思い出した志望動機、でも


前回、「先生に褒められたことがうれしかった」という理由で高校の美術科に進んだことを思い出した男子くん。
理由を思い出してスッキリするかと思いきや、「本当にやりたかったのかな」「中学の先生が好きだっただけかもな」と、浮かない表情のまま、美術の課題に取り組みます。
男子くんの「溝引き」に驚愕



男子くんが課題で取り組んでいた「溝引き」(筆で直線を描く技法)を見て、「なにそれこわい」と口にする新米くんは、男子くんの技術に、なんだか興奮した様子です。
多分男子くんのことを褒めているんだろうけど、ストレートな表現ではないだけに、新米くんの感情が読めません。
そこに現れたのは、美術科のもう一人の教師「黒光先生」です。溝引きの説明をしつつ、新米くんに「「なに?新井くん知らないの?困る~」。そこでいったんクールダウンした新米くんはこう話します。
「いや、それは知ってますけど…高1でこんなにきれいに塗れるもんなんすね」
これはもしかしたら、一般にイメージする「生徒と先生」という関係よりは、美術という共通項を持つ者としての尊敬だったり、うらやましさの感情なのかもしれません。
放課後の教室、一人居残るあの人





場面は変わり、放課後。
男子くんは、陸上部の練習を終え、忘れ物をとりに教室に向かいます。
すると、教室にはぽつんと明かりがともっています。そっと教室をのぞき込むと、そこにいたのは美術の授業で男子くんの溝引きに、なんともいえない表情を浮かべていた新米くんでした。
男子くんは、教壇横の机に向かっている新米くんに気付きながらも、「見てはいけないものを見てしまったのでは…」と、声をかけずに教室から出ようとします。
ですが、そんな男子くんに新米くんが気づかないわけはなく、「気をつけて帰れよ!」と声をかけます。
その声で男子くんは、新米くんが何をしているのかに気づきます。
新米くんが集中して取り組んでいたのは、あの「溝引き」でした。周りに並べられた何枚もの画用紙からは、新米くんが相当練習を続けていたことがわかります。
ですが男子くんが抱いた感想は、「しかしヘタだな…力入りすぎ」。
先生、なんで教師になったの?


男子くんの厳しい評価は続きます。
「絵の具の粘度もだめ。色面もムラだらけ」――。
そこで突然、男子くんは「先生ってなんで教師やろうと思ったんですか?」と質問します。
溝引きを続けながら「ん?ん~…」と新米くん。考えた末、笑顔で伝えた答えは「お金のため」でした。
男子くんは「そんなこと言っちゃっていいの…!?」と衝撃を受けています。
ですよね。
「大げさにほめられてもしゃくにさわる」
同じ美術を志す者ではありますが、男子くんが普段接している同級生とは別の角度から物事をとらえているであろう新米くんが登場しました。
まさにいま、将来の夢や進路について悩んでいる男子くんは、どんな気持ちで新米くんとやりとりしていたのでしょうか。作者のしろやぎさんに聞きました。
高校生になって適切な道具の扱い、やり方を勉強し何度も練習した男子くんは溝引きなんて難なくできてしまいます。
中学の頃、あんなに苦労して描いた真っ直ぐな線が引けても感動なんてありません。
「そんなできて当たり前の基礎技能を改めて取り上げて大袈裟に褒められても逆に癇に障るわ…」という場面です。
どうせ褒めるなら、今の自分にとって新しい視点になるような言葉が欲しかったけど、そこで腹を立てるほど「新井T」(新米くん)に興味はありません。
放課後、居残って溝引きの練習をしている新井Tに見つかって、教師になった理由を聞いたのは、別に話したいこともないし、適当に自分語りさせておけばいいかな、くらいの気持ちだと思います。……いや、やっぱりこのダメそうな人が何て答えるか興味はあったのかも。
人と向き合うときのはっきりした気持ちなんて、男子くん自身もわからないのかもしれません。
【次回予告】
男子くんと新米くんとのやりとりが続きます。先生らしからぬ先生、新米くんは男子くんに何を語るのでしょうか…。
◇
withnewsでは、しろやぎさんの「あなたそれでも教師ですか」を毎週日曜日に配信予定です。新米くんを軸とした教育現場を描いていきます。
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