連載
#68 #父親のモヤモヤ
職場に迷惑…ではなく、育休避けた「本音」 今は自身に宿題課す男性
男性は、専業主婦の妻と、未就学児3人の子どもと暮らしています。両親は敷地内に住んでいて、いわゆる「敷地内同居」です。「同居は息が詰まるだろうと思いやめました」。日中、子ども3人のうち1人は保育園に通っています。残り2人の子どもを、妻と男性の母親とでみているそうです。
男性は、教育関係の仕事に就いています。仕事を終えて帰宅するのは午後7時ごろ。家族の夕食とお風呂は済んでいるので、寝るまでの間は「たたかいごっこ」などで、子どもたちの遊び相手になります。土日は、子どもたちを積極的に外に連れ出しています。「『ガチャガチャしよう』『泥遊びは?』と、何とか子どもの関心を引こうと必死です。妻の負担を少しでも軽くしたいという思いです」
それでも、家庭の負担は妻に偏っていると言います。掃除、洗濯、料理、買い物、数え切れない家事と子育てを四六時中こなす妻。「会社で言えば、『ブラック企業』ですよね。それくらいハードだとは理解しています」
子どもとの向き合い方に神経をすり減らす毎日だと言います。「子どもは、お出かけするとなれば、急にうんちしたい、おしっこしたい、この服は嫌だ、あげくの果てに行きたくないとダダをこねます。私自身、振り回され続け、じっとたえます。妻は、何倍もこうした経験をしているのでしょう」。大人同士の付き合いのように時間が読めて、何が起こるかある程度予測できる秩序立った時間とはまったく異質と感じています。
2人目、3人目と子どもが増えていった時は、育児休業を取ることも考えました。ところが、ハードルも感じました。
「育休を取れば職場に穴があき、迷惑をかけてしまいます。それは事実です」。男性は、現場の責任者で穴埋めは容易ではありません。「仕事場には、男性で育休を取った人がおらず、ロールモデルがいません。これも事実です」。育休明けの働き方は? キャリアはどうなる? 先進事例がなく不安だとも言います。
「でも…」と、男性は自問自答したそうです。
「やっぱり言い訳なんです。組織だから、何とかして穴埋めはするでしょう。ロールモデルがいないなら、自分がなればいい。会社や社会の風潮のせいにしていますが、本音を言えば子育ては大変。『子育てが大変だから』取らないんです」
妻は、男性が稼ぎ、妻自身が家庭を担う役割分担について「理解」しているそうです。「ただ、私の仕事が大変なので、強く要求をしないだけです。妻は私に家庭の役割をもっと担ってほしいと考えています」。そもそも、家庭を中心的に支えることについても、子どもが小さいうちは男性に稼ぐことを任せているだけで、将来は働くことを考えているそうです。
男性はこうも話します。「半日の休みを取る。早く帰る。とにかく家庭に関わる時間を増やすこと。まずは、そこから動きたいと思います」
男性が「#父親のモヤモヤ」企画班にメールを寄せてくれたことで取材が始まりました。記者(39)は、共働きの妻と4歳の娘を育てています。父親の子育てをめぐり、ロールモデルがあまりおらず、キャリア不安も抱きがちなことなどに共感し、男性に話を聞いてみたいと思いました。
一方で、「子育てが大変だから」と育休を避けてきた理由を語ったことについて、詳しく知りたいとも思いました。男性は、子育てについて「超重要任務」と表現し、父親が自身の時間を作ることの優先度は「最下位」と言い切っています。それでも、社会を見渡せば、子育ての負担は女性に大きく偏っています。その現状を変えていくために、男性はもっと内面を省みないといけない。まずは自分自身から――。取材を進めるうちに、そうした男性の考えを知ることができました。
男性は「仕事も子育ても家族も大切にして、さらに自分を磨く時間をいかに確保するかが、世の中の男性に課せられた宿題ではないでしょうか」と投げかけています。「私自身、この宿題に取り組み中です」とも話しています。「宿題」の進み具合を、いつか聞いてみたいと思います。
記事に関する感想をお寄せください。「帰省」に関するモヤモヤも募ります。「義実家に行くのは負担」「妻と両親との間で気を遣う」といった声も聞かれます。新型コロナの影響で帰省のあり方も変わりそうです。検討中の新たな試みもお聞かせください。
いずれも連絡先を明記のうえ、メール(seikatsu@asahi.com)で、朝日新聞文化くらし報道部「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。
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