地元
グラバー園さんからの取材リクエスト
長崎県の人は自転車に乗らないって本当ですか?
長崎県民の謎ルール「自転車は乗らない」保有率圧倒的最下位の理由
長崎県の人は自転車に乗らないって本当ですか? グラバー園
東京一極集中と言われる日本ですが、地方に目を移すと「ローカルルール」と呼ばれるカルチャーがたくさんあります。中でも自転車は代表格で、サドルの低さやママチャリの多さなど、様々な「ローカルルール」が見つかっています。そんな自転車にまつわる「ローカルルール」でも、斜め上をいくのが長崎です。そもそも「自転車に乗らない」というのです。いくら坂が多いとはいえ本当なのか…? 現地で調べてみました。(朝日新聞デジタル編集部・影山遼)
以前、「福井の高校生、なぜサドル低い」という記事を世に出した時、読者の方から様々な感想をいただいた中に「長崎の人はそもそも、自転車に乗れません」という声がありました。
たしかに長崎や北海道の小樽といった街は坂が多いイメージがあります。検索で調べると、どうやら自転車店はあるようです。
今から1年前の2019年4月、別件で訪ねた際に長崎市の中心部を散策してみると、たしかに坂であふれています。乗れないというより乗る場所がないようです。ずっと立ちこぎをしたとしても難しそうです。
俳優で歌手の福山雅治さんも以前、インタビューに「長崎ですから坂が多いので、きつかったですよ」と新聞配達をしていたという当時の思い出を語っていました。
中心部を歩いていても、全く自転車に乗っている人が見つかりません。
帰宅する市内の高校3年生の女性(18)=年齢などは以降いずれも2019年4月の取材当時=に聞いてみると、「自転車?そういえば見かけないですね。乗れないというか乗ろうと思ったことがないというか。道も狭くて怖そうなんですよね」と教えてくれました。
1時間ほど探し回ってようやく、有名な観光地「オランダ坂」のふもとにある「長崎みなとメディカルセンター」の近くで、奇跡的に自転車に乗っている人を見つけました。
ママチャリに乗っていた男性(67)は「ここら辺の平らな道を移動する時だけ使うね。坂?電動じゃない、この自転車じゃ無理でしょ」と話します。
結局、1時間半で見つけたのはこの自転車ともう1台の計2台にとどまりました。
ではなぜ市内に自転車屋があるのでしょうか。話を聞いてみました。
グラバー園にほど近い「小松自転車商会」で働いていた男性は「長崎は自転車なんて全く売れない」と笑いながら話します。店内を見回しても30台くらいある原付きバイクに対し、自転車は2台のみ。しかもどちらも中古で、自転車店なのか原付き店なのか分かりません。
男性も「売れ筋はもちろん原付き。自転車は中古車が半年に1回売れれば良い方で、新車が売れた記憶がありません」と言い切ります。店に訪れる客もほとんどが原付き目当てで、自転車はたまにパンクの修理がある程度だそうです。
2018年の自転車産業振興協会の調査によると、推計ですが、長崎県の1世帯あたりの自転車の保有台数は0.556台で最下位。
全国平均は1.226台のため、約2倍の差があります。46位の沖縄県も0.695台のため、かなりの差をつけられています。
長崎あるある pic.twitter.com/U1yFw4whLD
— ポジティブしきぶ@毎日あるある (@positiveshikibu) November 20, 2019
坂がきついため、観光地にエレベーターまでもがついた長崎。なぜここまで坂が多くなったのでしょうか。
長崎市によると、市街地の約7割が斜面地。現在はなくなってしまいましたが、以前は斜面地のまちづくりを担当する「斜面地整備課」という部署もあったそうです。
市などの話を総合すると、現在の長崎のある場所は、山と山の間に少し平地があっただけでした。その後、人が住むために山を切り開いたり、海を埋め立てたりするうちに、今のような坂だらけの街になったようです。
東北・福島出身の記者にとっては、自転車は通学に欠かせないものでした。盆地を片道30分以上、自転車をこいで高校まで通っていたように、自転車のない生活は考えられません。
同時に、サドルやハンドルを使った謎のおしゃれ競争の記憶は、今ではそっとしまっておきたい「黒歴史」になっています。
そもそも「自転車に乗らない」という長崎県民。あの「ローカルルール」に毒されずに済むのが、むしろ、うらやましい気もします。
地域によっては多様な文化があることに気づいた今回の取材。奥深い自転車話、今後も追いかけたいです。
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