連載
#48 夜廻り猫
「結局、私が母を養った」60歳でできた「家族」 夜廻り猫が描く責任
夫に先立たれた母を養い、看取って、気づけば60歳。そんな中で子猫を拾い「私は預かるだけ。無責任だもん」と里親を探したら――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「責任」を描きました。
きょうも街を夜周り中の猫の遠藤平蔵は、自宅でひとり、物思いにふける女性に声をかけました。「おまいさん 泣いておるな、心で……」
女性の母は、夫が急死したときには貯金も年金もない状態でした。「無責任な……」と感じつつも、女性は働いて母を養い、介護し、看取ります。そのときには60歳になっていました。
ある日、女性は子猫を拾います。60歳の自分には「無責任だもん」と考え、「私は預かるだけ!里親さん探すよ」と決意します。
自分が帰ってくるのを玄関先で待っている子猫に、昼休みの数分間だけでも会いにいったり、抱っこしながら読書をしたり……「愛されるってこういうことか」と思った矢先、愛護団体から「里親さんの申し込み、やっときました!」と連絡が届きます。
里親家庭は仲のよさそうな4人家族でした。「これでいい 私これで責任果たせたよね…?」
そうつぶやく女性に、遠藤は「うん うん」と言いながらそっと寄り添うのでした。
作者の深谷さんは、年を重ねるごとに「迷惑をかけずに一生を全うする」ことを考えさせられると言います。「それができる人は、ごく少ないんですよね」
「還暦近くになって私も親の介護を多少していますが、同年代には親御さんを完全に養ったり、毎日介護したりと、大変な責任を負っている知人もいます」と話します。
親御さんを早くに亡くして苦労したり、親御さんに問題があって精神的な苦痛を払い離れざるをえなかったりした人も。
「先を考えると心細い限り」と言いながら、深谷さんは「何はなくとも気力はなくさずやっていきたいものです。いくつになっても子猫を拾うかもしれません」。
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞。単行本6巻(講談社)が2019年11月22日に発売された。
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