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連載

#15 withコロナの時代

海外駐在までオンラインに? コロナで「必要に迫られ」気づいたこと

想像がつかないような利用のされ方に期待しています。

ロコタビの椎谷豊代表
ロコタビの椎谷豊代表

目次

withコロナの時代
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緊急事態宣言は解除されましたが、まだ外出には制限がある状況が続いています。特に海外となればなおさらです。そんな中、海外在住の日本人とオンラインでつながって雑談をしたり、画面共有をすることで「バーチャル旅行」を体験できるサービスが始まっています。サービスを提供している「ロコタビ」の椎谷豊代表は、その先に「オンライン駐在」という新たなビジネスチャンスがあると意気込みます。コロナ禍が気づかせた「オンラインでつながることの可能性」を聞きました。

オンラインサービス利用約500件

【ロコタビ】
海外在住の日本人と現地に旅行などで訪問を計画している国内在住の日本人とを結びつけるサービス。海外在住日本人の登録は、5万4000人(およそ2500都市)で、国内在住の日本人登録者は19万5000人にのぼります。
利用者は30~40代が多く、男女比は3:7。「海外に行くのが好きで、サービスのヘビーリピーターは、毎月のように海外に行く人です」(椎谷代表)
希望のエリアに住んでいる複数の現地在住日本人に、サービス依頼を前提としたオンラインでの相談をした後、サービス内容に応じて1対1のやりとりへと発展し、現地で合流するなどして依頼が成立・実行される仕組み。
ロコタビ
ロコタビを通じてヨセミテ公園を旅した人たち=ロコタビ提供
ロコタビを通じてヨセミテ公園を旅した人たち=ロコタビ提供

――4月から、「バーチャル旅行」や「オンライン雑談」など、Zoomなどを使って現地在住者とオンラインでつながれるサービスを充実させていますね。
 新型コロナウイルスの感染拡大による渡航制限や、外出自粛を受けて、これまでのサービスの利用は9割減となってしまいました。
ユーザーからは、ゴールデンウィークをはじめ、旅行をやむを得ずキャンセルしたという声があり、オンラインでの海外旅行体験や、海外在住日本人との雑談を楽しめるようなサービスを4月中旬に始め、5月末までに452件の利用がありました。

オンラインでつながる エストニアやアブダビ

――どんなエリアが人気ですか。
 オンラインだとなかなか行けない地域への興味が高まっているようです。エストニアや、ウラジオストク(ロシア)、アブダビ(アラブ首長国連邦)などで利用がありました。

 我々が「ひとりロコエリア」と呼んでいる、イギリスとフランスの間に位置するチャンネル諸島のジャージー島や、南アフリカ、アルゼンチン、ジャマイカなど、エリアに一人しかホストがいない場所があります。オンラインサービスだと、珍しさなどから「ひとりロコエリアにお願いしたい」というニーズもあります。サイト内に地図を実装しているので、とんでもないところに(ホストの存在を示す)ピンがあったりすると、そこに魅力を感じてサービスを利用するということもできます。

――旅は現地に行くのが醍醐味というところもあると思いますが、オンラインサービスの立ち位置は。
 サービスは、60~70代のシニアもけっこう使っています。また、旅慣れているというか、ある程度「自分で」「自分のやりたいことをやりたい」という人が多いです。お金にも余裕がある人が多く、おそらくコロナが収まったらすぐにでも海外に行きたい・行ける人たちが利用している印象です。
ですので、また海外に行ける状況になったときに、すぐにリアルでつながることができるためのオンラインサービスという立ち位置です。

オンライン海外旅行の例=ロコタビ提供
オンライン海外旅行の例=ロコタビ提供

2~3割を占めるビジネス利用

――とはいえ、コロナの流行は第2波、第3波が予想されるなど、影響は長引きそうだという観測もあります。旅行に行ける日は結構先になってしまうかもしれませんが……。
 オンラインサービスに限らず、コロナ前からのサービス全体の利用傾向として、利用者の2~3割はビジネスでの利用です。

【ロコタビのビジネス利用について】
海外での様々な業界の展示会に視察に行く企業や、出展する企業が、その際の通訳や現地案内を依頼。海外視察として行く場合は、ホストに視察先のアポをとってもらった上で視察には通訳としてついてきてもらうことも。「例えば、インテリア業界のユーザーが、同じ業界のホストに依頼すると、現地での業界の実際を聞くことができるし、同じ尺度を持っているので、ユーザーが言っていることを理解して、商談相手に説明してくれたりします。同時通訳というだけではありません。」(椎谷さん)

