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病院内で暴行事件、中国「医療系クラウドファンディング」の抱える闇

村の診療所で治療を受ける病気の子どもたち=2008年3月10日、江西省鄱陽市
村の診療所で治療を受ける病気の子どもたち=2008年3月10日、江西省鄱陽市 出典: ロイター

目次

難病で苦しむ人の治療費などをインターネットを通じて集める「医療系クラウドファンディング」のプロジェクトは、中国で盛んに実施されています。日本のように保険制度が整っていないため、医療費が払えない人が多く、寄付に頼る人が少なくないからです。一方、ビジネス目的に運営される問題も起きており、最近ではライバル会社同士の社員による暴行事件にまで発展しました。中国の医療系クラウドファンディグから、ネットを通じた健全な助け合いのあり方について考えます。

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病院の外、病気の子どもを抱っこするお母さん=2004年5月11日、北京、中国
病院の外、病気の子どもを抱っこするお母さん=2004年5月11日、北京、中国 出典:ロイター

5.5億人を超える会員

最近では、医療保険の補助が整備されるようになった中国ですが、難病を患った場合の自己負担は少なくないのが実情です。そんな難病の患者と家族を助けるため生まれたのが医療系クラウドファンディングです。

中国の医療系クラウドファンディングとして有名なのは、「水滴」(スイディー)、「軽松」(チンソン)と「愛心」(アイシン)などです。とくに「水滴」と「軽松」は二強のライバルとして勢力を競っています。

「軽松」が設立されたのは2014年で、業界の先駆者として知られています。オフィシャルサイトによると、2018年9月時点で、世界183カ国と地域で5.5億人を超える会員を抱え、253万以上の案件を扱い、集めた寄付金は255億元(約4080億円)を超えています。

2016年に設立された「水滴」は、最近、急激にシェアを広げています。オフィシャルサイトによると、2018年3月現在、有料会員数は1億人を超え、「中国で発展スピードが最も早いインターネット健康保障プラットフォーム」とうたっています。

医療系クラウドファンディングサイト「水滴」のHP
医療系クラウドファンディングサイト「水滴」のHP

病院で起きた「大げんか」

患者を助け、よりよい社会に貢献するはずの医療系クラウドファンディングですが、ビジネスとして成長した結果、病院内で「水滴」の社員が「軽松」の社員に暴行を加えるという事件も起きました。

暴行の様子を記憶した動画は微博でアップロードされ、事件の経緯とともに拡散されました。

難病で入院した患者に対して、自社のクラウドファンディングに加入させるようと病院での「営業」が過激化したことが背景にあると言われています。

微博ではさっそくホットな話題としてランクインし、加害者側の「水滴」社員は500元(約8000円)の罰金と12日間の勾留処分となりました。

中国版ツイッター微博にアップロードされた「大げんか」の動画
中国版ツイッター微博にアップロードされた「大げんか」の動画 出典:中国版ツイッター微博のスクリーンカット

寄付金が投資にまわるビジネスモデル

行きすぎたビジネス化として問題視されているのは、集めたお金が直接、患者に届かない仕組みになっていることです。

多くの医療系クラウドファンディングでは、寄付金はいったん運営会社の「資金プール」に入れられ、投資の元手になります。さらに運営会社は寄付金の6%を管理費や手数料として徴収します。

「水滴」と「軽松」は、手数料は徴収しないとアナウンスしていますが、実際には寄付金を引き出す際に0.6%の手数料がかかるという声もあります。社員も歩合制で「営業」の成果が多いほど給料が上がるため、「患者」集めに必死になる状況を招いているようです。

今では、寄付金を集めるため同情心をあおるような文面の「型」まで用意されており、運営会社が利益のために患者の窮状を適切に確認しないこともあると指摘されています。

医療系クラウドファンディングサイト「軽松」のHP
医療系クラウドファンディングサイト「軽松」のHP

「寄付詐欺」事件の数々

医療系クラウドファンディングを巡っては「寄付詐欺」も横行していると指摘されています。

「寄付詐欺」として多いのは、運営会社と患者が結託して、本当は寄付金が必要ないのにお金を集めるパターンです。

2020年2月、難病にかかったとして、河南省の幼児の家族が病歴などを公開し、35万元(約560万円)の寄付金を集めました。ところが、その家庭は裕福で寄付金は必要ではなかったことが判明しました。

2019年4月には、有名なタレントが脳卒中で倒れ、治療費として10数万元(約200万円)の寄付金を募りました。しかし、タレントは自分で治療費を賄えると指摘され、しかも、目標額を実際の費用より多い100万元(約1600万円)に設定したことで批判を受けました。

2018年7月、広西チワン族自治区で、娘の病気のために、「お金を使い果たした」母親が「水滴」で寄付を呼びかけ、25万元(約400万円)を集めました。しかし、その家族は店舗を所有するなど、経済的に恵まれていたことが暴露されました。

「寄付詐欺」が起きる背景には、運営会社が寄付金目当てにプロジェクトを立ち上げ、チェックが働いていないことがあります。

患者自身が利用されることもあります。

孤児である24歳の大学生「呉花燕」は、難病に患い、体重はわずか21.5キロまでに減りました。中国少年児童慈善救助基金会に所属する救助センター「9958」(語呂合わせで「救救我吧=私を助けて」)が主体となって、呉花燕の病歴などを「水滴」などのクラウドファンディングプラットフォームで公開。100万元(約1600万円)の寄付金を集めましたが、実際に呉花燕に渡ったお金は2万元(約32万円)しかありませんでした。呉花燕が2020年1月に亡くなり、救助センターのやり方も疑問視され、余った寄付金は返還されました。トラブルの背景には、重病・難病の患者は慈善事業が私腹を肥やす道具になっている実態があると言われています。

医療系クラウドファンディングサイト「愛心」のHP
医療系クラウドファンディングサイト「愛心」のHP

ネット上で広がる不信の声

ネットでも話題になった「水滴」社員による暴行事件。ネット上の反応からは、医療系クラウドファンディングへの不信感が高まっていることが伝わってきます。

「命がけで慈善をやっていますか? ビジネスにすぎないのでは?」
「もう信用したくないです」
「彼らは慈善機構ではありません!」
「中国はやはりNGOの発展が必要だ…」

こうしたクラウドファンディングのプラットフォームの厳正な管理・監督を求める声も上がっています。

寄付詐欺対策としては、患者の状態に対する審査を必須にして、プラットフォームが責任を持って情報管理をするよう仕組みの整備が求められています。

また、政府は「寄付詐欺」が「犯罪」にあたる可能性があると示唆しています。また、政府の医療サービスとインターネットを管理する部門に、医療系クラウドファンディングを監督するよう指導しています。

日本は医療保険制度が比較的に健全だとはいえ、難病を患う子どもを支援するための募金活動もしばしば行われています。

顔が見える「医療系クラウドファンディング」は、助けたい人と助けてほしい人をつなぐ大事な仕組みです。

その前提となるのは「信頼」です。中国で相次ぐトラブルからは、ビジネスと支援を両立させるためにも、「信頼」を傷つけない仕組みが大事であることが、あらためて浮き彫りになったと言えます。

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