「POISON」聞いたら赤ちゃん泣きやんだ――。子育て中の親の間で、反町隆史さんが歌う「POISON~言いたい事も言えないこんな世の中じゃ~」を聴いた赤ちゃんが泣きやむ動画が話題になるなど、「赤ちゃんが泣きやむ音楽」は定期的にSNSなどで拡散されます。現在3歳児を育てている私も、子どもがぐずって泣いていた頃は、YouTubeで「赤ちゃん 泣きやむ」で動画を検索する日々でした。数ある「赤ちゃんが泣きやむ音楽」ですが、共通性はあるのでしょうか。埼玉大学名誉教授で乳幼児音楽教育学が専門の志村洋子さんに話を聞きました。
――POISONを聴いてみて、赤ちゃんが泣きやむポイントはどこにあると感じられましたか。
まず、赤ちゃんにとっては、「グワシャー」という音が聞こえていると思います。その上に、通奏低音が効果的に流れていて、その音の上げ下げがきれいに入っていると感じました。「ビューンビューン」という上がり下がりの周波数が気に入る子はいるだろうなと思います。
この赤ちゃんの反応は、聞きなれない強烈な音への反応といえるかもしれません。
――赤ちゃんが泣きやむ音楽はあるのでしょうか。
私は「おやなんだ反応」と呼んでいるんですが、赤ちゃんが「おや?なんだろう?」と思う音楽に効果があります。
泣きやむ音楽の定番、「ふかふかのうた」や、「ピアノ売ってちょーだい!」で知られるタケモトピアノのCMソングは、定期的なリズムはあるけれど、音が外れたり強化されてたりする。アクセントが強くされることもありますね。
そこで「泣いている場合じゃない!」と思うと泣き止むのだと思います。
正しいリズムだけではなく、赤ちゃんが「えっ」となるポイントがあるかないかだと思います。
――おやなんだ反応、おもしろいです。
だって5歳児6歳児が泣いたときも、「あ!あそこにアイスがあるよ!」って言ったら泣きやむでしょう。同じじゃないかしら。
――生後間もない頃は、レジ袋の「カサカサ」という音で泣きやむということもありました。
胎児の聴力はだいたい5カ月くらいでできあがります。赤ちゃんがお母さんのお腹の中で聴いている音は、ホワイトノイズと言いますが、レジ袋の「カサカサ」の音は、赤ちゃんがお母さんのお腹の中で聞いている音に似ているんです。
生まれて4時間経った赤ちゃんにレジ袋の音を聞かせたら、反応を示したという動画もありますが、お腹の中で聴いてきた音が、生まれた後聞こえると安心するんでしょう。
シャワーを壁に当てたときの音もホワイトノイズに近いと言われています。
ただ、赤ちゃんも、生まれてからは、だんだん色んな音が聞こえるようになって、違う音じゃないと飽きてきます。色んな音に興味を持ち始めます。家庭内の雑音だったり、オルゴールの音だったり。
――オルゴールの音ですか。
赤ちゃんは高い音が、大人よりもよく聞こえます。
親が聞こえていない音が、子どもに聞こえている場合もあるんです。
そう考えると、親は子どもに何か与えているつもりかもしれないけど、子どもの方が持ってることってたくさんあります。子どもは鋭い能力や、もっとすごい世界を持っています。
――子どもの音に関する能力を生かしたり伸ばしたりするために親は何ができるでしょうか。
まず、お部屋の中の音を少なくすることです。クーラーや冷蔵庫の音も含め、生活の中に音があふれすぎています。
静けさを味わってほしいと思います。小さい声で話しかけるのも楽しいです。静けさって贅沢なことなんですよ。
――一方で、「泣きやませないと近所に迷惑がかかってしまう」などのプレッシャーを感じる親もいます。
通報を心配して、泣きやませようと必死になる親のことを考えると、本当に気の毒なことだと思います。
ですから、泣きやませるために「泣きやむ音楽」を聴かせることは否定しません。ただ、ずっと聴かせ続けたり、大きな音で聴かせたりすることは控えてほしいと思います。音を感じて脳に伝える耳の内耳にある有毛細胞音を感じる有毛細胞という細胞は、ダメージを与えるとどんどんすり減り、元に戻ることはありませんから。
WHOも大音量で音楽を聴くことに対しての警鐘をならしています。昨年2月には音楽再生機器の使用に関しての国際基準を公表しています。WHOのテドロス・アダノム事務局長は「失った聴力は元には戻らないことを理解しなければならない」と呼びかけています。
朝日新聞デジタル「難聴リスク、若者2人に1人 WHOが音楽機器で基準」
息子がまだ乳児の頃、どうしても泣きやまないことがたくさんありました。そんなとき、頼りにしたのは音の力。息子のお気に入りは「ふかふかのうた」でしたが、飽きるのも早かったです。次の音楽を探したりしているうちに、いつの間にか自分の不快を言葉なり態度なりで示してくれるようになり、もう3歳です。
3歳になり、今度は音への不快感を表すことも増えました。そんなに大きな音ではないはずのテレビの音や、遊興施設の店先の音。「うるさーい!」と怒る息子に、「え?そんなにうるさい?」と返していましたが、志村さんのお話を聞き、「そんなにうるさいんだな」と反省しました。
志村さんは「静けさは贅沢」と話してくれました。「静かな夜に、お子さんが『こんな音が聞こえるよ』と教えてくれたら、『え?どんな音?』と聞き返し、そこから会話になっていくのもすてきですね」と提案してくれました。