連載
#72 #父親のモヤモヤ
「対象はお前だけ」と言われても……子育てしやすい会社を目指す課長
【平成のモヤモヤを書籍化!】
結婚、仕事、単身、子育て、食などをテーマに、「昭和」の慣習・制度と新たな価値観の狭間を生きる、平成時代の家族の姿を追ったシリーズ「平成家族」が書籍になりました。橋田寿賀子さんの特別インタビューも収録。
男性の勤める会社は従業員数十人の建設会社です。道路舗装などの公共事業を主に手がけ、男性は施工状況のとりまとめから役所への対応、社内の経理・労務管理といった事務領域を十数人の内勤社員と担っています。
小学校高学年と低学年の子ども2人がいる男性。家事や育児は同じ年でパート勤務の妻と分担していますが、社内では少数派です。「上司や経営陣は子育てが終わった世代。しかも、パートナーに多くを任せてきた人ばかりです。家庭の事情を訴えても『お前の家ではそうなんだろ?』という反応で、当事者意識はありません」
その中で、男性が職場環境の改善に取り組んだのは、数年前からです。背景には、大きな人手不足がありました。「仕事が大変、汚い、給料が安い」などと言われることもある建設業において、10年ほど前から人材を集めることが難しくなっていました。特に若手は、地場の大手と争奪戦に。当時から人事を担当していた男性は、若手社員の声に耳を傾けました。
「話を聞くと、『とにかく朝が早く、昼夜逆転した夜間工事担当になることもあってつらい』『給料を上げて欲しい』などの意見が出てきました。働きたいと思える会社にするために、給与の見直しと時間管理の厳格化は急務と考えたんです」
若い世代に興味を持ってもらえるよう、給与のベースアップや仕事の分業化、「時間外や休日勤務をさせない」という環境を男性が先頭になって整備しました。経営陣を説得して、勤務時間や有休取得などに関わる就業規則を変更。「変えただけではだめで、使った実績がないと後輩たちが使えるものにならない」と子どものための看護休暇や半日単位での有休など、自ら制度を使うことも意識的にしたと言います。
こうした取り組みによって、会社は子育て応援企業の認証を行政から受けました。そして、昨年夏には30代前半の男性が中途入社。3人目の子どもが生まれたばかりで、会社にとって久しぶりの子育て世代でした。「子育てに優しそう。親しみがあった」という入社動機に、制度改善をしてきた男性は手応えを感じましたが、会社からの評価は芳しいものではありませんでした。
「経営陣からは『給与のベースアップで、応募してきているだけ』という評価。給与以外の取り組みは『対象者は社内でお前だけだから……』と自分の都合で制度変更したかのように直属の上司から言われる始末でした」
そもそも、柔軟な働き方ができるのは「建設業ではごく一部の大企業だけ」と語る男性。「公共事業は発注者である官庁が特別な手配をしてくれない限り、現場を止めることが許されない」。一方、子育てだけではなく、介護など家族のケアと仕事の両立はますます求められています。
「家族の問題は『当事者にならないと分からない』部分が多く、私も孤立することが多かったですが、当事者の声を反映した働き方が醸成されないと、私の会社だけでなく業界そのものの存亡が危ういです」。中途入社した男性は現場の施工担当として働いています。「彼が会社の中心を担うようになる頃には、仕事と家庭の両立が当たり前になってほしい。そのためにも、自分ができることはこれからもしていきます」
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