海外での商談行きにくい中で

――コロナの影響が長引くことによって、オンラインで海外とのやりとが必要なビジネス利用が増えるのでしょうか?
 今回、感染拡大を防ぐため、企業が海外出張を取りやめるということが起こっていて、商談や展示会への参加などで海外に行くことが難しくなっています。今後は海外の駐在をとりやめるということも起こってくると想定しています。
でも、だからといって、企業としては海外との関わりをそこで途絶えさせるわけにはいきません。そんなとき、「バーチャル駐在」みたいな人材を現地に置ける可能性があるんじゃないかと思っています。

例えば国内にいながら、ホストに取材をお願いするとか、商談に行ってきてもらうとかいうことが可能になるんじゃないかと思うんです。

いまのところはまだ本格的には動いていませんが、ビジネス利用向けのホストのリストアップも進めています。今回のコロナ流行で、よりニーズが高まっていると思います。

【オフラインでのビジネス利用の具体例】
・ドイツの動物愛護団体の視察に行きたいという依頼。その町の近くに住んでいるホストと依頼者をつなぎ、案内してもらった。
・海外の福祉施設をいくつか回りたいという依頼。アポとってもらった上で、現地で通訳をしてもらった。
・とある国で会社を立ち上げたいので、現地での会社立ち上げのノウハウがある人から本音の話を聞きたいという依頼。会社の立ち上げ方を5人くらいから聞き、依頼者が感覚をつかむきっかけになった。
ロコタビを通じて香港を旅した家族=ロコタビ提供
ロコタビを通じて香港を旅した家族=ロコタビ提供

オンラインの関係をどう見るか

――オンラインで始まったビジネスの関係が、オンラインのまま続き、利益を生む可能性が広がるイメージでしょうか。
 これまでビジネス利用していた人は、あくまで、まずは個人対個人の関係でサービスを利用していました。というのも、「オンライン上でしか会ったことのない人に仕事を頼む」ということをリスクとみる会社が多く、そのことをおおっぴらに言えないし社内稟議がなかなかおりないといった背景がありました。ただ、実際はむちゃくちゃ使えるんですよね。

そして、状況が変わり、今回のコロナによって海外に行くことが難しくなってきた。すると、「社内稟議」とか、そういうことも言ってられなくなってきたし、必要に迫られているのではないでしょうか。
そこで、これまで思い切ってオンライン上の関係をビジネスとして使えなかった人たちにとって、その関係を表だって生かすということは、現実的な話になってきたと思います。

――ただ、やはりオンラインだけでしか知らない相手のことを信用するには、ホストの身分保障がどうなっているのかが気がかりです。
 基本的には、CtoCサービスなので、レビューがその人の評価となっていきます。
それに加えて、我々もホストが過去に請け負った仕事内容などを元にしたスコアリングシステムを導入しています。問題のある人はサイトにあがってこないような仕組みを作っているんです。

――コロナ禍によって、オンラインで人間関係を結ぶ可能性は広がるのでしょうか?
 コロナ前に比べて、オンライン上で人がつながるということのハードルは大きく下がったと考えています。今までは直接会わないと物事が進みにくい場合もありました。しかし、「オンラインでも問題ない」ということになれば、移動する必要がなくなるので、制約なく世界とつながることができるようになります。すると、逆に世界が広がって、想像がつかないような利用のされ方がされるのではと期待しています。

オンラインでのメッセージのやりとり事例=ロコタビ提供
オンラインでのメッセージのやりとり事例=ロコタビ提供

記者の気づき
■文化見直される時期、オンラインはどこまでいけるか

ロコタビの「バーチャル旅行」をはじめとするオンラインサービスを知ったときは、「旅好きな人にとって気持ちの支えになる取り組みかもしれない」という印象を受けました。

ただ、それが、ビジネス利用での新たなつながりの創出の可能性になり得るという視点は、斬新でした。 椎谷さんは「バーチャル駐在」という言葉を使っていましたが、オンラインでのつながりだけで、ビジネスを完結させることには、まだ抵抗感を持つ人は少なくないでしょう。

信頼関係の構築という意味ではいまも、対面を重視する社会でもありますし、私もできることなら対面取材がしたいです。 一方、必要に迫られる形で経験をしたオンライン取材を通して、相手のバックグラウンドに一定の理解・納得ができた上でなら、対面にこだわらなくてもいいという気づきを得ることもできました。

リモートワークで「ハンコ文化」に異を唱える人が出てきたように、これまで普通とされていた文化が見直されている時期でもあります。
旅行のように個人の責任で完結できることは、どんどんオンラインが進んでいくでしょう。今後は、会社という組織が主語になった時、オンラインがどこまで役割を果たせるのかが、鍵になっていくのかもしれません。

 

 

新型コロナウイルスによって、私たちの生活や経済は大きく変わろうとしています。未曽有の事態は、コロナウイルスが消えた後も、変化を受け入れ続けなければいけないことを刻み込みました。守るべきもの、変えるべきものは何か。かつてない状況から「withコロナの時代」に求められる価値について考えます。

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