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#1 アニメで変わる地域のミライ

コロナが変える「聖地巡礼」在宅勤務なら“住んでしまえ”という選択

飯能銀座商店街に設置された「ヤマノススメ」のキャラクターパネルやポスター=筆者撮影
飯能銀座商店街に設置された「ヤマノススメ」のキャラクターパネルやポスター=筆者撮影

目次

アニメやマンガの舞台を旅する「聖地巡礼」の世界でも、新型コロナウイルス感染拡大により、移動をともなう「巡礼」ができなくなっています。地域振興の手段としても定着してきた中、もどかしい思いをしているファンも少なくありません。その一方で、在宅ワークが広まる働き方の変化は「聖地巡礼」の新たな可能性を気づかせるきっかけにもなっています。オフラインとオンラインの活動を巧み組み合わせてきた「聖地巡礼」の未来について考えます。

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必要不可欠なファンの存在

「聖地巡礼」においては、いち早く舞台を特定し、その情報を広めるファンの存在が必要不可欠です。近年ではアニメの製作側から舞台が明かされることも増えてきましたが、インフルエンサーとして、「聖地巡礼」ファンの存在は依然欠かせないものになっています。

こうした作品の舞台にまつわる情報を共有し、作品や地域の垣根を越えて交流する国内最大級のファングループがあります。「舞台探訪者コミュニティ(BTC)」と呼ばれるものです。BTCの設立者で、代表を務めるハブさんはこう振り返ります。

「『オンラインからオフラインへ』というコンセプトで活動しており、オンラインのコミュニティですが、メンバー同士が直接会うオフ会も重視しています。年に一度、メンバー同士で交流する『舞台探訪サミット』も開催していました。『たまには普通の旅行をしよう』というコンセプトで立ち上げた企画だったんですが、毎回何かしらの作品の舞台を旅しています」

首都圏のほか、北海道、中四国、九州など全国7地方で「支部」と呼ばれるグループがあり、定期的な飲み会やキャンプなどの宿泊企画を実施していたといいます。

【関連リンク】舞台探訪者コミュニティ公式サイト

過去にはBTCの活動を広報するため同人誌を発刊していたといいます
過去にはBTCの活動を広報するため同人誌を発刊していたといいます 出典:BTCのサイトより

オフラインから再びオンラインへ

しかし、こうした「オンラインからオフラインへ」を軸にした活動も、新型コロナウイルスの影響でオンラインのみの活動を余儀なくされています。ハブさんはこういいます。

「私自身も4月ぐらいから在宅勤務となっており、外に出るとしても自宅周辺を運動がてら散歩するような感じです。各メンバーのTwitterを見ても、『聖地』に行けず、家でアニメなどを見たり自宅周辺を散歩したりしているような感じです」

ハブさん個人でも、「聖地巡礼」のほか、アニメ「ヤマノススメ」や「ゆるキャン△」などに影響されて始めた、登山やキャンプなどアウトドアの趣味ができていないといいます。

そんな中、ハブさんはBTCとしてオンラインで何かできないかと、ゴールデンウィーク中にある企画を実施しました。

「過去の『舞台探訪サミット』の一部の様子をメンバー向けに配信する企画を行いました。企画を思いついてから一週間での開催でしたが、周りの様々な方に協力してもらい実施することができました」

「舞台探訪サミット」は近年では京都府宇治市や香川県観音寺市、静岡県沼津市などを訪れています。いずれもアニメの「聖地」を擁する場所で、例えば宇治市は「響け! ユーフォニアム」、観音寺市は「結城友奈は勇者である」、そして沼津市は「ラブライブ!サンシャイン!!」の舞台になっています。

他にも、コロナの時期だからこそできる企画を積極的に行っているといいます。

「メンバー同士でオンライン飲み会も随時やっています。オンラインからオフラインの交流を行うためにBTCを立ち上げたのですが、まさかオフライン交流で培った幹事的なノウハウが再びオンラインでの交流に役立つとは思いもしませんでしたね」

「ヤマノススメ」の聖地の一つ、飯能市にある観音寺の境内=15年11月、筆者撮影
「ヤマノススメ」の聖地の一つ、飯能市にある観音寺の境内=15年11月、筆者撮影

アルバムを見返すと…

人の長距離移動の自粛が続く中、誰もがすぐ始められる「聖地巡礼」の楽しみ方としては、Googleのストリートビューで「聖地巡礼」した気分になれるというものがあります。しかし、ハブさんは違った楽しみ方もあると打ち明けます。

「アニメの『聖地』として話題を集めるところは観光地としてはマニアックな場所もあるのですが、実はその多くは一般にも有名な観光スポットだったりします。なので、アニメ作品を見て『どこか見覚えがあるな』という景色があれば、自分が過去にした旅行のアルバムを見返してみてください。意外と、既に訪れた写真が眠っているかもしれません」

コロナが落ち着いたら、ハブさんは自粛期間中に新しく見たアニメや、好きな作品の「聖地巡礼」をしたいといいます。今はアニメを観ることに費やし、アフターコロナの際にその感動を旅で追体験するのも楽しみ方の一つかもしれません。

JR身延駅(山梨県身延町)に設置された「ゆるキャン△」のパネル=筆者撮影
JR身延駅(山梨県身延町)に設置された「ゆるキャン△」のパネル=筆者撮影

「聖地」のあり方は

「聖地巡礼」の魅力は、一つ一つは“オタク的”なファン活動なのですが、その先に地域住民との交流が生まれる点にあるものだと筆者は思います。この出会いから新たな「故郷」を見いだし、その土地に思い切って移住してしまう人も現れています。しかし、移住先で職探しに困る例も少なくありません。

コロナの影響で今は人の移動が制限されていますが、一方で在宅勤務やテレワークがかつてない勢いで広まっています。これにより、働く場所によって住む場所が縛られる従来の考え方も変わろうとしています。この考え方が進めば、好きな作品の舞台に好きに住んで働くことができる……。「聖地」は巡礼する場所から移住する場所へ。コロナウイルスはひょっとすると、「聖地」のあり方をも変えてしまうのかもしれません。

「聖地」メモ
舞台探訪者コミュニティ(BTC)
2008年4月に、mixiのコミュニティをもとに設立された、作品や地域の枠組みを超えた国内最大級の「聖地巡礼」ファンのグループ。会員数は20代から60代にかけて計121人にのぼる(2020年5月時点)。メンバーの中には、アニメ放送当日に舞台を特定し、早ければ翌日には現地を訪れその詳細をレポートするなど、「聖地」を切り拓いている人もいる。また、舞台を解説したガイドブックなどの同人誌を作成しているメンバーもおり、多岐にわたる活動をしている。

河嶌 太郎

「聖地巡礼」と呼ばれるアニメなどのコンテンツを用いた地域振興事例の研究に学生時代から携わり、10以上の媒体で記事を執筆する。「聖地巡礼」に関する情報は「Yahoo!ニュース個人」でも発信中。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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