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連載

#22 ○○の世論

世論調査のコールセンター「中の人」知らない人と電話で話すコツ

魔法の言葉「ちなみに」「そうですよね」

調査対象者に電話をかけるオペレーターたち=2020年2月15日、兵庫県
調査対象者に電話をかけるオペレーターたち=2020年2月15日、兵庫県 出典: 朝日新聞

目次

世論調査って一体どうやっているのか。よく寄せられる疑問ですが、電話調査ではコールセンターのオペレーターが直接電話をして、対象者となった人に質問しています。知らない人と電話で話すことの難しさやそのコツを、オペレーターの人たちに聞いてみました。(朝日新聞記者・高橋肇一、植木映子、磯部佳孝)

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携帯電話にもかけています

朝日新聞がほぼ毎月行っている全国世論調査は、コンピューターで数字をランダムに組み合わせて作った電話番号に、電話をかける方法です。2016年からは固定電話に加えて携帯電話も対象にしました。調査は、朝日新聞が委託した民間調査会社のコールセンターで行っており、年齢や職業を聞く質問を含めて20問ほどを尋ねます。

調査の合間に取材に応じてくれた4人に、難しさや工夫などを語ってもらいました。

▽スーパーバイザー
成田さん…20代男性。アルバイトでオペレーターを3年経験し、そのまま入社。オペレーターを監督するスーパーバイザー歴3年

▽オペレーター
池上さん…50代女性。オレペーター歴3年半
光田さん…50代男性。オペレーター歴8年。スーパーバイザーに入ることも
飯田さん…40代女性。オペレーター歴2年

名乗るだけでガチャリ

Q:まず、見ず知らずの人からの電話に出てくれるのでしょうか

 

池上さん

「電話に出てはくれますが、『朝日新聞』と名乗るだけで切られることが多いです。そして固定電話で最初に尋ねる『お宅様には、18歳以上の有権者の方は何人お住まいですか』のところで電話を切られることがよくあります。この質問は、主婦や高齢者など電話に出がちな相手ばかりに偏らないようにするためです。固定電話ではその世帯に有権者が何人いるかを聞き、その中からコンピューターでランダムに年齢順で対象者に選び、調査をお願いするのです。でも聞かれた人にとっては家族の人数を聞かれることになるので、敏感になられるのも当然です」

 

成田さん

「私は今、調査前日の研修でオペレーターに教える立場です。研修で特に強調しているのは、電話に出た人からの疑問にはすぐ答えられるようにしてもらうことです。『電話番号以外の情報は持っていません』『お答えいただいた内容が個人の意見として出ることはありません』など、個人情報の扱いについてオペレーターがきちんと理解して自分の言葉ですぐ応じられるように、心がけてもらっています」

 

光田さん

「オペレーターの私は、むしろ断られてからが勝負だと思っています。まずは、怪しい電話じゃないということをしっかり説明する。『面倒だ』『答えたくない』という人も多くいます。そこから、『短時間ですみます』という点を強調することが、私の場合は多いですね」
Q:研修では応答マニュアルを守ることを徹底していましたね。

 

成田さん

「世論調査の質問の文言はきっちり決まっており、変えてはいけません。一方で、調査をお願いする冒頭部分や、相手の疑問に対する説明については、マニュアルに模範応答があるものの、意味が変わらなければ多少のアレンジはしてもいいことになっています。説明するときにマニュアル通りに淡々と読み上げているだけだと、のっぺりした印象になってしまいますよね。相手との間合いもあるので、こうすれば正解、というのはありません」

 

飯田さん

「ある女性が最初は『私なんていいです』と何度も断るので、私がマニュアルにはない『政治だけではなく、新型コロナウイルスといった生活に関わることもお聞きしています』と切り返したうえで、質問を読み上げると、その女性は答えてくれました。世論調査は、答えたい人ばかりの回答を集めるだけでは偏ってしまうので、この女性のように、答えたくない人にこそ、何とか答えてもらえるようにしています」

