連載
#1 #おうちで本気出す
「ぬい撮り」深淵なる世界「ぬいぐるみに自分を託す」写真通じ交流も
謎のこだわり「毛並みも整えます」
外出自粛が続く中、休日の家でどう過ごしたらいいか、アイディアが浮かばなくなってきている人もいるかと思います。最近、静かなブームになりつつあるのが、家でも一人でも楽しめる趣味「ぬい撮り」です。ぬいぐるみを主役にして日常生活の写真を撮ることを略して「ぬい撮り」。人と接することができない時期にぴったりの趣味かもしれません。見慣れた家の景色に違う見え方が生まれるという「ぬい撮り」にはまってしまったという人たちに、その不思議な魅力について聞きました。(朝日新聞・影山遼、河原夏季)
記者(影山)が以前から記事にしてきたサンエックスの「すみっコぐらし」。キャラクターのほとんどが隅にいて、ちょっと後ろ向きな世界観が幅広い世代に受けています。そこに登場するキャラクターのぬいぐるみが記者の自宅には大量にいますが、ぬい撮りにはこれまで出会いませんでした。思い返してみると、自身のツイッターにもぬい撮り写真がよく流れてきていました。たしかに、お気に入りの場所や季節で「これだ」という一枚が撮れれば、楽しそうな気もします。
ただ、中にはほぼ毎週のように撮影会をする猛者もいるそう。何がそこまで惹きつけるのか、完全にはまだまだ分かりません。
もしかすると、20代後半と30代前半の我々には分からない新しい趣味なのかもしれません。ということで、まずは若い世代に魅力を聞いてみることにしました。
東京都内の中学3年生になったばかりの男性(15)が教えてくれました。すみっコぐらしに出てくる「とかげ」と、サンリオの「シナモロール」がお気に入りです。
男性がぬい撮りに最初に触れたのは、2017年のこと。ぬい撮りのコンテストが当時開かれており、優秀作品にプレゼントされる「チェキ」が欲しくなって始めましたが、選ばれず。ただ、そこから徐々にハマっていくことになりました。
なんとなく見えてきた魅力は「現実にキャラクターが迷い込んだような世界観」でしょうか。話を聞くうちに、現実とキャラクターが融合した状態が男性の心をつかんで離さないように感じてきました。男性は「画像に言葉がついていると、ぬいぐるみが自分で話しているように見えませんか?まるで生きているように見えますよね」と熱く語ります。
取材で驚いたのが、ぬい撮りでの出会いです。男性には、よく一緒に撮影をしている人がいるといいます。「その方は、40歳近く年齢が離れているのですが、とても優しく、しかもたくさんのぬいぐるみを持ち歩いています」
出会いはキャラクターグッズを売っている店。開店前から並ぶ男性に対し、いつも向こうから挨拶してくれたことを機に、すみっコぐらしの話をすることで仲良くなったそうです。そこからはSNSで仲を深めていき、ぬい撮りのためにカフェへ一緒に行くことも。2人に共通するぬい撮りへの深い愛が、年齢差を感じさせていないようです。
男性の話からも、当たり前ですが、若い人だけの趣味ではないようです。古今東西、何かしらのキャラクターが愛されてきた存在であることを考えると、幅広い年代が取り付かれる趣味であることに間違いなさそうです。
どのようなサイクルで撮っているのでしょうか。「一日に何枚ものパターンを撮って、選抜して投稿する感じです。現実と同じで、より良くするために多少の加工も。なるべく同じ写真は撮らないようにして、見る人が飽きないように気をつけています。謎のこだわりとして、毛並みも整えます」
最後に、男性は「今は大変な時期です。自宅待機などの非日常で困ったり、ストレスがたまったりしてしまうかもしれませんが、1人でも『可愛い』『癒やされる』と思ってくれるぬい撮りをしたいと思います」と話してくれました。
ということで、対象を広げ、同年代でぬい撮りにハマっている人も探しました。
「私にとってぬい撮りは『撮影会』。推しのアイドルのベストショットを撮りたい!雑誌の表紙を飾れる写真を!というようなオタク心が強いと思います」。都内に住む会社員の女性(32)はそう力を込めます。ぬい撮りの中心はアニメやゲーム、ディズニーのキャラクター。先ほどの男性とは少し対象が違っているようです。
SNSに上げ始めたのは4年ほど前。自宅から連れて来たぬいぐるみをディズニーシーで撮影しました。同じ頃、ぬい撮りを前提として売られていたぬいぐるみ「ちょっこりさん」と出会い、いろんな撮り方ができると気づいたそうです。
ちょっこりさんとは、座らせたり、どこかにひっかけたり、何かを持たせたりできる小型のぬいぐるみです。ディズニーやポケモン、セサミストリートなどたくさん種類があります。
出動させるのは、キャラクターにまつわる料理を出す「コラボカフェ」や作品に関係する「聖地」を巡礼する時。「1人で行っても、ぬいぐるみと一緒なので1人ではありません。私はSNSに顔を出せる方の人間ではないですが、ここに行ったよとアピールはしたいので、ぬいぐるみに自分を託す感じかもしれません」
自撮りでは驚くようなテクニックを駆使する人もいますが、ぬい撮りにも撮影の秘訣はあるのでしょうか。
「聖地巡礼では、キャラクターが使用された場面と同じ場所を探して同じ画角で撮ったり、インスタ映えしそうな場所で撮影したりしました。表情は撮り方によって違って見えるので、ベストショットを撮りたいんです。この表情いいね、この角度いいね、って」
これまで多くのぬいぐるみに一目ぼれしてきました。購入欲が抑えられず、今ではその数、127に。さらに、ぬいぐるみ用の服を買うことも増えました。「帽子やカチューシャもサイズが合うものはあります。自分で作る器用な人もいるんですよ」
外出自粛が続きますが、家の中でも撮影を楽しんでいます。作ったご飯やコンビニのスイーツと一緒に撮影するだけでも立派なぬい撮り。家にも撮影場所はたくさんあります。
「お風呂場で撮影したり、カラーボックスの中をスタジオにしてみたり、クッションを背景にしたり。以前、思いつきでプチプチ(梱包材)を背景にしたらキラキラしてきれいでした。買ったけれど撮れていないぬいぐるみもいるので、この機会に撮ってあげたいです」
最近始めた人、基本的に自宅での撮影派にも聞いてみました。すみっコぐらしに加え、アミューズが生み出した「ぽてうさろっぴー」や「豆しば三兄弟」が好きな神奈川県の男性(31)は、2019年秋ごろから新たに始めたといいます。
「撮るのは大体が、夜。背景をできるだけ白の壁に統一しているのと、顔がちゃんと見えるように心がけています。新しいぬいぐるみが手に入った時に撮っているので、撮影はわりと不定期ですが、週1くらいは撮るように心がけています」
店のディスプレーを参考に、できるだけ列を成してビシッと並べて撮るようにしているそうです。男性は「自慢のぬいぐるみたちがみなさんの目に留まり、かわいいと思っていただけることが一番の魅力だと思います」と話しました。
そもそも、ぬい撮りについて、キャラクターを作っている会社はどう思っているのでしょうか。
ある人気キャラクター会社の担当者は「イラストの転用だと困るのですが、ぬいぐるみやマスコットといった立体物の画像であれば、問題なくお使いいただけます」と話しました。
楽しみ方は人それぞれのぬい撮り。個人で楽しむ趣味として、始めてみようかなと思います。
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