連載
#67 #父親のモヤモヤ
「専業主婦は、最高の仕事」 部活で留守がちな夫と築く「理想の形」
【平成のモヤモヤを書籍化!】
結婚、仕事、単身、子育て、食などをテーマに、「昭和」の慣習・制度と新たな価値観の狭間を生きる、平成時代の家族の姿を追ったシリーズ「平成家族」が書籍になりました。橋田寿賀子さんの特別インタビューも収録。
女性の子どもは、小学生と未就学児の3人。夫は教師です。部活動に熱心な学校で、休みは月に1日程度、合宿などの泊まりで年間計3カ月は不在と言います。「留守がちな父親に子どもが懐くはずもなく、夫が抱っこをすると子どもが号泣する時期もありました。部活の遠征時には、テレビ電話で話したり、写真を見せたりして『お父さんは頑張っているよ』と言ってきました」
それでも、いまの役割分担を「理想の形」と表現します。「夫は、生徒や保護者に愛され、部活で選手を強くすることが仕事。私は、家庭を守り、子どもを育てる。それがお互いを刺激し合う、よい形だと思います。夫に『イクメン』であることを求めたことはありません」。休みの日、子どもたちと懸命に遊んでくれることで十分と話します。
ただ、女性は「夫婦の形は、それぞれで違うはずです」とも話します。共働き世帯もあれば、専業主夫世帯もある。実情に応じた役割分担があるはずだと言います。「『男は仕事、女は家庭』と考えているわけではありません」
では、なぜ?
「私の両親も教師でした」。女性は述懐し、続けて次のようなことを教えてくれました。父親も部活に熱心で、家にいた記憶がほとんどなかったこと。母親は、女性が幼い頃に教師を辞めて専業主婦になったこと。両親は言い合いが多く、不安だったこと。母親はつらくなると「なんで私ばっかり」と言っていたこと――。
女性は、母親は専業主婦として重い負担を背負っていたのだと振り返ります。そうであれば、むしろ専業主婦を選ぶことを避けそうです。そうも尋ねてみました。
「母親は、時間に追われていました。まるで仕事のよう。いつも『いま、忙しいから待ってて』という感じでした。『もっと、かまってほしい』。そんな感覚や不安は鮮明に覚えています」。女性が小学生の頃、きょうだいが体調を崩し、母親もつきっきりにならざるを得なかった時があります。何かの拍子に感情が爆発し、「私なんか、生まれてこなかった方がよかったんでしょ!」と言いました。その瞬間、ほおをたたかれたそうです。
「たたかれたのは一度だけと記憶しています。それでも、子どもながらに、仮に自分に子どもができても不安な気持ちにさせたくない。そう強く思うようになりました」。こうした経緯から、専業主婦として、むしろ家庭にいっそう注力しようと考えるようになったそうです。「子どもとの時間を選ぶことには相当な覚悟と勇気がいります。自分が親になって、そうした決断をした母を尊敬するようにもなりました」
「専業主婦であることで、時間をかけた関わりができます」
朝は子どもたちと散歩をし、近所の人たちへのあいさつもします。「いまは夫が遠征で不在なんです」。いつでも助けを得られるように、近況報告も欠かしません。
洗濯も、料理も、時間はかかっても子どもを巻き込んでいると言います。カブトムシの幼虫を探して、2世、3世と育てたり、自転車や三輪車に子どもが好きな色のペンキを塗ったりもしてきました。「時間があればこそ、だと思います」
一方で、「子育てはきつい」とも話します。「疲れてイライラすると、子どもにあたってしまうこともあります。そんな時は、自分の気持ちを説明し、謝るようにしています」
女性は、数年経ち、末子が小学校にあがったタイミングで、働きたいとも思っています。「人に体を動かす楽しさを教えたいです。本当は心のどこかで体育教師になりたかったのかもしれません」。これまで、スポーツクラブで指導していた経験もあります。「男性の役割はこう、女性の役割はこうではなくて、夫婦や家族同士でどういう形がよいのか、探っていくしかないのではないでしょうか」
記事に関する感想をお寄せください。「帰省」に関するモヤモヤも募ります。「義実家に行くのは負担」「妻と両親との間で気を遣う」といった声も聞かれます。新型コロナの影響で帰省のあり方も変わりそうです。検討中の新たな試みもお聞かせください。
いずれも連絡先を明記のうえ、メール(seikatsu@asahi.com)で、朝日新聞文化くらし報道部「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。
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