対象者に質問文を読みあげるオペレーター=2月16日、兵庫県
対象者に質問文を読みあげるオペレーター=2月16日、兵庫県 出典: 朝日新聞

10問を超えると切られそうに

Q:質問に入りさえすれば、あとはスムーズに回答してもらえるのですか。

 

池上さん

「やはり人間にも聞く限界があるようで、質問が10問を超えると、相手には『長い』と思われるようです。ある年配の方は10問目までは答えてくれたのですが、11問目になると、突然『友達が来たから』と言って電話を切られそうになったことがあります。その場合は、それ以上無理強いするのではなく、その日の夜にかけ直すことで回答してもらうようにしました」

「夜中」の電話は緊張

Q:朝日新聞の調査は、電話しても出なかったり、対象者が家にいなかったりした場合にはかけ直す方法ですね。

 

池上さん

「1回目の電話になる初日の午前中ほど回答してもらいやすいですが、2回目以降や夜にかける電話は難しくなります。とくに夜の電話は、かけること自体が緊張の連続です。対象者が在宅することが多い午後9時前後にかけることがあるのですが、『こんな時間にかけてくるのか』と言われる方が多いです。2回目以降にかける場合は丁寧にお詫びをしたうえで、調査の方法や趣旨を説明します」

 

成田さん

「何度かけても厳しい対応を受けることはどうしてもあります。オペレーターには、コミュニケーション能力が必要なのはもちろんですが、忍耐力も不可欠です」

 

調査前日の研修で、オペレーターに指導する成田さん
調査前日の研修で、オペレーターに指導する成田さん 出典: 朝日新聞

魔法の言葉

Q:心がけていることは何ですか。

 

池上さん

「とにかく、やさしく、丁寧に言うことです。自分にできることはそれしかありません。そして、相手に同調することです。突然の電話に戸惑う人には『そうですよね。怪しい電話かと疑われますよね』と言います。そのうえで、調査の中身を丁寧に説明することで安心してもらえるようになります」

 

成田さん

「切られそうになったときの、『ちなみに』は魔法の言葉、と言っています。会話や雰囲気を切り替える効果があるんですね。『答えたくないんだけど…』という、拒否の姿勢の人と、なんとか会話をつないで、『ちなみに、安倍内閣を……』という形で質問に持ち込んで回答までこぎつけたケースもあります。相手によって話す声の大きさや、スピードを変えることも大事です。とにかく、相手と会話するつもりで、相手のことを思いやって話すうちに、糸口がつかめてきます」

 

光田さん

「押し際と引き際が大事。相手の反応が『怒り』だけの時は、押しても無駄ですね。怒っている人はガチャ切りすることも多いです。しかし、怒っていても、切らない人にはまだ糸口があります。なぜ怒っているのか、何に怒っているのかの理由は、かけ直すかどうか判断する上でも重要です。怒っている人には、まずしゃべってもらう。どれだけ時間がかかっても、ですね」
モニターを見ながら調査内容を確認するオペレーターたち=2月14日、兵庫県
モニターを見ながら調査内容を確認するオペレーターたち=2月14日、兵庫県 出典: 朝日新聞

「とにかく丁寧に」

4人の話からは、世論調査の現場が人と人とのコミュニケーションの場だということが見えてきます。

ある時の調査で、池上さんが電話をすると、男性が出ました。一人暮らしだった男性は質問に答えつつ、ご自身の身の上話にまで話が脱線したそうです。それでも、池上さんは話を遮ることはしませんでした。結局、すべての回答を得るまでに30分ほど話し込んだそうです。

調査中、1時間ごとの目標と実績をホワイトボードに書き込んでいく=2月16日、兵庫県
調査中、1時間ごとの目標と実績をホワイトボードに書き込んでいく=2月16日、兵庫県 出典: 朝日新聞

池上さんは世論調査について「人間と人間が話すので、本当の気持ちがわかってもらえる。とにかく丁寧に接すれば、努力は実る」と振り返ります。

飯田さんも、大切なことは「相手の気持ちに聞き耳を立てる」ことだと言います。

報道される時には数字でしかない世論調査ですが、その数字の裏には、世論調査の「中の人」ならではの会話術がありました。

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