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連載

20010

#39 「見た目問題」どう向き合う?

両足に12cmの手術痕、そして同性愛 「ダブルマイノリティ」の生き方

白石朋也さん
白石朋也さん

目次

顔の変形やアザなど、外見に症状がある人たちが学校生活や、就職、結婚に苦労する「見た目問題」。顔の症状がクローズアップされがちですが、身体に症状がある当事者も数多くいます。カナダのトロントに暮らす白石朋也さん(27)は、足に皮膚がんによる手術痕があります。白石さんはまた、同性愛者です。「ゲイとして前向きに生きられるようになったら、次は見た目問題にぶつかった」と語る白石さん。その半生を尋ねました。(朝日新聞記者・岩井建樹)

【外見に症状がある人たちの物語を書籍化!】
アルビノや顔の変形、アザ、マヒ……。外見に症状がある人たちの人生を追いかけた「この顔と生きるということ」。当事者がジロジロ見られ、学校や恋愛、就職で苦労する「見た目問題」を描き、向き合い方を考えます。

「普通」を演じた中高時代

白石さんはオシャレな衣服に身をまとう、物腰の柔らかい青年です。人なつっこい笑顔は、多くの人に好印象を与えます。その姿からはわかりませんが、白石さんは両足に手術痕がある見た目問題の当事者であり、ゲイでもある「ダブルマイノリティ」です。

「小学6年生のとき、左足の太ももに皮膚がんが見つかりました。がんを手術でえぐりとった後、右足の皮膚を移植。両足に直径12センチほどの大きな手術痕が残りました」

「中学2年生のとき、同級生の男子を好きになりました。『手をつなぎたい』『キスしたい』と、初めての感情に戸惑いました。でも『男は女の子を好きになるべきだ』と考えていたので、『普通』であろうと異性愛者を演じました。好きなタイプを聞かれたら『髪の毛が長い女性』と答えていた。ゲイであることがばれないことが何よりも大事。だから、友人とも差し障りのない会話しかできなかった」

中学生のとき、白石さんは「普通」を演じました
中学生のとき、白石さんは「普通」を演じました

「独りで生きて死ぬんだ」

苦しみの要因は、孤独感にあったと言います。

「理解してもらえるかが不安で、誰にも相談できませんでした。茨城県に暮らしていましたが、ゲイの知り合いはいません。どうすればいいのか、まったくわからなかった。『僕は独りで生きて、死んでいくんだ』。そう思い、風呂場で泣きました」

「同級生への片思いは高校に進んだ後も続き、悩みました。どうしても誰かに恋愛相談をしたくなって、女友達にゲイであることを告げました。『そうなんだ』と受け入れてくれ、相談にものってくれました。結局、その同級生に告白する勇気は持てませんでしたが…」

「僕が救いを求めたのがアートです。髪の毛を使って、立体物をつくりました。抑圧していた気持ちをアート作品に昇華させることで、精神の安定を図っていたんだと思います」

高校時代に制作したアート作品。白石さんにとってアートは救いでした
高校時代に制作したアート作品。白石さんにとってアートは救いでした

大学でできたゲイの友人

ゲイであることの孤独感から解放されたのは、関西での大学生活でした。

「大学は人間関係を一から作り直せる好機です。だから、自分の性的指向をオープンにしようと決めていました。ジェンダーを学ぶ講座で、自己紹介で『僕はゲイです』と打ち明けると、授業後に『僕もそうなんです』と声をかけてくれる人がいました。それが、初めてできたゲイの友人です」

「性的マイノリティへの理解啓発を促すサークルに入り、多くの仲間と出会い、代表も務めました。高校までは目立たない学生でしたが、大学では一転、活発に。本来の自分を取り戻した感覚がありました」

大学卒業後は、東京都内のPR会社に就職。そこでもゲイであることをオープンにします。

「就活では、サークル活動について説明するとき、自らがゲイであることについても明かしました。ただ面接で口にすると、声が震えて平常心を保つことができなくなった。だから、就職したPR会社の面接では、あえて言いませんでした」

「入社後はオープンに。『彼女はいるの?』と聞かれたら、『僕は男性が好きで、彼氏はいないです』と答えました。仕事や社内外の人間関係に支障はなく、LGBT研修で講師をすることもありました」

「東京にはゲイコミュティがあり、たくさんの友人もでき、公私ともに充実した生活を送ることができました」

社会人となり、白石さんには様々な友人ができました
社会人となり、白石さんには様々な友人ができました

視線を意識し、手術痕がコンプレックスに

ゲイであることを周囲に明かし、前向きに生きられるようになった白石さん。すると、両足の手術痕がコンプレックスとして膨れあがりました。

「それまで手術痕については悩んでいませんでした。でも、ゲイとして生きる上で、相手に肌を見られる機会があります。そんなとき『その傷、もったいないね』と言われ傷つきました」

「ズボンをはいていれば確かに隠れます。でも『この傷を見られたら相手にどう思われるかな』と心配があります。ゲイの世界も、外見が重視される面があります。モテるために見た目を磨く人が多い。だから、この手術痕のせいで、ゲイコミュニティの中でモテなくなってしまう怖さがありました。他者の視線を意識した途端に、傷は大きなコンプレックスとなりました」

白石さんの左足に残る手術痕
白石さんの左足に残る手術痕

マイノリティの多様性を知ってほしい

今年1月、見た目問題をテーマに開かれた写真展(NPO法人マイフェイス・マイスタイルなど主催)で、白石さんはモデルを務めました。様々な衣装に身を包み、コンプレックスである手術痕もさらしました。

「一口に『ゲイ』や『見た目問題』と言っても、その実像は多様であることを伝えたかった。ゲイ仲間とは同性愛というマイノリティ性でつながっているけど、僕のように他のマイノリティ性を抱える人もたくさんいます。また、見た目問題は顔ばかりが注目されますが、症状は顔だけではありません」

「僕の手術痕について『見えないからいいでしょ』『悩む必要はないでしょ』と思われる方もいるかもしれません。確かに顔に大きな症状がある人と比べたら、悩みの度合いは違うでしょう。ただ、悩みは他人と比べるものではないと考えています。僕としては、ゲイとして生きる上で、手術痕は大きな悩みの種となっています」

モデルを務めた写真展では、様々な衣装に身を包みました
モデルを務めた写真展では、様々な衣装に身を包みました

白石さんは5年間務めたPR会社を退職。2月からカナダのトロントに住居を移しました。

「日本はまだ性的マイノリティの人々にとって、生きづらい社会だと思います。僕の場合はゲイをオープンにし、それを理解する友人たちに囲まれていました。でも、自らの性的指向や性自認を秘密にして生活している人はたくさんいます。どうして秘密にするかと言うと、当事者が何らかの不利益を被るリスクを感じているためです」

「欧米は『性的マイノリティに寛容』とのイメージがあり、憧れがありました。そのイメージが正しいのか、現地で確かめたいと思い、いったん日本を離れてみようと思いました。見た目問題の解決を目指す海外の団体ともつながりをもちたいし、様々なことに挑戦しようと考えています」

「実は両親にはまだゲイであることを伝えていません。一番理解してほしい存在だからこそ、慎重になってしまっているのかもしれません。一生を共にしたいと思えるパートナーができたとき、両親にもカミングアウトしたいです」

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