連載
#64 #父親のモヤモヤ
「男だったら、子育て妻に任せたい」 出産間近の女性社長が思うワケ
「子どもはかわいいです。でも……」
「#父親のモヤモヤ」企画では、これまで仕事と家庭のはざまで葛藤する父親たちの声を聞いてきました。その背景には、「子育ては母親の役割」といった性別役割分担の意識や、「無償の愛を注ぐべきだ」という「べき論」がありました。今回は、こうした点について、女性のケースから考えました。
女性は、製造業を営む中小企業の4代目社長です。20代の夫と長男(1)の3人暮らし。間もなく第2子が生まれます。
社長に就任したのは2年前です。それまで会計事務所などで派遣社員として働いていました。「いずれ会社を手伝うことがあるかもしれないと思い、労務や会計といった分野のスキルを高めていました」。前社長である父親も高齢になり、組織の若返りをはかる目的もあって白羽の矢が立ったのは5年ほど前。その後に入社し、「修業」をして社長になりました。
「経験の浅い社長の就任に戸惑いもあったと思います。社員に力を貸してもらうという姿勢で取り組みました」。会社幹部にはこれまで親族が就任してきましたが、その慣例を取りやめ、親族以外の社員を登用しました。組織の風通しはよくなった、と女性は話します。
「男社会」も目の当たりにしました。「それまで、開発会議など、知る限りはどの会議にも女性が参加することはありませんでした」。女性メンバーの参加を促しました。
仕事のだいご味は、努力が業績に反映されるところだと話します。「仕事が好きです。出産後もじっとしていられず、退院した翌週には職場に顔を出していました」
家庭では、製造業の会社に勤める夫と、家事や育児を分担しています。「社長になることが分かってからの結婚でした。結婚前に、家庭に協力的でないと、子どもを作ることは難しいと伝えました」。ゴミ捨てや子どものお風呂は夫、お皿洗いは女性と、ぼんやりとした役割分担はありますが、互いにやれることをやるというスタンスです。「互いの休みが異なることも多く、どちらが担当しても問題がない状況です。夫は出産と授乳以外は何でもできます」と話します。夫自身、「子育ても家事もやっているから、いろんな事ができるようになった。子どもの成長もみることができる」と前向きに受け止めているそうです。
ただ、女性は「自分が男だったら、家事育児を全部、妻に任せたいです」と話します。
「子どもはかわいいです。でも、子育てをしてても、社会から取り残されている感覚があります」。そして、こう続けます。「商売人の家庭で育ったからかもしれませんが、この時間を生かしたら稼ぎにつながるのではないか、という考えも頭をよぎります。仕事だと努力すれば数字で見えることもありますが、子育ては数字で見えづらいです」
女性は、こんなことも話してくれました。「試みに、いくら稼いだら、夫は納得するのかと話し合ったことがあります」。専業主夫として、家事育児を担ってもらうことを考えてのことです。
記者(39)は、共働きの妻と娘(4)を育てています。女性の言う「社会で取り残されている感覚」には、共感もしました。一方で、「男だったら」と仮定を置いたのが気になり尋ねました。
「女性だと許されないという気持ちがあるのかもしれません」。女性はそうして続けました。「土地柄でしょうか。『男だから』『女だから』と言われ、育てられました。地域のお祭りに女性は参加できません。どこかで『女』であることを受け止めざるを得なかったです。パートで働いた後、専業主婦になる。私も周囲でも、そう思っている人は多かったです」
女性は、社長として「女は家庭」のような価値観には縛られずに働いています。一方で、「男だったら」家事や育児を妻に任せたいと、性別役割分担の意識が意図せず顔を出すこともありました。こうした価値観が根強いものだと、あらためて考えさせられました。
記事に関する感想をお寄せください。また、「育休」の反省や失敗談も募ります。「仕事ばかりだった」「パートナーと衝突した」といったモヤモヤや体験を募ります。育休を取得した父親の3人に1人は、1日の家事・育児時間が「2時間以下」――。育児相談アプリを運営する会社がこんなデータをまとめ、「とるだけ育休」と名付けました。「#父親のモヤモヤ」企画班では、あらためて「育休」に注目しています。家庭での育児負担について、みなさんはどう向き合っていますか?
いずれも連絡先を明記のうえ、メール(seikatsu@asahi.com)で、朝日新聞文化くらし報道部「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。
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