連載
#44 #やさしい日本語
「弁当ただであげます」中国料理店主が知った日本語「かさ地蔵」
【自動翻訳用】ふりがな なし
■きょうのことば
「かさ地蔵」 ……「かさこ地蔵」 とも言います。日本の有名な昔話です。貧乏だけど、心優しい、おじいさんとおばあさんが良いことをしたら、家にたくさんの贈り物が届いた、という物語です。
■雪の降る大晦日のことでした
中華料理店「三巴湯火鍋」では、4月14日から6月2日まで、お弁当をただで配りました。新型コロナウイルスで働くことができない人や、困っている人がたくさん来ました。そして、店長の李さん(45)には、「いつもありがとう」「応援しています」と、たくさんの贈り物が届きました。
――李さんのお店の話を聞いて、日本人の同僚が「まるでかさ地蔵みたいだ」と言いました。李さんは、かさ地蔵という言葉を、聞いたことがありますか。
李さん「私ははじめて聞きました」
――「かさ地蔵」は、こんなお話しです。
むかしむかし、あるところに、貧乏だけど心優しい、おじいさんとおばあさんがいました。 ある年の大晦日(1年の最後の日)。 おじいさんは、自分で作った かさを町へ売りに行きました。お正月に食べるためのおもちを買おうと思っていました。
おじいさんは、5つのかさを持って出かけました。 家を出てすぐに、雪が降ってきました。 おじいさんが、村の一番遠いところまで来たら、お地蔵さま(おじぞうさま)が6つ、ならんで立っています。お地蔵さまの頭にも肩にも、雪が積もっていました。 これを見たおじいさんは、何もしないで、そこを通ることができませんでした 。
「お地蔵さま、雪が降って寒いだろうな。せめて、このかさをかぶってください」
おじいさんは、売ろうと思っていたかさを、お地蔵さんの頭にかぶせました。 でも、お地蔵さまは6つありましたが、おじいさんは、かさを5つしか持っていませんでした。 だから、おじいさんは自分のかさを脱いで、最後のお地蔵さまの頭にかぶせました 。
家へ帰って、おじいさんはおばあさんに、お地蔵さまのことを話しました。おばあさんは、「それは良い事をしましたね。おもちは、なくてもいいですよ」と喜んで言いました。
その夜、おじいさんとおばあさんはふしぎな歌を聞きました 。 「♪じいさんの家はどこだ。♪かさのお礼を、届けに来たぞ。」おじいさんの家の前でズシーン!と、何かを置く音がして、そのまま音は消えてしまいました。
おじいさんがそっと戸を開けたら、おじいさんのあげたかさをかぶったお地蔵さまたちの後ろ姿が見えました。 そして家の前には、お正月用のおもちやごちそうが山のようにたくさんありました。
■かさ地蔵の後ろ姿のように見えた八百屋さん
李さん「『かさ地蔵』はとても温かいストーリーですね」
――中国にも似た物語がありますね。「タニシ娘の恩返し(田螺姑娘)」「白蛇伝」などがありますね。日本では、「良いことをすると自分に返ってくる」という意味で「情けは人のためならず」ということわざもあります。この素朴な感覚は、日本にも中国にも 、あるようですね。
李さん「確かにそう思います。毎日のように野菜を店の前に置いてくれた八百屋さんには、一度も会うことができませんでした。お弁当を配った最後の日(6月2日)に、私は八百屋さんを私の店でずっと待っていましたが、八百屋さんは来ませんでした 。 でも一回だけ、野菜を届けてくれた人の後ろ姿を見たことがあります。私はその人をすぐ追いかけましたが、追いつくことができませんでした。『かさ地蔵』の物語を聞いて、その姿が最後の部分の『お地蔵様の後ろ姿』と重なりました……。八百屋さんのことはとてもありがたいと思っています」
■お弁当をあげて気がついたこと
――お店をまた始めましたね。どうですか。
李さん「今日最初に来たお客さんは、お弁当をよくもらいに来ていた人でした。店が始まる前からお店の前に来て、待っていました。
――李さんのお店の味がとても好きになったのでしょうか。それも一つの感謝の気持ちの表し方かもしれませんね。
李さん「そうですね。無料のお弁当でも、私が自慢している『店の味』は変えませんでしたから(笑)。無料でなくなっても、来てくれて、感謝しています。 でも、今回ただでお弁当を配って、『日本にも、貧乏で食事をほとんどすることができない人がいる』ことがわかりました。ゴミ箱から食べ物を探していた人も見ました……。 まだ小さい兄弟が二人でお弁当をもらいに来たこともあったので、子どもの貧困問題(貧乏な子どもがたくさんいること)もあらためて感じました。新型コロナで生活に困っている人が増えています。私たち食べ物の店をやっている人たちにできることは、温かい食事をただであげることぐらいです」
■本当に困っている人に食事をあげることを続けたい
――営業をまた始めた気持ちはいかがでしょうか。
李さん「しばらくの間は、店に来るお客さんが少なくても、仕方がない、と思っています。 お弁当をただであげることはやめましたが、もし本当にお腹がすいて困っている人がいれば、三巴湯(私の店)に来れば、その人になんとか食べ物をあげることができるようにしたいです。 食べ物の店をしているほかの人にも、お願いしたいです」
――「困っている人をそのままにすることはできない」という李さん気持ち。李さんに感謝して、李さんのお店を助けようとした人たちの気持ち。「かさ地蔵」のように、善意(ほかの人を助けたいと思う気持ち)と恩返し(自分が受けた感謝を返そうとする気持ち)が、これからもつながっていくといいですね。
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