連載
#7 ネットのよこみち
オンライン法要、昔なら大論争に…お坊さん便の衝撃、コロナ禍と仏事
期待したいZoom版「#坊さんあるある」
まだまだ収まりそうにない新型コロナウイルス。感染拡大防止の観点から、今年のお盆は帰省しないという人も多そうだ。そして、葬儀や仏事のオンライン化が急速に進行している。ライブ配信で葬儀や法要に“参加“でき、お香典・お布施はクレジットカード決済といったサービスが続々登場するなか、築地本願寺もZoomでのオンライン法要サービスを発表。僧侶がモニターの前で動画配信をしている様子が報じられると、ネット上では、その歴史的な装いと近代技術という“ギャップ”ある絵面が大きな話題になった。かつては、物議を醸したこともある「仏事とネット」の関係。その変遷をたどりながら、未来の法要について考える。(吉河未布)
ついにお葬式や法要までインターネット!
コロナ禍の今となっては、“まあ、そうなるよね”といった納得感しかない。が、そもそも、“足を運んでナンボ”という考え方が根強く、“形式”を大事にしてきた「葬」とネットのコラボレーションは、過去には軋轢(あつれき)を生んだこともあった。
ネット上でのお坊さん紹介サービスというところでは、イオンが2010年5月に全国展開。しかし全日本仏教会(以下「全仏」)の指摘により、誤解を招く表現があったことから「寺院ご紹介」に切り替えたうえ、お布施として明記した全国統一価格の削除を余儀なくされたことがある(注:現在は価格表示)。お布施はあくまでも“気持ち”であって、受け取る側が金額をバッチリ明記する“対価”ではないといった理由だ。
しかし時代がすすむと、2015年にはAmazonに「お坊さん便」なるサービスが出品された。
「お坊さん便」は、株式会社よりそう(旧:株式会社みんれび)が手がける僧侶の定額手配サービス。全国にお坊さんを派遣することが可能で、ポチッと注文、「お布施」はクレジットカードで決済できる。
同社はこのサービスを2013年から自社サイトにて行っていたが、2015年12月8日から、Amazonに展開したのだ。大体なんでも揃いそうなAmazonがついに「お坊さん」の取り扱いを開始したとあって、ネット界には当時激震が走った。「現在在庫切れです」「ほしい物リストに追加する」などという表示にジワジワくる声が続出したほか、どうしてもツッコまずにいられない人からは、
「24日に来てもらえます パーティーにて読経を上げてもらう予定です」
「うちの畑にカラスが寄り付くようになってしまい、お坊さんを購入しました。頭の反射光とかかしとしての役割で無事カラスを追い払えました!」
など、ネタレビューが投下される始末だった(※現在は削除されているもよう)。
ただし、仏事はとにかく面倒で、お布施だの心づけだの、料金設定もよくわからないというイメージのなか、その利便性と明朗会計っぷりには好印象を抱く声が多かったのは事実。一方で、“お坊さんをモノとして扱う感じ”には不思議な感覚を抱く人もおり、また全仏が抗議するなど波紋を呼んだ結果、Amazonからは2019年10月24日に撤退となってしまった。
そうはいっても、じわじわとIT化の波が押し寄せていたお寺業界。2016年1月には、寺幸巡株式会社が、ネットで注文できるオーダーメイドの法事動画配信サービス「どこでもお墓参」(どこでもおぼーさん)を開始。翌2017年3月にはこれをリニューアルし、お坊さんがお墓参りを代行する様子をYouTubeにてライブ配信すると発表した。
これには“それは意味があるのか……?”というツッコみの声があがる反面、 “行っとかなくちゃ、と気にしつつもなかなか行けない人にとっては、精神的に落ち着くのでは”という見方も。いずれにしろ、少子高齢化や人口の都市集中が進み、法事やお墓参りには、手間数、労力をかけることこそが気持ちの表明……とばかりも言い切れなくなっている時代をよく反映したサービスといえただろう。
そこに来て、社会を襲ったのが新型コロナウイルスによる外出自粛だった。
毎日のように都道府県別感染者が発表される中、帰省をしようとする子どもに「帰ってくるな」という返事をする親の悲痛な叫びが話題になった。
3月24日には、株式会社メモリードが、ライブ配信で葬儀参列ができる新サービスを開始した。お香典はクレジットカード決済だ。同30日には、アイフィットさいきグループが葬儀中継サービス「YouTube LIVE で安心してスマ葬」を発表。葬儀の後に会食する「精進落とし」も、オンラインで行われた。
また、5月7日からは、既成教団の寺院住職たちが発起人となって設立した一般社団法人法要普及協会が、オンラインで法事を行うサービス「つながる法要 以心伝心」をスタート。支払いは利用後に金額を決める「お気持ち後払い」で、クレジットか郵便振込で支払う。
前述した築地本願寺の「Zoom」を通した「オンライン法要」は、受け付け開始から1週間で「一周忌」や「三回忌」などの法要の予約が6件入ったと報じられている。仏事においても、時代はすっかりオンラインである。
ところでTwitter上では、2012年頃 からお盆の時期の風物詩として定着してきていたのが、「#坊さんあるある」。行った家で犬に吠えられたり、心遣いに癒やされたり、“熱中僧”になりかかる、などといったお坊さんならではのエピソードが並ぶもので、お坊さんたちの人間臭さが垣間見える本音の数々は、毎年人気を博している。
今後は、「バーチャル背景にしてみたら頭部が一体化した」「参加者が次々に寝落ちして反応がなくなった」「回線が弱くて音声のみの配信。格好もラフでいいので好評だった」(※すべて妄想)など、これまでにない新しい光景が繰り広げられるかもしれない。
さまざまな風物詩が、一気にひっくり返されている2020年の夏。新しい生活様式として、オンライン仏事がどこまで定着するのかは未知数だが、お盆の様子がさま変わりするのは間違いなさそう。コロナの影響で行動に制限が加わるなか、ネットではどういった話題が盛り上がるのだろうか。
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