MENU CLOSE

ネットの話題

1273

若手俳優、コロナで気づく「業界の思い込み」 リモート演劇の可能性

ビデオ会議システムを活用した作品も生まれている(画像はイメージ)。
ビデオ会議システムを活用した作品も生まれている(画像はイメージ)。 出典: PIXTA

目次

コロナ禍により、甚大な被害を受けるエンターテイメント業界。その中に身を置く芸歴5年目の俳優のYさんは、変化を如実に感じていると言います。ドラマやCMの撮影が中止・延期される一方で、Zoomを利用し、家にいながらにしてオンラインで演劇作品を作る「リモート演劇」など、新しい表現手法も生まれています。

「決して悪いことばかりではない」と語る一方、「そう考えることで無理やり自分を奮起させているのかも」と冷静でもあるYさんに、率直な胸の内を語ってもらいました。「コロナ禍における人々の生活」を見つめる作家・小野美由紀さんがインタビューします。(作家・小野美由紀)

【連載】コロナ時代のわたしたち

非常事態にこそ炙り出される「生活」の有り様。コロナによってそれが大きく変わった人・変わらない人――さまざまな生の声を作家・小野美由紀さんが聞き取ります。

第一回:「コロナで研究、諦めたくない」仏人留学生、自宅でパン焼いて食いつなぐ サブカル研究に「プライド」
第二回:コロナ禍、想定されてない「家族」の今 LGBTQカップルに起きたこと 感染、在宅勤務で「会社バレ」のリスク
第三回:「女装は成り行き。でも店に立てないのは寂しい」 ドラァグ・クイーンとコロナ禍 2丁目から見る今

リモート演劇に感じる大いなる希望と可能性

――緊急事態宣言が出されてから、俳優としての活動に変化はありましたか?

今年の3月はこれまでのキャリアの中で、一番調子が良かった時期でした。PVとCMがそれぞれ1本ずつ、テレビドラマが1本と、出演の機会に恵まれたし、大きなオーディションもあった。

けど、テレビCMの公開がコロナによって飛んでしまって。とあるレジャーランドのCMで、撮影は終わっていて、5、6月の放映のはずだったんですが、「今、『来てください』ってタイミングじゃないだろう……」と。

3月29日まではドラマの撮影があって、その日までは現場にいました。その日は珍しく東京で雪が降った日で、ドラマの中の季節は5月6月の設定だったので、現場はてんやわんやしていてコロナどころじゃなくて。

事務所からは「いよいよやばいらしいよ」とか「撮影大丈夫ですか?」みたいな話はちらほら聞いていましたけど、まさかこうなるとは思いもしなかった。自粛が始まって、たくさんのドラマの撮影が中止や延期になる中で、後から振り返ってもそのドラマが撮りきれたのは奇跡的なタイミングでしたね……。

緊急事態宣言が出てから今(6月1日)までは、軒並みドラマ映画の撮影が止まってしまい、テレビ系の方はぱったりでした。

けど一方で、業界の一部は新たな表現形態の出現に盛り上がりを見せていて。「オンライン演劇」や「Zoom映画」ってご存知ですか?

――Zoom(ネット通話サービス)上で役者さんが演技をして演劇映像作品を作り、YouTubeなどで配信するものですよね。
そうです。大がかりな撮影をする映画やスタジオで撮影するドラマ、劇場で公演を行う舞台ができないので、代わりに家にいながらにして通信サービスを使って作品を撮る動きが始まって、TwitterなどのSNSで話題を呼んで、にわかに注目され始めた。

自分もすごく短い尺のZoom作品に出演して、そこそこSNSでバズりました。僕はこの「オンライン演劇」にすごい可能性を感じているんですよ。

――というと?

まず、映画館で見せないって前提なので、映画レベルの映像の質を追求する必要がない。画質が荒いほうが本物っぽいんですね。それに、オンラインだと制作期間が総じて短くて済むんです。

集結しない、移動の時間も必要ない。さらに、稽古場は日中しか借りられないのですが、オンラインなら深夜だろうと早朝だろうと撮影できるので、時間も問わない。

また、もし今後、同時翻訳などの新たなテクノロジーが生まれてきたら、海外にも配信できますよね。北海道、沖縄、シカゴ、中国の俳優さんが一つの作品に出演するとか、国を超えて一堂に会することができるわけですから、これまでは不可能だった座組みが可能になるし。

演劇とテクノロジーの出会いがものすごくいい形で達成されたんじゃないかなって。こういうことをコロナ以前に本気で考えてた人はいないでしょうから、不謹慎ではありますが、正直、不幸中の幸いというか、災い転じて、というか……。

