女の子になった動物たちが活躍するアニメ「けものフレンズ(けもフレ)」。「ジェンツーペンギン」「フンボルトペンギン」役を務める声優、田村響華さんと築田行子さんには、大切な場所があります。約300頭のニホンザルの群れが暮らす、伊豆半島南部の観光地・波勝崎です。野生の個体にえさをあげ、その姿を間近で見られるとして、人気を呼んできました。しかし昨年、交流の拠点となる施設が経営難で廃業寸前に。「命の尊さを訴える作品に関わった身として、再生に協力したい」。危機を知った2人が、自主的に取り組んだ支援活動について聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)
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波勝崎では1953年、野猿公園「波勝崎苑(えん)」(静岡県南伊豆町)がオープンしました。雄大な景色の中で、野生のサルを餌付けできる点が注目を集め、地域でも有数の観光地に成長します。
南伊豆町によると、最盛期は年間45万人が足を運びましたが、ここ最近客足が減少。昨年の来訪者数は約1万1千人で、経営難のため、同じ年の9月末に休業してしまいます。そして事業の継ぎ手を探している、という話を聞きつけたのが、田村さんと築田さんでした。
プロの飼育員たちを招き、さまざまな種の生態について紹介するネット番組に、レギュラー出演した経歴を持つ2人。音楽ユニット「ちく☆たむ」として、動物園向けに楽曲を制作するなど、生き物の魅力を発信する活動も続けています。
施設の復活に向け、できることはないかーー。そんな気持ちから起こしたという行動について、インタビューしました。
――田村さんと築田さんは、どういった経緯で波勝崎苑に関わったのでしょうか
築田さん:きっかけはネットニュースを見たことです。それまでは存在を知らなかったのですが、「野生のサルの目の前まで行けるなんて!」と、とても驚きました。同時に、そうした場所がなくなるかもしれず、寂しさも感じました。
田村さん:しばらくして、別の会社が運営を引き継いだというニュースを見ました。その会社の社長が、静岡県内で動物園などを経営している、白輪剛史さんだとわかったんです。以前ネット番組で共演したことがあり、「応援するしかない!」と盛り上がりました。
そこで、正式にコラボするのではなく、「ちく☆たむ」として勝手に施設の情報を発信するなどするようになったんです。
ステージ上でパフォーマンスする「ちく☆たむ」の2人。 出典: MILLENNIUM PRO提供
――波勝崎苑は昨年末、「波勝崎モンキーベイ」と改名し、再出発すると決まりました。その後、現地には行かれましたか
田村さん:はい! 今年1月下旬、いくちゃん(築田さん)や白輪さんと、初めて視察で訪れました。どのサルもすごく人に慣れていて、私たちを邪魔者と思わなかったようです。何十匹も近寄ってきて、圧倒されました。
築田さん:私は北海道の函館市出身で、よく地元の植物園内の猿山に行き、温泉に入るサルを見て育ちました。元々親しみを持っていたのですが、当時は遠くから眺めるだけだったんです。波勝崎では、すぐそばで毛並みや表情まで見られ、感動しました。
好奇心たっぷりだったのも印象的で、同行したスタッフさんの背中によじ登る子がいて、びっくりしたことを覚えています(笑)
波勝崎での視察時に撮影した一枚。わらわらと集まったサルたちを前に、2人とも驚いた表情を見せる。 出典: MILLENNIUM PRO提供
――波勝崎の魅力を伝えるため、テーマソング「ウキウキウッキッキー」を制作したそうですね
田村さん:何らかの形でモンキーベイをサポートしたい。そんな気持ちから、「勝手に」歌を作ろうと思ったんです。私は3年ほど前から、DTM(パソコンを使った音楽編集)について学ぶネット番組に出演しています。そこで得た知識を生かし、作曲を担当しました。
頭の中にあったのは「波勝崎の海が想像でき、楽しい気持ちになれる曲」というイメージです。そこで、いくちゃんに作詞を、番組でご一緒させて頂いている作曲家・多田彰文さんに指導をお願いし、1カ月ほどで完成させました。
築田さん:サルって身近なようでいて、その特徴を問われると案外わからないもの。だから生態についての情報を歌詞に盛り込んでみました。「ちく☆たむ」のライブで披露すると、すごく盛り上がって、今では定番曲になっています。
おーっとケンカがはじまった! こっちじゃのんきに毛づくろい
ボスはなんだかとっても偉そう
海水つけてお芋にアレンジ 温泉入ってポッカポカ
つばきの蜜がおいしくて お口の周りまっきっき
眠くなったら木の上で みんなでハグしてグーグーグー
意外や意外泳ぐのスイスイ 適応能力ハンパない!
「ウキウキウッキッキー」から
「ちく☆たむ」のライブでは、動物にちなんだ曲もセットリストに組み込む。 出典: MILLENNIUM PRO提供
――白輪さんは老朽化した施設の改修費など、1000万円を募るクラウドファンディングを実施*註。お二人も自主的な活動が評価され、現地で撮った映像入りDVDを、返礼品として提供するといった形で、施設側と公式にタッグを組むことになりました
築田さん:私たちは普段、「動物の魅力を伝えたい」という思いで活動しています。今回は逆に、ファンの方々が、生き物を直接支援する機会をつくることに関われました。何だか不思議で、新鮮な気持ちです。
田村さん:けものフレンズや「ちく☆たむ」を知っている方はもちろん、元々コンテンツとつながりがない、大勢の皆さんが動いて下さいました。力を合わせ、一つの目標に向かって進んでいく。そのことを実現する上で、役に立てたという実感があり、とてもうれしいですね。
*註:クラウドファンディングは今年6月11日に終了。2カ月ほどの期間で、目標額を超える約1200万円が集まった。
――これまで田村さんと築田さんは、動物と人間の関係性を意識する機会が多かったと思います。その点について、モンキーベイを応援する中で、何か考えたことはありましたか
築田さん:波勝崎はサルを中心とした観光地です。餌付けによって、地元で生活する人々の畑や家を荒らす、といった被害が防げます。サルたちを守ることで、人間も豊かに暮らせるんです。
力関係で言えば、人間はどうしても、他の動物と比べ地位が高くなりがち。「そうではなく、お互いが欠かせない存在なんだよ」と教えてくれるところも、波勝崎の魅力かもしれません。
田村さん:サルが登場するニュースは、人を襲うといった内容のものが多い印象を受けます。すると、どうしても「怖い」という感情が強まってしまいますよね。そうではない面もあると、モンキーベイに行けば実感できるのではないでしょうか。
全国には波勝崎のように、野生動物と向き合えるところがたくさんあると思います。今回の取り組みが、そうした環境を生かす方法を考える上で、きっかけになれば素敵ですね。
波勝崎の海岸で毛づくろいし合うサルたち。リラックスしている。 出典: MILLENNIUM PRO提供
――モンキーベイに興味を持っている方々に対し、メッセージをお願いします
築田さん:とにかくいい場所です!(笑)サファリパークでも味わえないような、サルの迫力を体感できて、動物好きにはたまらないはず。ぜひ現地を訪れて欲しいです。
田村さん:野生のニホンザルは、飼育下と生態が全く異なります。その違いを知るのが楽しいかもしれません。山や海に囲まれつつ、生き物との距離感について考えることもできます。新型コロナウイルスの影響が落ち着いたら、癒やされに行って下さい!
波勝崎で記念撮影する築田さん(左)と田村さん(中央左)たち。2人の間には、モンキーベイの事業を継承した白輪剛史さんの姿も。 出典: MILLENNIUM PRO提供
・ちく☆たむ/
『けものフレンズ』ジャパリパークのペンギンアイドルユニット「PPP(ペパプ)」のフンボルトペンギン役・築田行子とジェンツーペンギン役・田村響華の2人が動物の魅力を伝えるため、けものフレンズの枠を越えて結成。
・田村響華 たむら・きょうか/
10月16日生まれ。和歌山出身。 MILLENNIUM PRO所属。 主な出演作は『温泉むすめ』(西表島八重夏)など。 Twitter:@tamura_kyoka
・築田行子 ちくた・いくこ/
12月19日生まれ。北海道出身。 MILLENNIUM PRO所属。 主な出演作はゲーム『君はヒーロー』(アクアマリン/磐城藍)など。 Twitter:@ckik195