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連載

#3 アニメで変わる地域のミライ

「らき☆すた」聖地、コロナで祭り中止…地元ファンはへこたれない

この秋には「続編」アニメが放送予定です。

「らき☆すた」の「柊かがみ」を模した久喜市商工会のキャラクター「かがみん」。このご時世ならでは、マスクをしています
「らき☆すた」の「柊かがみ」を模した久喜市商工会のキャラクター「かがみん」。このご時世ならでは、マスクをしています 出典: 島田吉則さん提供

目次

13年前に放送され、「聖地巡礼」の先駆けにもなったアニメ「らき☆すた」。新型コロナウイルスの影響で、舞台・埼玉県久喜市鷲宮を訪れるファンはまばらになりましたが、ファンとの関係を絶やさないようイベントを企画する住民もいます。この秋には「続編」とも言えるアニメが放送予定で、再びアニメと地域のつながりが期待されています。

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アニメ×地域の先行事例

「らき☆すた」は2007年4月から9月にかけて放送され、舞台となった鷲宮神社には、放送直後からファンが参拝に訪れるようになりました。この動きを察知した地元商店街や商工会が、鷲宮を訪れるファンをもてなそうとするところから交流が始まります。

この交流は、「らき☆すた」の版元である角川書店(当時)も交えた展開に繋がっていきます。ファン、地域、版元の三者が一体となることで、アニメが地域振興にも役立つのだ、ということがわかるようになりました。ファンと地元商店主によって「らき☆すた」の神輿も作られ、地域のお祭りと融合したことも話題になりました。

その後、鷲宮は「聖地巡礼」の先行事例として他の地域から参考にされ続け、10年以上経った今でもファンが訪れています。

「らき☆すた」のブランチ&公式参拝in鷲宮で賑わった鷲宮神社=2007年12月2日、筆者撮影
「らき☆すた」のブランチ&公式参拝in鷲宮で賑わった鷲宮神社=2007年12月2日、筆者撮影

神社の鳥居が…

ところが近年、「聖地」鷲宮に立て続けに“異変”が起き続けています。毎年9月に行われ、10年にわたり「らき☆すた」神輿のお披露目の場となっていた「土師祭(はじさい)」が、2018年以降中止になっています。大正時代に中断していた土師祭を1983年に復活させ、30年以上にわたってお祭りを率いてきた人物が18年2月に亡くなったためです。この死を悼むかのように、鷲宮神社の鳥居が同年8月に経年劣化で倒壊してしまいます。この鳥居は、「らき☆すた」のオープニングにも登場するシンボルでもありました。

さらに翌19年7月にも、「らき☆すた」に関する重大な事件が起こります。「らき☆すた」を制作した京都府宇治市の企業「京都アニメーション」のスタジオが放火され、36人が亡くなる事件です。この36人の犠牲者の中には、「らき☆すた」の監督を務めた武本康弘さんも含まれていました。

そんな鷲宮に「あかりを灯そう」と、19年12月には、東京オリンピックの聖火リレーの埼玉県内のルートに選ばれました。20年7月8日に鷲宮神社から出発し、加須市へ向かうというものでしたが、この計画も新型コロナウイルスの影響で未定になってしまいました。

10年以上経ってもなお、鷲宮神社にはイラストの描かれた絵馬が掛け続けられている=2018年6月、筆者撮影
10年以上経ってもなお、鷲宮神社にはイラストの描かれた絵馬が掛け続けられている=2018年6月、筆者撮影

久喜市の聖火ランナーの実行委員を務める、地元鷲宮の和菓子店「島田菓子舗」代表の島田吉則さん(54)はこう話します。

「東京オリンピックがコロナで延期になったことで、聖火リレーの予定もいったん白紙になってしまっています。聖火リレーそのものは延期してもやるでしょうし、コース取りも大きくは変わらないと信じていますが……とにかく先が見えない状況ですね」

長年ファンと交流してきた島田さんによると、コロナ禍で鷲宮を訪れるファンもまばらになったといい、今では地元の人しか店を訪れない様子だといいます。

また、2018年から土師祭に代わり「らき☆すた」神輿が担がれていた、7月下旬に開かれる「八坂祭」も中止が決まっています。

鷲宮神社通り商店街で「島田菓子舗」を営む島田吉則さん。創業80年にもなる老舗和菓子屋だ=2018年6月、筆者撮影
鷲宮神社通り商店街で「島田菓子舗」を営む島田吉則さん。創業80年にもなる老舗和菓子屋だ=2018年6月、筆者撮影

