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連載

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#18 ざんねんじゃない!マンボウの世界

マンボウ、90年前に存在した謎の利用法「ここまで跳ねるとは…」

子どもたちが遊んでいたというマンボウの「軟骨ボール」とは!?

マンボウの軟骨から「スーパーボール」のようなボールが作れる…?
マンボウの軟骨から「スーパーボール」のようなボールが作れる…? 出典: 澤井悦郎さん提供

目次

不思議な見た目から水族館でも人気で、たくさんの人に愛されているマンボウ。人とのつながりも深く、食用としても親しまれてきましたが、およそ90年前には意外な形で利用されていたことがわかりました。マンボウの軟骨を丸く削り、子どもたちが「スーパーボール」のようにして遊んでいたというのです。実際に「軟骨ボール」を作って検証した研究者に聞きました。

きっかけは「探偵!ナイトスクープ」

ことの発端は、人気テレビ番組の「探偵!ナイトスクープ」(朝日放送テレビ)に寄せられた依頼でした。依頼者は、他界した祖父から聞いていた、ある話が気になっていました。

依頼者の祖父は、幼少期を佐賀県北部の呼子町(現在の唐津市)の漁村で過ごしました。そこの子どもたちはマンボウ類が浜に打ち上げられたり、漁網にかかったりすると、その軟骨をもらい、ボール状にして弾ませて遊んでいたというのです。スーパーボールが普及する前の1920年代後半ごろの話ですが、マンボウの「軟骨ボール」はスーパーボールのようによく弾むものだったと聞いていたそうです。
「本当にマンボウの軟骨はスーパーボールのように弾むのか調べて欲しい」というのが依頼の内容でした(番組は2019年9月13日に放送)。そこで白羽の矢が立ったのが、withnewsでもおなじみのマンボウ研究者・澤井悦郎さんです。「マンボウのひみつ」(岩波ジュニア新書)などの著書があります。

今回、この依頼から明らかになったマンボウの利用法が、科学論文になったことを機に、改めて取材しました。

食用だけじゃない、マンボウと人とのつながり

そもそも、生き物の体がボールの素材として使われることは珍しくありません。ラグビーボールの起源は豚の膀胱と牛皮で作られたものとされ、硬式野球のボールは今も馬皮または牛皮が使用されています。

澤井さんによると、マンボウの皮膚も例外ではなかったようです。野球ボールが普及する前、漁村の子どもたちがマンボウ類の皮膚を加工して、野球ボールの代わりにして遊んでいたという文献もあるといいます。

マンボウと人は、歴史的にも長いつながりがあります。今のところマンボウが明確に記されている日本最古の文献は、1636年の料理本「料理物語(寛永十三年版)」です。作者は不明ですが、このときマンボウは「うきき」という名前で、食材として登場しています。また栗本丹洲が1825年に著した本『翻車考』には、マンボウの表皮は刀の「さや」や「柄巻」として使われたと書かれています。
マンボウの歴史は長い。江戸時代、栗本丹洲(1825)『翻車考』に掲載されている絵。
マンボウの歴史は長い。江戸時代、栗本丹洲(1825)『翻車考』に掲載されている絵。 出典:国立国会図書館デジタルコレクション
しかし、澤井さんは「マンボウの軟骨をボール代わりにして遊んだという話は『探偵!ナイトスクープ』から初めて聞いて驚きました。しかもそれがスーパーボールのように弾むというのも、全く想像できませんでした」と振り返ります。というのも、マンボウの軟骨は、乾燥させたり味噌や梅酢に漬けたり、食用としては知られていたものの、それ以外の用途は知られていなかったためです。

