連載
#8 #アルビノ女子日記
「白い髪で就活」わがままですか? アルビノ女子を苦しめた固定観念
生まれたままの姿を認めて欲しい、ただそれだけ
「髪の毛は、黒く染められますか?」。生まれつき髪や肌の色が白い、アルビノの神原由佳さん(26)は学生時代、アルバイトの面接でそう問われました。「黒髪こそが正しい」という世間の価値観は、就職活動にも影を落としたそうです。人生の選択肢を、外見によって狭められてしまう社会。今は社会福祉士として、自分らしく働く神原さんに「本当の生きやすさ」についてつづってもらいました。
「就職活動で苦労しましたか?」
取材で聞かれる「鉄板」の質問だ。アルビノが就活で苦労することは、取材側の前提となっているようにも思える。「ああ、いつもの質問ね」と内心、思っている。
とはいえ、私も大学生の頃、アルバイトの面接で苦労した経験はあるので、それを淡々と語っている。それは、あくまで私の体験の一つに過ぎないけど、その部分だけが切り取られ、「アルビノのために仕事に就けない女性」として描かれたこともあった。
この報道に触れた人は、私のことを「かわいそうな人」と思うかもしれない。でも、実際はそう単純ではない。
私がいつも語る差別体験は、大学生のときのものだ。
アルバイトに応募するにあたって、この髪色がどう判断されるか不安だった。求人サイトの検索項目で「髪色自由」のチェックボックスには必ずチェックを入れた。アルビノに伴う弱視なので、運転免許証も持っていない。サイト上で、私が応募できる企業は限られていた。
その中でも、スーパーやアパレル、個人経営の飲食店、いくつか面接を受けた。どの面接でも、私の顔を見るなり、担当者の顔は険しくなった。部屋の空気は重くなって、その場にいる自分が場違いな人間みたいで、今すぐに帰りたいと思った。
「髪は染められますか?」と聞かれたこともある。
一瞬、面接官が何を言っているのかわからなかった。生まれつきであることを説明しても、相手は困った顔をしたまま。私は「染めなければならないのなら、結構です」と伝えた。
結果は、すべて不採用だった。
友人たちが当たり前のようにアルバイト先が決まっていくのに、自分は違う。そんな現実に打ちのめされた。友人に「面接どうだった?」と聞かれれば「なんか、倍率高かったみたい」と、バレバレの嘘をついた。
そして、私はアルバイトを諦めた。
ただ、正直に明かすと、どうしてもお金が必要な状況でもなかった。親から「勉強と部活を頑張れ」と学費や生活費を工面してもらっていたからだ。もし自分で稼ぐ必要がある状況だったら、髪色が問われないアルバイトを、もっと必死に探したと思う。
私が働くことについて、初めて意識したのは高校生のときだ。満員電車で通学中、就活中の学生を見かけた。リクルートスーツに、黒髪のひっつめ髪。「この人、さっきもすれ違ったっけ?」と思うほど、みんな画一的なスタイルだった。
そうした光景を見ているうちに「私も就活生になったら、黒染めをしなければいけないのかな……」と思うようになった。たとえ黒染めをしても、すぐに髪が生えて「逆プリン」になることは明白だった。肌の色が白すぎるから黒髪にすると顔色が悪く見え、逆に印象が悪くなるのではないかという心配もあった。
なにより「就活は黒髪でなければならない」という固定観念が、アルビノとして生きることを否定されているような気がした。黒こそが正しく、白は間違いなのだと。
そして、私はこう思うようになっていた。「画一的なスタイルを求める一般企業への就職は難しいだろう。少なくとも白髪の私は、黒髪の人以上の能力が求められるのではないか」と。
当時は思春期まっさかり。人とは違う姿への違和感に悩み、自分と向き合うだけで必死だった。人よりも努力して社会に求められる能力を身につけようという気概は、あのときの私にはなかった。
それでも、卒業後の進路を決めなければならない。
一般企業が難しいなら、資格をとって手に職をつけようと思った。「人の役に立ちたい」との思いもあり、社会福祉学科がある大学に進学した。
大学では、アルバイトの面接での苦い体験もあり、民間企業への就職は私には向いていないと、ますます思い込むようになっていた。だから、就活は福祉業界に的をしぼった。
書類で落ちることもあれば、面接で落ちることもあった。履歴書の備考欄にはあらかじめアルビノであることを記載した。面接で、髪色を問われることはなかった。ただ、不採用通知が届けば、「アルビノのせいかな……」と思ってしまう自分がいた。
実際に働いてみると、アルビノが不利益になることはなかった。すぐに顔を覚えてもらえるし、外見のことを聞かれたときには、それをネタにして話を広げることができる。今、私は精神障害者向けのグループホームで働いているが、外見よりも、私の仕事ぶりやキャラクターを見てもらえている。福祉の仕事は面白いし、私にとって天職なのかもしれない。
ここまで読み、「なんだ、アルビノといっても就活に苦労なんてしないじゃん」「民間だって、そんな差別はないよ」と思った人もいるかもしれない。
ただ、アルビノである私が就活のときに黒髪のプレッシャーを感じたことだけは、どうかわかってほしい。
「髪を染められませんか?」と聞かれた大学時代の経験は、私の心に重くのしかかった。ことごとく白髪を否定され、働くことへの自信を失ってしまったアルビノの友人もいる。外見に症状がある人は、私のように「民間企業は無理」と自ら選択を狭め、福祉職に就く人も多い。
アルビノの方々が就活で差別を受けた記事が出ると、ネットでは「本当に働きたいなら髪を染めろ」とか「わがままを言うな」などのコメントを見かける。そうした意見について、私は間違っていると思う。
もちろん、黒髪に染めるアルビノの方がいても、私は否定しない。それは自由だ。でも、私のように生まれたままの白髪で働きたい当事者だっている。私にとって、髪を染める行為は「自傷行為」に近い感覚だ。それを強いる社会が、生きやすいと言えるだろうか。
もちろん、社会人として最低限のTPOがあることは知っている。「それでも髪色なんて、もっと自由でいいじゃないか」。そうした考えが広まってくれれば、「黒髪プレッシャー」から私たちアルビノは解放されると思う。
私が髪色を理由に接客業で不採用になったエピソードは、8年も前のものだ。この間、街でみかける外国人の方々は増えた。今やコンビニや飲食店でも、さまざまな髪や肌の色の人々が働いている。外見の多様性は増していると思う。
応援してくれる企業もある。ヘアケア製品ブランド「パンテーン」は「#令和の就活ヘアをもっと自由に」と、139社の協賛企業とともにキャンペーンを展開している。私も賛同し、パンテーンの動画に出演させてもらった。
もしアルビノで就職に不安な子がいたら「過度に心配する必要はないよ」と声をかけたい。後輩たちには好きなことや、やりたい職業に前向きにチャレンジして欲しい。私も「アルビノでも好きな仕事ができているよ」と発信し続けようと思う。
私の髪には、26年分の人生が詰まっている。それら全て含めて今の私がある。だから、この髪を染めるつもりはない。
社会は変わっていくはずだ。そう願っている。私は、これからもこの髪で生きていく。
【外見に症状がある人たちの物語を書籍化!】
アルビノや顔の変形、アザ、マヒ……。外見に症状がある人たちの人生を追いかけた「この顔と生きるということ」。神原由佳さんの歩みについても取り上げられています。当事者がジロジロ見られ、学校や恋愛、就職で苦労する「見た目問題」を描き、向き合い方を考える内容です。
1/30枚