マンガ
「こんな母親になりたい」帰省できない今だから描いた漫画に共感の声
「ふつうを支える人」の大切さ
帰省中のある日、望月さんは母から「今日は親戚の家行くよー」と告げられます。ちょうど家にいたのは望月さんと母の2人。弱っていた望月さんは不安に駆られます。
親戚の家に行けば、深い意味はなくとも親戚に「仕事はどうだ」「彼女はいるのか」などと聞かれるのは「あるある」です。親戚のことは嫌いじゃなくても、「素直で笑顔な親戚の子どもでいなければならない」と思うことがプレッシャーになり、当時の望月さんにとっては苦痛でした。
「そんな体力はほんとにこれっぽちも残っていなかった」
「ごめん、ちょっと疲れてて…家にいたい」と母に伝えた望月さん。望月さんからすれば、母は「ガンコ」な性格で、一度決めたことを滞りなく進めることにこだわるタイプ。「簡単には引き下がらないだろう」と考えていたその時――。
「うん、分かった」「お母さん1人で行ってくるね」
今まで見たことのないほど、あっさりと引き下がった母に望月さんは啞然。理由さえ聞かない母の態度に「もしかしたら全部わかっていたのかもしれない」と回想します。
望月さんにとって癒やしとなったのは、実家で続く今まで通りの「ふつう」の生活。一人暮らしと心労でそれを維持する難しさを実感し、帰省した実家でありのまま居させてくれる場所があることに幸せを感じました。
この出来事をきっかけに望月さんは、母がそんな「ふつう」の生活を支えてくれていたひとりなのだと思い知るのです。
「さいきんたまに、そのことを思い出し、また救われるような気持ちになる」。漫画の終盤では「おれも誰かが弱り切ったとき、その人のふつうを支えられる人になりたい」と綴られています。
望月さんの漫画には4千件以上の「いいね」が集まり、「泣いちゃいました」「鼻がツーンと熱くなった」「こんなお母さんになりたい」というコメントが寄せられています。
帰りたくても帰れない今だから、思い出す話。
— 望月哲門/マンガ家 (@Tetsuto1319) May 29, 2020
ユルい漫画ですけど、良かったら読んでください👏🏻
(1/2)#コルクラボ漫画専科 pic.twitter.com/OCQTdhrzJH
「当時はバラエティ番組を見るのもしんどくなっちゃって、移動中にイヤフォンで聴いていた音楽がノイズのように感じた時は『おれ、相当やばいな』って思いました」
心身ともに疲弊した当時を振り返るのは、漫画を描いた望月さんです。社会人1年目、それまで「人一倍楽観的に生きてきた」という自覚があるからこそ、悩みを抱えた自分を受け入れられなかったと言います。
睡眠時間もまともに取れない生活の中で、不安を払拭するために頑張りすぎ、疲れて気力がなくなって、また苦しみに抗って力を使いすぎてしまう……の繰り返し。帰省しようと思ったのは、自分の状態をやっと客観視できた頃でした。
そんなギリギリの状態であることを察したのか、帰省中も何も言わずそっとしておいてくれた望月さんの母。
望月さんは母について「ガンコなところは自分も似ていて、よく口論になることがあった」と話します。親戚の家に行く時も、展開を予想していたからこそ、母の意外な行動に当初は拍子抜け。しかし、それが母なりの優しさだったと望月さんは理解しています。
作中に描かれた時期の後も、望月さんの気分の落ち込みは続き、好きだった漫画も一時は描くことを手放したといいます。体をしっかり休ませ、自分に考える時間を与えないように読書に没頭。他にも映画や舞台などの芸術に触れ、友だちにも自分のことを話せるようになると、だんだん気持ちも上向きになっていきました。
「以前は夢や目標を持って頑張らなきゃと思っていたんですけど、それが自分を苦しめていた気がします。最初から強く掲げなくても、手元にあるものを選んで、それを目標にしていけばいいかなと思っています。それが今は漫画で、もう一度やってみようと思って描き始めました」
投稿した漫画には「今の自分と重なる」「泣けた」などのコメントが集まっています。望月さんは「全部ものすごくうれしかったんですけど、子育てしている方から母の目線で反応をいただいたのは印象的でした」。
「コメントからも、お子さんとの接し方を悩みながら子育てしているのが伝わってきました。『こういう母親になりたい』とおっしゃっていただけたのは驚きましたし、何か気づきを与えられたのであればとてもうれしいです」
望月さんにとって、当時は実家で「いつも通り」に過ごすことが、心の休息につながりました。「でも、自分は家族と仲が良かっただけで、誰にとっても実家が休める場所とは限らないから難しい」という複雑な心境も抱いています。
「今もしもしんどい人がいたら、もっと視野を広くすることで休める場所が見つかるかもしれない」。漫画では盛り込めなかったものの、同じ境遇の人への思いを口にします。その願いからは「ふつうを支えられる人になりたい」という作中の言葉が重なりました。
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