連載
非常勤講師の初日、生徒を前に「あ、無理かも」理想との乖離を漫画に
最初から誤魔化して良い格好なんかしてんじゃねえ
前回、初めて臨時講師として高校の門をくぐり、校長先生と対面した新米くん。
校長先生からは、生徒と初対面の場となる朝会で「気のきいた面白い挨拶をお願いしますよ!」と期待をかけられ緊張が走りました。
そんな新米くんについては、作者のしろやぎさんは「自分を教師という型にはめて、『それらしい良いことを言わなければいけない』と考える新米くんは追い詰められていきます」と解説していましたが、まさに今回はそんな新米くんの姿が。
朝会が開かれる体育館に案内されている最中の新米くん。「面白い挨拶とは…」「一体何を話せば…」と頭の中でぐるぐると考え続けています。
しまいには「イイ話風なためになる話をでっち上げてやろうか…」なんて考え出しますが、震えが止まらない中で「そんな子供だましが通用するはずない…」と自分で突っ込みを入れています。
なにを話そうか逡巡しているうちに、とうとう体育館に着いてしまいました。
新米くんを案内してくれた校長先生は、司会者の先生に「んもう校長ったら遅い…始まってますよ」と怒られ、「ごめんちゃい」。謝り方といい、赤い鼻といい、濃いめのキャラクターが憎めない校長先生です。
そんな校長先生が視界に入らないくらい緊張している新米くんは、目の前に並んだ高校生たちに圧倒され、「あ、無理かも」。フリーズしてしまいました。
「花子先生の代わりに赴任しゃれる先生を紹介しゅましゅ」と、壇上から新米くんを呼ぶ校長先生。
ところが、そこにいるはずの新米くんの姿が見えません。まさかの逃亡です。
その頃新米くんは、生徒の下駄箱の横で、真っ青になりながら膝を抱えていました。
「無理だ」「自分なんかが軽い気持ちで来ていい場所じゃないんだ」――。
採用連絡が来てから勢いに身を任せていた新米くん。ある意味トントン拍子に進んでいた物語が急ブレーキです。いや、もしかしたら新米くんは最初からアクセルを踏んですらいなくて、道路が勝手に動いていただけ…?
膝を抱える新米くん、遅刻してきた女子生徒に見つかります。女子生徒は、「こわ…何者?」とけげんな顔です。わかります。
けげんな顔をした女子生徒に、新米くんは事情を話したのでしょう。
「ぶっははははは」と笑い飛ばされます。
「それでビビってそんな隙間に隠れてんの?そんなヘタレな先生存在するんだ」と大ウケ。「だっせー!!」とまで言われてしまいます。
女子生徒は「人が怖いならジャガイモか何かと思えばいいんじゃない?知らんけど」と、だいぶ堂々としています。
そして続けたのはこんな言葉。
「誰もアンタの話なんて聞いてないから」
文字面は冷たく感じますが、このときの新米くんにとって、この言葉はもしかしたら緊張を解きほぐすおまじないに聞こえたかもしれません。
人前での挨拶、考えるだけで胃がキリキリする人も少なくないのではないでしょうか。
新米くんがここまで悩むのは、理想とする教師と自分の間に乖離があることに自覚的だからなのかもしれません。
作者のしろやぎさんに、一見、冷たく感じる女子生徒の「誰もアンタの話なんて聞いてないから」の一言に込めた思いを聞きました。
新米くんはどうしてこんなに挨拶を恐れているのでしょうか。
それらしく、まともそうな言葉を並べてその場をやり過ごすこともできたと思います。でも、学校で働きたくない自分の気持ちに嘘をつき、勢いで教師を始めようとしていること……その嘘が生徒たちにバレるのが怖いのだと思います。
逃げ出した新米くんに声をかけた生徒は、弱みを全力で見せつけてくる珍しい大人に、少なからず共感してくれます。
この生徒がもう少し素直だったら、「最初から誤魔化して良い格好なんかしてんじゃねえ」「うまく出来ないありのままの自分を見てもらって笑われればいいじゃないか」とか言ってくれたのかもしれません。
【次回予告】
次回は新米くんが考え抜いた挨拶が聞けます。…聞けるはずです。
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withnewsでは、しろやぎさんの「あなたそれでも教師ですか」を毎週日曜日に配信予定です。新米くん編に続き、男子くん編など、新米くんを軸とした教育現場を描いていく予定です。
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