連載
#5 #おうちで本気出す
おうち生活に潤い「日本ロマンチスト協会」がすすめる非日常の妄想力
新型コロナウイルスの影響で、家で過ごす時間が長くなりました。パートナーへの不満がたまり、ネットでは「コロナ離婚」の危機という声も上がっています。しかし、そんな2人にもロマンチックな日々があったはず。ロマンスが薄れている今、ロマンチックに暮らすにはどうしたらいいのでしょうか。一般社団法人日本ロマンチスト協会に聞きました。
「ロマンス的に、非常に危機的な状況です」。日本ロマンチスト協会の会長・波房(なみふさ)克典さん(46)は、現状をそう捉えます。
在宅勤務が続いて仕事とプライベートのメリハリがつかなくなったり、外出自粛でストレス発散ができなかったり、多くの人が悩みながら生活しています。些細な言葉に反応し、イライラが爆発してパートナーとけんかになることもあるかもしれません。
日本ロマンチスト協会では、2007年から大切な人を幸せにする力(=ロマンス力)の大切さを伝える活動をしてきました。自身も「ロマンチスト」を称する波房さんは、こんな状況だからこそ楽しめることを考えた方がいいと話します。「夢見がちで空想癖があると言われてきたロマンチストたちの、家の中で発揮できる想像力・妄想力が問われているのかもしれません」
普段は「ソーシャルムーブメントをデザインする」会社を経営する波房さん。現在は在宅勤務中です。制限された生活の中でも、同居する婚約者を「世界で一番幸せ」にするため、ロマンチックな時間を意識しているといいます。
在宅勤務になり、平日家事をする時間も増えました。その中で楽しんでいるのが「ご当地巡り」です。日本全国に行ったつもりになってパートナーと料理を作ります。「北海道と言えばどういうみそ汁があるのか、47都道府県のご当地汁レシピを集めています。検索して、2人で作る。それで一緒に旅行した気分を味わうんです。今日はどこに行きたい? って聞いて。日本中のご当地缶詰も集めてみようかと話しています」
非日常感が出てオススメというのは「ベランピング」です。「ベランダ」と「グランピング」を合わせた造語で、家にいながらアウトドア気分を味わえるといいます。波房さんはイルミネーションライトを飾り付け、食事を楽しんだそうです。「日常の中で非日常な演出。家にあるテーブルや棚を外に出しただけで割と雰囲気が出ます。待ち合わせは我が家、デートも我が家です」
特別な演出は2人の距離を縮めますが、基本的なコミュニケーションも欠かせません。「褒める、感謝する、ネガティブな言葉は使わない」ということを意識しているといいます。
「ポジティブな気持ちは伝えた方がいい。言葉で表現しなくてもわかるという文化もありますが、言葉にした方が伝わります」
一方で、パートナーと同じ空間にいすぎてつらいという人には散歩を勧めます。「心が弱っているときに散歩をすると、自分と向き合いながら歩くのでメディテーション(瞑想)になります。けんかをした後に散歩をしながら反省するのもいいと思います」
日本ロマンチスト協会は波房さんが2007年に立ち上げた団体です。ロマンチストを「大切な人を世界で一番幸せにできる人」と定義しています。ここでもロマンチックな表現が光りますが、波房さんが考える「ロマンチスト」とはどんな人なのでしょうか。
「ホスピタリティが高く、人生を豊かにしたい気持ち、ロマンス度が高い。例えば、会社の同僚の誕生日に贈り物をする人、ご飯を食べに行こうと言える人は周りのことを見ているし、気遣いができる。利己的な人より利他的な人、誰かを喜ばせることが好きな人が多いと思います」
会員数は約1700人。毎年6月19日(ロマンティック)の「ロマンスの日」に、パートナーへ何か一つ青いものを贈る「プレゼントブルー」という活動をしています。「青はあなたのことを世界一愛していますよのキーカラー」と波房さん。結婚式で青いものを身に着けると幸せになれるという、「サムシングブルー」のおまじないを元にしているそうです。
愛や恋をテーマにした自治体づくりにも携わっていて、その一つ「恋する灯台プロジェクト」では、全国各地の灯台の中から、ロマンスの聖地にふさわしい灯台を「恋する灯台」に認定しています。「灯台には、最果て感や異世界感がある。海と空が限りなく青く、白亜の灯台。人はほとんどいない。この世界に今君と僕しかいないと感じられる場所です」(波房さん)
波房さんがロマンチストを名乗るようになったのは、協会の設立からさかのぼること7年、20世紀最後の年に、ワーキングホリデーでカナダに滞在していた時のことです。
「カナダ人とコミュニケーションを取るに当たって、どうしたら自分のことを覚えてもらえるか考え、自分のキャッチフレーズを作ろうと思いました。そこで『I'm the last romanticist in this century.』って言ったら面白がってもらえた。態度表明をすると、コミュニケーションが広がるという体験をしました」
波房さんは以前ロマンチストだと自己紹介したときに、相手から「私はリアリストです」と返されたことがあるそうです。しかし、「ロマンチストは、思い描いたビジョンを徹底的にやり抜いて、本気でそのビジョンに近づけていく。究極のリアリストです」と断言します。
会社経営者である波房さんは、「多くの経営者もロマンチストだと思う」と話します。「経営者はビジョンが先にあって、それをどう実現させようか、本気で考えるんです。ロマンチストが究極のリアリストというのはそういうことで、リアリストで諦観している人は、自分の人生を主体的にマネジメントできていない気がします。人生を自作自演のドラマと考えるなら、その脚本は自分で書いた方がいいし、ロマンチックな方がいいです」
自らロマンチストを名乗ることは勇気がいる気もしますが、SNSの存在がそれをポジティブにさせるといいます。「SNSは態度表明社会で、態度を表明することがかっこいいという風潮がある気がします。自分のポジションを出すことは賛同される。ある種勇気はいるんですけど、勇気が称賛されうるので、ロマンチストで何が悪い、と言えます」
協会では、3密(密閉、密集、密接)ならぬ3R(三つのロマンス)も提唱しています。3Rとは「日常に蝕まれた『ふたりの関係改善』を図るため」の「日常の中の非日常的な演出」のこと。具体的には「サプライズ」「ロケハン」「30秒ルール」です。「待ち合わせにさりげなく小さな花束」を用意したり、「大切な人の笑顔が浮かぶデートプランを一生懸命考え」たり、「愛おしい気持ちで相手の瞳を30秒間、見つめて」みたり、積極的に密なコミュニケーションを取ることを勧めています。
ご当地汁レシピや小さな花束など、日常にひと工夫するだけで非日常を演出できるのが、ロマンチストの知恵。30秒間相手の瞳を見つめるのは少し恥ずかしい気もしますが、その殻を破ったとき、毎日がロマンチックになるかもしれません。
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