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連載

#5 ネットのよこみち

在宅ワークの今、考える人類と「パケ死」の攻防 全角64文字の壁

iPhone3Gが引き起こした「連続殺人」

オンライン発表会で料金プランを説明する楽天の三木谷浩史会長兼社長=2020年3月、同社提供
オンライン発表会で料金プランを説明する楽天の三木谷浩史会長兼社長=2020年3月、同社提供

目次

携帯電話がネットにつながった時から、常に強いられてきたのが通信料との戦いだった。2000年代から問題化した「パケ死」は、2008年のiPhone3Gによって「連続殺人」とも言える状況を引き起こした。5G時代に入りかけた中、起きた新型コロナウイルスによる在宅ワークの広まりは、「回線の重さ」という形で通信料の存在感を見せつけた。人類と「パケ死」の戦いから、ネットが当たり前になっていく時代の変化を振り返る。(吉河未布)

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在宅ワークで容量使い切り

外出自粛、在宅ワークになってから、家でネットを使うことが増えた。多くの人がそういう生活を余儀なくされた結果、しばしば「あれ、いつもよりネットが重たいな……」と感じることがある。

多くの人が、さまざまなことにネットを使っている事態。これまでしたことがなかったオンライン会議や授業、飲み会までネットを使うとなると、固定回線を引いていない人には大痛手だ。外に出て無料Wi-Fiを使うわけにもいかないのだから、自身の契約プラン容量を使い切ってしまう人が続出する。

大手キャリアは若者の救済措置に乗り出しているが、そのシステムは相変わらずわかりにくい。下手したら、無償だと思っていたらいつもよりたくさん払っている、という事態になりかねないことが指摘されている。早くサブスクのように、「利用状態に(あまり)関係なく、とにかく定額で使い放題」になる時代が来ないものか。

在宅勤務が増え、閑散とした人材派遣会社=2020年3月、東京都千代田区
在宅勤務が増え、閑散とした人材派遣会社=2020年3月、東京都千代田区 出典: 朝日新聞

「パケ死」の歴史

ところで、最近では契約プラン上限まで使い切り、低速になってしまう状態を「ギガが足りない」という表現をする。「パケ死」とも言うらしいが、時代が変われば、言葉の意味も変わるもの。「パケ死」は、もともとは「ネットを使い過ぎて、ウソみたいな高額の請求がくること」を指す言葉だった。

「パケ死」という言葉がじわじわと聞かれるようになったのは、2000年過ぎ。当時、携帯電話で利用するネットの通信料金は、「1パケット(漢字やひらがななど全角文字で64文字=情報量の単位で128バイトに相当)あたり」を基準に、使った分だけ支払う“従量課金”制だった。

あまり使わないならそれでいい。しかし、最初はそんなに使わないつもりでも、気がつけばどんどんネットの沼にハマり、当初の予定以上に使っているという人は多かったようで、「パケ死」する事例が続出した。

1999年当時の携帯各社のパンフレット。多彩な料金プランが並ぶが一読しただけではわかりにくい
1999年当時の携帯各社のパンフレット。多彩な料金プランが並ぶが一読しただけではわかりにくい 出典: 朝日新聞

「一日で約20万円」

2003年にauが、2004年にはNTTドコモ、ボーダフォン(現ソフトバンク)がパケット通信使い放題のサービスを発表したものの、連続パケ死事件は後を絶たなかった。

2007年、国民生活センターは携帯電話のパケット通信関連相談に寄せられる請求金額の平均が年々高額化していることを報告したが、2008年にiPhone3Gが発売されると、「パケ死」による請求の高額化はさらに加速。言うまでもなく、スマホは携帯電話よりはるかにネットが使いやすいためだが、背景には、当時海外では使い放題プランが適用されない、というカラクリがあった。

使い放題だからバンバン使ってOKかと思いきや、実は海外ではサービス対象外。しかも、自発的にネットを利用していなくても、“知らないうちにネット接続していた”ため、どんどん利用料金があがってしまったというわけだ。

