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「空気が味方をしてくれる」落ち込んだ自分を救った先生のことば

母を亡くした中学1年生の時から通った卓球教室で出会った「不思議な先生」 ※画像はイメージです
母を亡くした中学1年生の時から通った卓球教室で出会った「不思議な先生」 ※画像はイメージです

目次

今年、コロナ禍の中で大学生になった江本光さん(19)を支えるのは、中高生時代に通った卓球教室の先生の存在でした。中学1年生で母親を亡くした江本さんに、厳しくも親身に寄り添ってくれたといいます。試合で思うような結果が出なかった時、先生がかけてくれたことばは「空気が味方をしてくれる」でした。

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不思議な力を持った先生

中学1年生の冬に母親が亡くなった。ちょうどその頃、学校の卓球部の顧問から、他の同級生と一緒に近くの卓球教室を紹介された。最初は週2回程度通っていた教室だったが、2年の夏にはほぼ毎日、放課後に通うようになっていた。卓球をしているときは、母の不在を少し忘れられるような気がした。忘れるためにも、早く日常を取り戻そうとしていた。

その卓球教室で指導してくれたのが、元高校教師の、いまでは70歳を超える「先生」だった。催眠術の話をしたり、気功のような力を使ったり、不思議な魅力を持った先生だった。考えていることを見抜かれることもしばしば。卓球の試合中はもちろんのこと、一日だけ友達と旅行に行くため教室を休んだ時も、「どうせ遊びに行っているのだろう」とぼやいていたと聞き、さすがに驚いた。

ほぼ毎日、通うようになった卓球教室 ※画像はイメージです
ほぼ毎日、通うようになった卓球教室 ※画像はイメージです

「へんなことはできない」安心感と緊張感

元教師というのもあり勉強にも厳しかった。卓球教室でありながら、学校での成績が下がると、練習をさせてもらえない。大会直前でも卓球教室に勉強だけしにいくこともあった。いつもどこか見透かされているから、「へんなことはできない」。先生の前では安心感とともに緊張感があった。

教室は学校から車で15分ほどかかった。放課後、学校から教室に向かう時や、帰宅時は先生が車で送迎してくれた。車で移動する時間や練習の合間など、自然と先生との時間は増え、卓球だけでなく、人との接し方や考える大切さ、計画の立て方など、いろいろなことを話した。

卓球教室への送迎もしてくれた先生。車の中では様々なことを教わった ※画像はイメージです
卓球教室への送迎もしてくれた先生。車の中では様々なことを教わった ※画像はイメージです

「空気に混ざって背中を押してくれている」

あるとき、自分のメンタルの弱さに落ち込んだことがあった。試合中、競り合うと緊張して負けてしまう。すると先生は「空気が味方をしてくれる」という。練習で流した汗や、亡くなった母親も、すべてが「空気に混ざって背中を押してくれている」というのだ。しっくり来ることばだった。そう思うと、心強く、力がわき上がってくる。見守られているなら、どんな些細なことでも全力でやろう。襟を正される思いだった。

高校に進学後も没頭した卓球だったが、インターハイには手が届かず、大学受験を機に教室は辞めてしまった。今は故郷を離れ、大学で数学を専攻している。新たな夢は、先生のように、卓球部の顧問をつとめる高校教師になることだ。卓球教室で小さい子に勉強を教え、後輩の練習相手になるうちに、教える面白さに気づいたのだ。

以前、先生に、他の人のようになるには同じ事をするのではなく、相手より一つレベルの高いことをしろと言われた。先生のようになれるのか。正直、超えられる気はしない。だが数学で論理的な考え方を鍛えたり、グローバルな視点を養ったり、自分なりのやり方は見つけられそうだ。いまは先生から教えてもらった数々のことばも、空気になって味方してくれている。

将来の夢は「先生のように、卓球部の顧問をつとめる高校教師になること」と語る江本光さん=岐阜県瑞浪市
将来の夢は「先生のように、卓球部の顧問をつとめる高校教師になること」と語る江本光さん=岐阜県瑞浪市 出典: 朝日新聞

 

江本さんは、2019年、「空気が味方をしてくれる」ということばとエピソードを作文にし、「私の折々のことばコンテスト」で朝日新聞社賞を受賞しました。2020年も中高生を対象に同コンテストを開催します。心に残る大切なことばとそれにまつわるエピソードを教えてください。詳細は応募ページ(https://www.asahi.com/event/kotoba/)をご覧ください。
 

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