連載
#66 #父親のモヤモヤ
育休後の時短勤務 感謝の一方「はれ物」扱い感じ募った男性の罪悪感
営業職だった男性は5年前、同じ会社だった3歳年下の女性と結婚。4年前に長男が誕生しました。
妻は、結婚の前に転職。仕事が好きで、新しい挑戦にやりがいを持っている姿を、男性は応援していました。仕事人間の父親、専業主婦の母親のもとで育ったことも大きいと言います。
「子供の前ではあれこれ不満を言いながらも、父親には依存せざるを得ない。そんな母親を見てきました。パートナーとなる人には、自立した人生を送ってほしいという思いがありました」
妊娠が分かった時点で、子育ては夫婦で分担することを決めたという男性。長男の誕生から保育園に入れるようになるまでの10カ月間、育休を取りました。
半年以上の男性育休は、社内で知る限り例がなく、上司や同僚も最初はとまどっていましたが、快く送り出してくれたそうです。一方、「モヤモヤの種」は親の理解のなさでした。
「『育休なんて取って、会社に居場所がなくなるんじゃないか』と私の父親から、妻の父親からも繰り返し言われました。『男はやっぱり仕事』とことあるごとに言う親族も。私を心配しているとは分かっているのですが、距離は広がっていきました」
育休中は料理や掃除、おむつ替えに夜泣きの対応など、「授乳以外のことは積極的に引き受けました」。妻は「体力的につらいときもあったので、夫の協力はありがたかったです」と振り返ります。
初めての子育ては思い通りにならないことの連続で大変な反面、とても楽しいものだったと言う男性。「仕事と自分のことだけをしていた日々が懐かしく感じられましたが、赤ちゃんの毎日の変化をすぐ横で感じることができ、充実していました」
育休復帰後も夫婦で偏りなく育児を分担しようと考え、男性は10時に出社し、17時に帰宅する育児時短勤務を選択。「この制度がなければ子育てとの両立は成り立たなかった」と振り返りますが、職場での立ち位置も難しくなり、モヤモヤの中心は仕事に移っていきました。
復帰の際も職場はあたたかく迎えてくれて、久しぶりの仕事も「新鮮だった」と言います。長男が病気の時は妻と仕事を調整し乗り切るなど、時短勤務も初めは順調なスタートでした。
しかし次第に、これまでのように「働けない」ことで周りへの罪悪感が募り始めます。育休前に、外回りの営業から営業企画に移り、内勤が中心でしたが、夕方からの会議やイベントなど、終了の時間が読みづらかったり、急な作業が発生したりしそうな仕事からは外れていきました。
結果として、男性の仕事は事務作業が中心になりました。それも、繁忙期だと残業する同僚を尻目に定時で退社することに。「周りは『気にしないで』と言ってくれましたが、そういうわけにもいかず、どうしてもはれ物に触るような扱いになっていると感じてしまって。先例がないから仕方ないのですが、申し訳なさや現状への焦燥感に耐えきれなくなっていきました」
復帰から1年が過ぎた2018年に、長女が誕生。今度は半年間の育休を取りました。復帰後は商品管理の部門に異動していましたが、育児との両立のために再び時短勤務。同じような気持ちがまた、積み重なっていきました。
「子育てのために時短はとてもありがたいのですが、このままずっと、いまの事務作業を続けていいのだろうか。数年後には子供の状況が変わるとしても、そのときの自分は他の仕事に挑戦できるだろうか、など先の見えない不安がつきまとっていました」
そして昨年春、組織変更があったタイミングで10年以上勤めた会社を辞めました。「会社は『3~4年は子育てに専念してもいいんじゃないか』と引き留めてくれましたが、男性の育休・育児時短の前例がないため組織の中での将来をイメージするのが難しく、いずれ本当に重荷になってしまうのではと悩みました。それならば、新しい 体制になるタイミングで、個人としてバランスが取れる働き方を模索してみようと思ったんです」
男性は現在、法律系の資格を生かして個人で働いています。「法学部出身なので、なじみがあったのと、仕事にプラスになる機会もあるかと思い、資格を取っていました。依頼者に対して成果を出せば、自分の裁量で時間もやりくりできるので、時短で抱えていたストレスは減りました」
「ただ当然、良いことばかりではありません。収入は一からですし、仕事の責任はすべて自分が背負います。むしろ会社にいたほうがバランスがとりやすかったのでは、と思うこともしばしばです」。新型コロナウイルスの感染拡大により、保育園への登園自粛要請が出ると、在宅でも子どもといながら仕事をする難しさもありました。
それでも、男性に後悔はありません。父親同士のネットワークにつながればと、昨年から自治体の男女平等参画委員に。コロナ禍では、売り上げが落ちた中小企業の支援などに日々取り組んでいます。
「子育ては親の数だけやり方があり、『これをやれば絶対にうまくいく』というものはそうそうないと思います。その都度その都度、悩み続けながらも、家族で模索を続けていければと思います」
「会社から配慮の言葉はあるのに、はれ物扱いされていると感じるのは、育休復帰後に時短勤務をする女性の多くが経験してきたことです」。こう話すのは育休後コンサルタントの山口理栄さんです。子育てと仕事の両立の悩みを共有する「育休後カフェ」の開催や管理職向けの研修など、個人と企業の双方へのサポートをしています。
日本では、成果ではなく働いた時間で評価されがちです。女性の場合は、時短で成果を出す働き方が出てきていますが、男性の場合は「そもそもケースが少ない」と山口さん。悩みを共有できずに孤立してしまいがちだと指摘します。
「上司と話し合う機会を設けるなどした上で、それでも状況が改善しない場合は、転職などで環境を変えるのも選択肢の一つです」
時間を有効活用できるメリットもありますが、いくら効率よく仕事をしても適切に評価されないこともあり、時短勤務が不利になるケースも目立ちます。ともに会社員で、育休から復帰する夫婦には、「フルタイムで残業はしない」働き方を提案するという山口さん。
「残念ながら、仕事の水準や評価が時短だと不利に働く場合が少なくありません。夫婦で働き方を調整した上で、足りなければベビーシッターの利用などのやりくりをして、通常勤務を目指した方がいいです」
その中で、いま広がりつつあるオンラインでの打ち合わせや在宅勤務は「働く時間や場所の制約に悩んでいた子育て世代にはプラスになっている」と指摘します。「在宅勤務の普及が仕事の成果による評価を推し進めれば、時短勤務やフルタイムの枠組みの意義も薄れてくるかもしれません。そうなれば、いっそう子育ての事情に応じた働き方が選びやすくなります」
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いずれも連絡先を明記のうえ、メール(seikatsu@asahi.com)で、朝日新聞文化くらし報道部「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。
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