映画人も演劇人も関係なく、みんながアイデアを出しあって新たなエンタメを作るぞ、という空気にすごくわくわくしています。

――実際にオンライン演劇で収益を上げている劇団もあるのでしょうか。

先日『劇団ノーミーツ』が旗揚げ公演と称して、オンラインでチケットを2500円で販売して2時間半の尺の演劇をやったところ、総観客数が5公演合計で5000人を超えたらしいんです。
 
それって劇場で言ったらかなり大規模ですよね。収益もすごいし。稽古場の費用とか、衣装代とか道具代とかゼロですから。これでオンライン演劇が十分興行として成立するってことが証明されました。ビジネスとしてもすごくポテンシャルが高い領域です。

――NHKなどのテレビ局もリモートドラマの制作をしていましたね。

最初はニッチだったものが、だんだん業界全体のものになってきている。これから自粛が解除されて、日常が戻ったとしても、オンライン演劇はなくなることはないのでは。

50人とか、100人とか集まって映画の大作を撮るのに取って代わるものでは決してないけれど、作品のいち形態として今後も定着するんじゃないかなって。

もちろんこれにも色々な見方があって、やっぱり映画が最高だよって人もいれば、いやいや、リアルの舞台で演じてこそだよ、って人もいるんですが。

けど、このコロナ禍という全人類が直面した災難の中で、俳優さんや脚本家、監督など、この時代に生きている人たちが必死に考えて、エンタメを愛する人々に何かを届けるために作り出したものなので、純粋に尊いなあと感じます。

――俳優さんたちの収入源にも変化がありそうです。

僕はこれまで、俳優って稼ぎ方の選択肢が少ないなあ、と思っていました。例えばシンガーソングライターなら、自分一人で完結できるから、事務所と契約していなくても楽曲配信しよう、とか、YouTubeライブで課金してもらおう、とか色々できる。

お笑い芸人なら、劇場で漫才する他に、『スナック吉本』みたいに飲食店の形態でお客さんと接するサービス、とか、YouTubeでネタをやる、とかできますよね。

けど、「俳優でも同じことができるか?」って考えると、トークがすごくうまい人って限られるし、みんながみんな、一人芝居ができて、脚本も書けて、撮影ができて、世間的な需要があって、自分一人で完結できるかっていうとそうじゃないですよね。「じゃあどうすりゃいいの?」っていう疑問があって。

緊急事態宣言下で、舞台や映画の撮影が中止になる中、「その間はバイトとかで食いつないで事態が収束したら再開しよう」という人もいれば、チェキを売ったりオンライン・トークを1分1000円で売ったりする人も出てきた。

僕自身は、「電話サービス1分1000円」とか取るのは、正直嫌だなと思っている。ファンから「仕方ない、今あの人お金ないもんな」みたいな感じで、お情けでお金をいただくのもなんだか申し訳ない。その中で、一つ妥協せずにお金を稼げる手段として現れたのがリモート作品なんだなと感じています。

作品だけでなく、今後はリモートで演技レッスンをする人も出てくるんじゃないかなと思うし、色々な可能性がありますよね。

コロナで「現場」への思い込みが解体される

撮影現場には「思い込み」があると指摘するYさん。
撮影現場には「思い込み」があると指摘するYさん。
――緊急事態宣言が解除された今、ドラマなどの撮影再開に向けて日テレなどが制作のガイドラインを作っているとされていますよね。撮影の本番前まではフェイスシールドをする、とか、ラブシーンは一発録り、とか。コロナによって、今後のエンタメ業界の現場のあり方も大きく変わりそうです。

(ガイドラインは)行政の指導があるから仕方なく作っているんでしょうけど、業界の中では正直「表現舐めてるのか」みたいな声が上がったり、「こうまでしてドラマを撮らなくても」みたいな声が出たりしているんですよね。

――というのは?

うーん、業界の昔からの通念っていうか、演劇やドラマって、五感を研ぎ澄まして相手と向き合い、生身をぶつけ合って稽古するものでしょ、っていう、泥臭い考え方がいまだに現場に残っているんですよね。でも僕は、これを機に現場のあり方が変わることに興味がある。

例えば、現在のガイドラインでは役者は本番までフェイスシールドをつけること、という条件があるのですが、フェイスシールドありの状態でもリハがやれたとすれば、コロナ禍が収束した後もインフルエンザなどの感染リスクが減らせるかもしれないですよね。

もし俳優同士の間で違和感があったとしても、視聴者が気づかないほどの違和感なのであれば、それは俳優の都合じゃないですか。

匿名だから言えることではあるのですが、これまで業界全体で「芝居」というものを神聖化し過ぎていると思うことはあったんですよね。例えば、自分がビンタをされる、というシーンがあったときに、監督から「当ててみようか」と指示や問いかけがあったり、相手役の方に「当てても良いですか?」と聞かれると、なかなか断れません。

