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#52 #となりの外国人
「1日500個」弁当を無償提供 来日20年の店長が伝えたかった「感謝」
緊急事態宣言によって多くの飲食店が通常の営業ができなくなり、経営も打撃を受けています。そんな中、日本に来て20年になる中華料理店の店主が、毎日、無償でお弁当を提供し続けています。その数、1日500人分で「毎日のコストは約10万円」。それでも続けるのには理由がありました。
店長の李さん(45)は遼寧省出身です。日本に憧れて1998年に日本語学校で勉強するために来日し、その後、専門学校に進学しました。
卒業後に貿易会社に就職。中国へ出張する機会が多く、天津に本店がある火鍋料理の店「三巴湯火鍋」の味のとりこに。学生時代にアルバイトとして飲食業に携わっていたこともり、料理人になることを決意します。そして 2013年に念願だった自分のお店「三巴湯火鍋」(さんばたん)を開きました。
火鍋料理のしゃぶしゃぶのほか、串焼きなど、四川料理から東北料理まで200から300種類をつねに提供しています。
現在は錦糸町と新宿に二つのお店を持っており、李さん自身、日本に帰化しました。
お弁当の提供を始めたのは4月14日からです。
「お得意様のことを考えると、なんらかの形で料理を提供しようと思い、これまではやっていなかったお弁当を始めました」
4月7日に政府が緊急事態宣言を出したことで、李さんも4月10日から店を休業にしようと考えていました。
ところが、顔なじみのお客さんから、店の開店状況や出前に関する問い合わせが相次ぎました。
はじめは常連客へのサービスとして、無料でお弁当の提供をしようと思い、200人前を用意したという李さん。始めてみると、予想以上の人がお弁当を求めて店にやってきたそうです。
「それだけ、生活が苦しい人が目の前にいる」
そう感じた李さんは、4月14日から500人分に増やし「無償提供 毎日500食」の貼り紙も店外に貼るようにしました。
お弁当は「マーボー豆腐」、「チンジャオロース」、「ホイコーロー」、「野菜炒め」、「マーボーなす」など毎日4、5種類用意しています。
お昼と夜2回のお弁当を提供し、昼と夜のおかずも違うそうです。
李さんが自慢するのは、お店特製の「から揚げ弁当」です。味がしっかり染みこんでいて、中華風。「美味しいと評判ですよ」と胸を張ります。
お店に来る人の中には、感謝の気持ちとして、飲み物やお茶、お菓子を持ってくる人もいるそうです。
そのなかに、「爆食いに行きます」と日本語の手紙を渡したお客さんがいました。
「老板&みなさん」から始まる手紙に次のように書かれていました。
<いつもおいしいお弁当をありがとうございます! コロナが収束したら 爆食いしに行きます!! お身体を大事にしてください。応援しています!!>
老板は、中国語で「社長・ボス」の意味です。
李さんが自ら手渡したお弁当の数は、すでに1万個ちかくになりました。
お弁当を配り終えたころを見計らって、来店する一人のおじいさんがいました。
身なりは清潔で他のお客さんと変わらないように見えましたが、人が少ない時間を選んで来ているのが気になってました。
何日かたったとき、店の外に大きな荷物が置かれているのに気づきます。
「ホームレスの方なんだ」
李さんは、新しく弁当を一食作り、おじいさんに渡したそうです。
お弁当をもらう人の9割は日本人だと言います。
「日本は裕福だと思っていましたが、今回のコロナを通して、困難な人がいることにあらためて気付きました」
500食の弁当の費用として、少なくとも8万円から10万円かかります。
今は、政府の補助金や、銀行からの融資、支援策などを使って、なんとか続けられていると言います。
それでも「緊急事態宣言が解除され、通常営業できるようになるまでは、無料提供を続けていきたい」と話します。
そこまで踏ん張るのには、理由がありました。
「店を始めたばかりのころ、私もまわりの日本人から、多くの助けをもらいました。 日本は治安がよく、大好きな国です。今回のお弁当は、微力だと思いますが、日中友好のためにも、続けていきたいです」
最近では、ボランティアで手伝ってくれる友人もいるそうです。「爆食い」に来てくれる日を待ちながら、李さんは今日も弁当の仕込みを続けています。
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