スーパーボールの約70%の跳ね返り

「軟骨ボール」の再現をするために使用したのは、千葉県南房総市周辺の沖にある定置網によって漁獲された、全長111cmのマンボウです。マンボウの「背びれ」「しりびれ」の根元には大きな軟骨の塊があり、番組ではしりびれ側を、研究には背びれ側が使われました。
「軟骨ボール」を再現するために使用されたマンボウ
「軟骨ボール」を再現するために使用されたマンボウ 出典: 澤井悦郎さん提供
ナイフで球形に削っていくのですが、「慣れないときれいに球形に削るのは難しい」と澤井さん。角を削り続けること1時間弱、直径2.5cm前後の「軟骨ボール」ができあがりました。
マンボウの軟骨を削ってボールにしていく
マンボウの軟骨を削ってボールにしていく 出典: 澤井悦郎さん提供
マンボウの軟骨から作られたボール(右)
マンボウの軟骨から作られたボール(右) 出典: 澤井悦郎さん提供
軟骨ボールの跳ね返り率を求めるために、1mの高さから自由落下させ、床から跳ね返った最初の高さを測定。5回の測定の平均値から、軟骨ボールと市販のスーパーボールを比べた結果、軟骨ボールはスーパーボールが跳ね返る高さの70%ほどまで跳ね返ることがわかりました。
「軟骨ボール」は自由落下した高さの50%以上の高さまで跳ね返った
「軟骨ボール」は自由落下した高さの50%以上の高さまで跳ね返った 出典: 澤井悦郎さん提供
軟骨ボールを床に向かって強く叩きつけた時の動画を見ると、叩きつけた人の身長の約1.5倍の高さまで跳ね返っているのがわかります。
【動画】マンボウの軟骨でつくった「軟骨ボール」が跳ね返る様子。軟骨ボールを床に叩き付けているのは、共同研究者である東京海洋大学4年(当時)の吉原もも乃さん 出典: 吉原もも乃さん提供
澤井さんは「マンボウの軟骨にここまでの弾性があるとは知らなかった」と驚きを口にします。と同時に「何らかの形として記録に残さないと忘れ去られてしまう」と感じたといいます。そうして、かつて呼子町の漁村で行われていた遊び文化を、論文として記録しました。

また番組の放送後、マンボウの軟骨は水分が多く含まれることが新たにわかり、論文では軟骨ボールは常温で放置すると腐ってしまう可能性や、水分が抜けると変形して弾まなくなる可能性も示唆されています。澤井さんは「子どもたちがスーパーボールの代わりとして遊べた期間は短かったのでは」と話しています。

謎が残る「軟骨ボール」の起源

マンボウ類の軟骨を使った遊び文化が、いつごろからあるものなのか、誰が発見したのか、呼子町特有のものなのかというのは、澤井さんも全くわからないといいます。もしかすると他にもマンボウと人との関わりを示す伝承がどこかに残されている可能性がありますが、今回の事例から、それは現在失われつつある状況であると考えられました。

澤井さんは「軟骨ボールの大きさを変えて実験するとどうなるのかはわかっていないので、継続研究は子どもの夏休みの自由研究にいいかもしれない」とも提案。しかし、ある程度の大きさのマンボウを手に入れる必要があるため、「実際に軟骨ボールを作るのは結構大変だと思う」とのことです。

<さわい・えつろう>
1985年奈良県生まれ。マンボウ研究者。3年前の今日、2017年7月19日に、マンボウ属では125年ぶりとなる新種「カクレマンボウ」を発表、名付け親となる。著書に「マンボウのひみつ」(岩波ジュニア新書)「マンボウは上を向いてねむるのか」(ポプラ社)がある。広島大学で博士号取得後は「マンボウなんでも博物館」というサークル名で同人活動・研究調査を行い、Twitterでも情報を発信している(@manboumuseum)。カクレマンボウの発表3周年を記念して、マンボウ類の総合情報サイト『マンボウなんでも博物館』(https://manboumuseum.com/)を本日オープン。

   ◇
参考文献:澤井悦郎・吉原もも乃.2020.昔の漁村における子供の遊び文化の再現―マンボウの軟骨から作られたボールの検証.Biostory, 33: 102-107. 

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