コロナの閉塞感を払拭したい

そんな中、島田さんはコロナの状況でもできる別のファンイベントの実施に向けて動いているそうです。

「毎年7月上旬に開かれる、柊姉妹の誕生日イベントだけはささやかながらやらせていただきたいと考えています。もちろん実際にファンにお越しいただく形は難しいでしょうが、スタッフで対策を立てた上で、ファンのみんなで柊姉妹の誕生日を祝って、コロナの閉塞感を少しでも払拭したいと思っています」

柊姉妹の誕生日イベントは、「らき☆すた」の4人のメインキャラクターのうち、柊かがみと柊つかさという双子の姉妹の誕生日を祝うイベントです。7月7日が誕生日ですが、この日に近い週末の2日間にわたって毎年実施されています。柊姉妹の実家が鷲宮神社(作中では鷹宮神社)という設定で、鷲宮に特に縁の深いキャラクターとなっています。2008年から続いており、鷲宮で開かれる「らき☆すた」のイベントとしては最も古いものと言えます。

「正直どこまでできるかわかりませんが、『らき☆すた』神輿をかつげなかった分も楽しんでもらえるような企画をこれから考えていきたいと思います」(島田さん)

「土師祭」で担がれる千貫神輿(手前)とらき☆すた神輿(奥)=2017年9月3日、筆者撮影
「土師祭」で担がれる千貫神輿(手前)とらき☆すた神輿(奥)=2017年9月3日、筆者撮影

「続編」に高まる期待

10月からは「らき☆すた」の続編とも言えるアニメが13年ぶりに放送されます。「まえせつ!」という、お笑い芸人を目指す4人の少女たちのストーリーで、「らき☆すた」の原作者である漫画家の美水かがみさんが企画に参加している作品です。その位置付けも「新・美水かがみ劇場」としています。

島田さんもこう胸を高鳴らせます。

「美水かがみ先生やKADOKAWAさんには大変お世話になりました。今こそ鷲宮も微力ながら『まえせつ!』の宣伝をさせていただき、『らき☆すた』の恩返しをしていきたいところです。柊姉妹の誕生日イベントでも、作品の告知にも何かしら協力できればと考えています」

作品の舞台として鷲宮をはじめとする埼玉県が登場するかは定かではありませんが、鷲宮では2019年の大晦日にも公式のファンイベントを実施するなど、早くも地域と版元との良好な関係が見られます。もしかすると、作品の舞台とは違ったところで地域とのつながりが生まれる、新しいケースになるのかもしれません。

「聖地」メモ
「らき☆すた」埼玉県久喜市
4人の女子高生の日常を描いたストーリー。 原作は美水かがみの同名の4コマ漫画で、アニメは2007年4月から9月にかけて放送された。歯に衣着せない他作品のパロディ描写は当時勃興しつつあった「ニコニコ動画」でも話題になり、アニメは大ヒット。制作した京都アニメーションの出世作の一つとなった。

アニメのオープニングで描かれていた背景が埼玉県内の各地をモデルにしており、放送直後から観光名所でもない舞台を訪れるファンが急増した。特に鷲宮や幸手市ではファンとの交流が生まれ、鷲宮では版元の角川書店と地域が協働したイベントが展開された。

その影響は鷲宮神社の参拝者数にも現れており、アニメの放送前の2007年の正月三が日の参拝者数は13万人だったものが、放送終了後の08年は30万人に倍増。その後も増え続け、11年に47万人を記録している。

ファンへの「おもてなし」を軸に、商工会や商店街がファンと一体となって「聖地」を作り上げていくやり方は、アニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台となった茨城県大洗町をはじめ、多くの自治体から参考にされる先行事例となった。

河嶌 太郎

「聖地巡礼」と呼ばれるアニメなどのコンテンツを用いた地域振興事例の研究に学生時代から携わり、10以上の媒体で記事を執筆する。「聖地巡礼」に関する情報は「Yahoo!ニュース個人」でも発信中。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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