また、業界として、俳優ならそれくらいはやるのが当然、という感覚が根づいているようにも感じます。撮影は同じシーンを何度も撮るので、結果的に何度もビンタを受けることになる場合もあります。

けど、コロナ禍において現場の効率化が求められるようになればそれも変わるだろうし、また、一発撮りが普及したら逆に集中力が増して、演技の質が良くなるかもしれない。

「現場ってこういうものでしょ」っていう思い込みが一旦バラされるのは、業界全体としてもメリットがあるんじゃないか。

「『コロナ以前の状態に戻すのがベスト』と決めつけないで、まずは試してみたら?」というのが僕の意見です。

「コロナ禍のフラストレーション」の行方は

「密」になりやすい撮影現場は変革を迫られている(画像はイメージ)。
「密」になりやすい撮影現場は変革を迫られている(画像はイメージ)。 出典: PIXTA
――Yさんはもともと、どうして俳優の道を目指されたのでしょうか?

20代前半までは、関西のとあるパフォーマンスグループに属していました。その時に「あいつは身体能力が高い」とか「あいつはMCでお客さんを沸かせられる」とか、メンバー一人一人の強みを目の当たりにして。

「じゃあ、自分には一体何があるんだろう?」って考えた時に、芝居の経験を積んで演技力を身につけたら、グループとしてできることが広がるかなと思ったんです。やってみたら楽しくて、お芝居を通じて人間を探求してみたいなという気持ちが芽生えました。

その後、方向性の違いなどの理由でグループが解散してしまって。どうしよう、と考えた結果、芸能事務所の門を叩いて、一から俳優としてのキャリアを積むことに決めました。

俳優さんのインタビューなどでよくある「若い時に○○監督の映画を見て、雷が落ちたような衝撃を受けて、自分もこの世界に」とか、そういうストレートな動機ではないのですが……。

最初の事務所では、パフォーマーとしての経歴は一旦全部捨てて、通行人Aとか、スタンドイン(芸能人の代わりに現場に立ち、撮影時の画角チェックを行う)とか、小劇場のお芝居のちょっとした役とか、そういう小さな仕事の数をこなして、まずは現場を知るところから始めました。

最近は映像作品への出番が増え、PVやCM、映画に出たり、テレビドラマも去年やっとセリフのある役で出演できたところだったんです。

――Yさん自身の現在の生活はどのようなものでしょうか?

緊急事態宣言が発令された直後は「俳優はなんでも糧になる」という言葉を鵜呑みにして、公園でぼーっとしたり、一日中本を読んだりして過ごすことになるのかなと思っていたんですが、実は今、所属事務所から演劇に関わるオンラインサービス作りの仕事を任されていて。

だから現場には出てないけど、休みは全くなかった。結局は電車で事務所と家を往復する生活でした。

ただし、消毒や感染対策は徹底してました。最近は電車の中でも座席に座るようになっちゃったんですけど、5月中はつり革も絶対に持たないようにして。第二波が来るかもしれないって時に、好き放題している写真や動画をあげたりすると信用を失うでしょう。

キャスティングさんが「この人はちゃんとしているな」と思ってくださるくらい、対策は徹底した方がいいかなって。

とはいえ、人と会えないのでフラストレーションもあります。俳優として稼働できてないのは、しんどいはしんどい。ここで語ったことは正直、そのしんどさとバランスを取るために理想論をぶち上げて、自分に言い聞かせているだけかもしれないです。

――先が見えず辛い中で、自分を鼓舞するために「悪いことばかりじゃない」と言っているかもしれない?

俳優としてこうしたインタビューで語るなら、本来は「自粛期間中に稽古ができないフラストレーションを、明けたら演技にぶつけてやる!」みたいなのが、一番美しいじゃないですか(笑)。

「いざ再開したらみんなと飲む酒が良くて、やっぱり自分は演劇が好きなんだ、と気づきました」みたいな感じがよかったんですけど、全然そんなことなくて……。

俳優として稼働しているわけでもなく、演技の糧になるようなことができているわけでもなく、キャリアにつながるのかわからないビジネスの実務をやらされている中で、「俺は有意義なことを任されているんだ!」みたいな、自己暗示との半々な気もする……。 

ただ、つい先日、新しいCM撮影の話が入ってきたんですよ。すごくうれしいです! アパレルのCMで、他の俳優さん複数人と狭い空間で撮らなきゃいけないんですけど……。第二派が来るという話もあるし、もし自分が知らないうちにウイルスを持っていて、他の演者さんにうつったら大変なので、予防は徹底してするつもりです。
CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます