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中国版アマゾン創業者の「夫婦げんか」スケール大き過ぎて話題に
「中国版アマゾン」と呼ばれる「当当」(ダンダン)は、1999年に設立された中国の代表的な本の通販サイトです。2010年には、ニューヨーク証券取引所に上場するなど、中国で最も成功したネット企業の一つとされていますが、近年、その成長に影が差しています。特に話題になっているのは、創業者夫婦の「権力闘争」です。ネット上で暴露合戦を繰り広げ、印鑑の持ち出し事件まで起こしました。「最強のビジネスパートナー」と呼ばれた2人に何が起きたのでしょうか?
「当当」は1999年に、夫婦である李国慶(リー・グオチーン)と兪渝(ユーユー、Peggy Yu)両氏により設立されました。
中国では本の通販サイトとして先駆け的な存在で、圧倒的な知名度と市場シェアを誇っています。最近では、化粧品、家具類、ベビー用品、服装、電気製品などまでジャンルを拡大し、総合Eコマースサイトとして拡大しています。
今では、通販サイトしてはアリババが有名ですが、元々は「当当」のほうが通販サイトの代表格で、業界のトップでした。
2010年12月には、ニューヨーク証券取引所に上場し、時価総額は23億ドル(約2500億円)を超え、一躍注目されました。
書籍のオンライン販売からスタートして成功をおさめた「当当」は、アマゾンのベゾス夫婦のように、李夫婦が協力して会社を急成長させたこともあり、「中国版アマゾン」と呼ばれるようになりました。
アマゾンのベゾス夫婦と同様、李夫婦も超エリートと言われています。
李国慶氏は1964年生まれで、1983年に、北京市の文系学生の中でトップの成績で北京大学に入学しました。在学中は北京大の学友会の副会長を務め、優秀学生として卒業した後、トップレベルの中央政府機関に就職しています。
市場経済へ移行が進みはじめた1993年、李氏は公務員の仕事を辞め、図書・出版関連の会社を設立しました。
一方の兪氏は1965年生まれで、重慶市出身ですが、7歳の時に両親と一緒に北京市に移りました。1986年に北京外国語大学を卒業した後、アメリカへ留学し、ニューヨーク大学でMBA学位を取得。その後、ウォールストリートで自らの会社を設立し、投資事業などで実績を積みました。
2人は1996年に米国で出会い、3カ月後に結婚し、一緒に北京に戻ります。李氏が中国国内で育て上げた広い人脈と経験と、兪氏がアメリカで積み上げた最新のビジネスのノウハウによって「最強のビジネスパートナー」が生まれました。
アメリカで長く生活していた兪氏にとって、当時の中国国内の買い物は、かなり不便なものでした。
たとえば、北京の有名な本屋「西単図書ビル」は、7階建てのビルで、買いたい本を探すだけで一苦労でした。各階ごとしか会計できないなど、効率の悪いものと感じていました。
兪氏と一緒に暮らし始めた李氏も、アメリカ式のオンラインショッピングを体験し、その便利さを認めていました。そして、1999年、2人は中国で本の通販サイトの設立を決心するのです。
サイト名を決める際、兪氏はABCD順に考えた候補を部下に呼び上げさせ、その中から、「叮叮(ディンディン)」と「当当(ダンダン)」の響きを気に入りましたが、「叮叮」はすでに商標登録されたため、「当当」になったと伝えられています。
李氏と兪氏はそれぞれの人脈と知識を生かし、いきなり800万ドル(約8.8億円)の融資を得て、事業をスタートさせました。
当時、中国では本の海賊版が出回っており、「当当」は「本物」を保障したことで、多くの顧客の信頼を獲得しました。
2012年、「当当」のアクティブユーザー数は1570万人に達し、注文数は5420万件に達するなど順調に成長しました。
順風満帆に見えた「当当」ですが、ビジネスの足を引っ張ることになったのが、夫婦経営によるデメリットでした。
兪氏がBAT(中国のIT大手バイドウ、アリババ、テンセント)への資本参入を進めようとすると、李氏は50%の株式の所有にこだわり反対。結果的に「当当」が発展するチャンスを失うことになったと指摘されています。
李氏が本以外にジャンルを広げた「総合ショッピング戦略」に対して、兪氏は消極的だったとも言われています。
結局「当当」は株価の暴落を経験し、2016年に株価が最高値の4分の1にまでになります。結局、李夫婦が株を購入し、「当当」は上場廃止となり、プライベートな会社に戻りました。
その後も、経営方針をめぐり、2人の意見の食い違いがさらに激化します。
2018年、権力闘争で敗れた李氏は、2019年2月に、CEOの座から退き、兪氏がその後任になりました。
李氏は、SNSで社内で起きたトラブルを暴露し、兪氏の「独裁」と「専制」を批判し続けました。
兪氏は、2019年10月に、中国版LINEのWeChatにおいて、李氏の性的嗜好などに関する情報を明かし、力強い「反撃」をはかりました。
2020年4月26日、李氏は関係者4人と「当当」の本社オフィスに押し入り、社印など印鑑を取り上げ、自ら社長とCEOに戻ったと宣言します。
一方、兪氏は、印鑑の無効を発表し、経営権の交代を否定しました。
「当当」の経営権を巡る対立は今も続いています。
エリート経営者夫婦のトラブルは、ネット上の関心を集める結果となりました。
李氏を支持する人と兪氏を支持する人に分かれて論戦をしたり、「吃瓜観衆」(自分と関係なく、ただ観賞するだけ)という態度を取ったりする人が生まれています。
「家庭は心の港です。事業が大きくなればなるほど、お金も多ければ多いほど、家庭の幸福のプラスにならなければ、意味がありません」
「『当当』の会員として言いたいことは、いい本を残して、ということだけ。(トラブルばかりの)夫婦は、もうごめんだ」
「愛情が金銭に負けた事例になったと思いますが、今後、夫婦の誰かが経営権を握っても、『当当』のイメージダウンは避けられないでしょう」
「現実はドラマよりドラマだ……」
当初は、「最強のビジネスパートナー」として事業を急成長させた2人でしたが、優秀過ぎるがゆえに、一度、生まれた亀裂を修復することができなかったのかもしれません。
ベゾス氏も離婚を経験していますが、アマゾンのビジネスは新型コロナウイルスによる「巣ごもり消費」によって好調です。
「当当」ユーザーの一人は、こんなコメントを投稿していました。
「ベゾスの離婚の方がはるかに平和だ」
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