ネット掲示板には「一日で約20万円」使った(ことになっている)という請求がなされ、支払い義務があ るのかどうかと議論が交わされたこともあった。

この問題を受け、大手キャリアは、2010年、相次いで海外利用向けサービスを開始。ただそれでも、海外ではキャリア指定の事業者を選ばないと結局サービス外になり、高額請求の危機にさらされた。

2009年当時の家電量販店の携帯電話売り場=東京都内
2009年当時の家電量販店の携帯電話売り場=東京都内 出典: 朝日新聞

海外で震えて使ったGoogle Map

私自身、ちょうどこの頃に海外出張があったのだが、「海外でスマホを使用するときは、高額請求のリスクがある」ということを既にネット上で散見していたため、スマホを使うときは異様に緊張したものだ。

海外でネットを使えるモバイルWiFiルーターをレンタルしたものの、うまく接続しないとトンデモ料金が請求されるという恐怖。接続した瞬間も、本当に高額請求がこないか心配で気が気でない。頭の中のイメージは、大昔の国際電話をする人だ。海外からテレホンカードで日本に電話をかけたとき、目の前でみるみるうちに度数が減って(つまり、どんどんお金がかかって)……いや、今はその話はいい。

ホテル内のフリーWi-Fiなら安心だが、方向音痴の私はGoogle Mapが必須。外でそれを見るときのドキドキ感たるや!! 手をプルプルさせ、「大丈夫だよな、大丈夫だよな……」と震えながらネットに接続し、音痴の頭をフル回転して一生懸命場所を少しずつ把握し、用が済めば一秒でも早く切断していた。心配しすぎて電源まで切っていたほどだ。小心者。

海外でお世話に人も多いGoogle Map=ロイター
海外でお世話に人も多いGoogle Map=ロイター

「パケ死」のない世界って?

コロナ騒動でほぼ在宅の今、自宅に引いた光回線を使うので、高額請求の恐怖も、スマホがパケ死になることもない。しかし、ここで悩ましいのが手持ちのモバイルルーターである。

スマホ・モバイルルーター・光回線とトリプル契約の私。パケ死のお知らせが届いたときには、スマホも外ではモバイルルーターのお世話になったものだが、外出自粛要請が出てからというもの、モバイルルーターは一度も使っていない(正確にいうなら、先日光回線の通信障害が発生したとき、召喚しかけたが)。

そんな「パケ死」と背中合わせの暮らしに終止符を打とうとしているのが、3月に商用サービスが始まった「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」がウリの第5世代移動通信システム(5G)だ。

米ラスベガスで開かれた家電見本市「CES」では、クアルコムがスマホ向けの5Gの技術を宣伝していた=2019年1月10日、尾形聡彦撮影
米ラスベガスで開かれた家電見本市「CES」では、クアルコムがスマホ向けの5Gの技術を宣伝していた=2019年1月10日、尾形聡彦撮影 出典: 朝日新聞

5Gが広まると、通信料を気にせず動画も見放題になる、と言われている。データ使用量も料金も、何も気にせず、ネットが使いたい放題。夢のようだ。……ただ、一方で頭をよぎるのは、「お金がかかるから、見たい・知りたい情報を厳選していた」時代の空気感。そして、お金のことが頭から吹っ飛ぶほどに、楽しさと便利さの沼にズブズブとハマった結果、突きつけられる「パケ死」という現実。

ダラダラとさっき見たばかりのSNSをまた見たり、サブスクでドラマやアニメ、漫画も1話だけ見て続きを見なかったりするのは、どれだけ利用しても“余計な課金”がないからだが、ふと「あぁ、この時間で本を1冊読めたな……」とか、「だったら早く寝れば良かった」など、自分で自分にトホホとなることは少なくない。

海の外で味わったドキドキは二度とごめんだが、お金を都度払ったほうが、コンテンツに対して本気で向き合うのは間違いないのだ。無制限で使い放題になった時の私は、果たして廃人にならずにネットの海を泳いでゆけるのだろうか。

期待と現実の間で壮大なモヤモヤを感じつつ、今はモバイルルーターの解約手数料と、外出自粛がすっかりとけるまでの月額料金を天秤にかけて悶々としている。

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