの発表は7月10日、東京除外の発表は16日、そして事業開始は22日ですから、こうした泥縄ぶりに対する世論のいらだちがうかがえます。
一方で、コロナ禍は観光業に限らず、日本経済に大きな影響を与えています。調査では、生活苦の不安についても尋ねています。
生活が苦しくなる不安を「感じる」人は、緊急事態宣言が全面解除された後の6月調査では、半数を切りました。それが7月には再び増え、56%になりました。自営業者層の67%が不安を「感じる」と答えています。
「GoToトラベル」の混乱は続いています。突然の東京除外で、旅行を取りやめる人のキャンセル料についても、批判が相次ぐと、政府は方針を一転して国が補償することになりました。
「君子豹変」は本来、褒め言葉ですが、政策が猫の目のように変わっては、振り回される国民の不安は消えるどころか、かえって募るばかりでしょう。
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