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連載

#3 ネットのよこみち

ポテチの手、人気の理由 スマホ依存時代の人間性 指先掃除まで再現

スマホ依存、マルチタスク時代に人間性を取り戻してくれた「ポテチの手」
スマホ依存、マルチタスク時代に人間性を取り戻してくれた「ポテチの手」

目次

テレビをみながらツイッターをしたり、同じ席でお昼ごはんを食べながらLINEをチェックしたり。複数の行為を同時にこなす「マルチタスク」は今や当たり前の光景になっている。そんな中、独自の進化を遂げたのが「ながら食べグッズ」だ。手を汚さずにポテチを食べるという悩みに対して、様々な改良を重ねてきた。スマホの世帯普及率が8割に迫る現代、「マルチタスク」の未来を「ながら食べグッズ」から考える。(吉河未布)

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手がベタベタするのはイヤだ

ポテトチップスを食べる時に、お箸を使う人たちがいる。コンビニでポテチを買う際、割り箸をつけてもらう人もいるほどだ。取り立ててお上品にしたいわけではない。

理由はひとつ、ネットを利用している最中にポテチを食べたいが、手がベタベタするのはイヤだからだ。

手がベタつくと、当然ながらキーボードやマウス、スマホ画面なんかも油まみれになる。ベトベトとギトギトで、気持ち悪いことこのうえない。といって、いちいち手を拭くのは面倒くさすぎる。でも食べたい。大体、ネットというものは「何かしながら」したいものなのだ。そしてポテチは、「ながら食べ」の代表格なのだ。

この後の指をどうする…… ※画像はイメージです
この後の指をどうする…… ※画像はイメージです 出典:https://pixta.jp/

疑似指先クリーニング機能搭載

もともとは、長時間のゲームやPC作業中、手を汚さずにポテチを食べたいという人たちの至極合理的な知恵から始まった。割り箸を指に付けられるアタッチメントというアイデア商品もあったが、今から10年前、ポテトチップス専用トング「ポテトング」が登場。さらにタカラトミーが発売したのが、「ポテチの手」である。

これは画期的だった。

人差し指と親指を模した「フィンガーパーツ」は、割れやすいポテトチップスを適度な強さでつまめるようになっているうえ、指についたカスをこすり落とすしぐさを再現した疑似指先クリーニング機能を搭載。机に置いても「ポテチの手」の指先が触れないように配慮もされている。

疑似指先クリーニング機能

孫の手ならぬ、ポテチの手。「こんなアイテムが欲しかった!」という実用性はもちろん、注目されたのはそのフォルムの愛らしさだ。まるで自分の手のようにポテチをつまむことができるという遊び心に加え、カルビーとのコラボということもあって、本体はポテチの袋のカラーイメージで、そっけなくない。殺伐としがちなネットライフが、少しほっこりする気がする。地味なようで、大事なことである。

本当にポテチを割れずにつまめるのかどうかを試してみたいという向きも相まって、「対象年齢は6歳以上」というこのアイテムは、6歳より相当年上の人たちの間で大きな話題になり、結果、爆発的ヒット商品になった。

人差し指と親指を模した「フィンガーパーツ」
人差し指と親指を模した「フィンガーパーツ」

スマホ対応の新製品

ポテチの手は、時代に合わせてバージョンアップしていた。

そしてついに、スマホ時代のニーズにこたえるため2019年6月、タカラトミーアーツがマジックハンドとタッチペンの融合アイテム「スマートポテトチップス」を発売した。

タッチペン機能によってそのままスマホが操作できるようになった「スマートポテトチップス」
タッチペン機能によってそのままスマホが操作できるようになった「スマートポテトチップス」

スマホの画面は、ただでさえ指紋がつきまくっているものだ。そのうえ油まみれになるのは、PCやキーボード以上に避けたいところ。発売の経緯について、同社開発担当の太田さんはこう説明する。

「スマートフォンやタブレットに夢中になっているときに、一度動作を止めてからポテトチップスをつまむというのはかえってフラストレーションになるものです。そこでタッチペンの機能を追加し、ポテトチップスを食べた後に、特に持ち直しをせずひっくり返すだけで簡単にスマホ操作ができるようにしました。片手で両方できる仕様(=ワンハンド)にこだわった結果、今回の形状になっています」

ちなみに、どういう人が買っているかというと、「40代~50代に加え、60代以降の方も多いのが特徴的です。皆さん自分用にご購入されていますが、小学生のお子様がお菓子を食べながらタブレットを使用するのに使う、という例もあるようです」とのこと。シニアにも人気というのはちょっと意外だったが、やはり孫の手っぽいところが愛着をおぼえる所以なのかもしれない。

「スマートポテトチップス」のタッチペン部分
「スマートポテトチップス」のタッチペン部分

「エサ感」ない指先っぽさ

本体のボタンを押すと、指先が閉じてポテチをつまむことができる。単純なしくみのようだが、本体に内蔵されているというクラッチ機構により、ポテチが割れることはない。

そのまま口へ。実際に食べてみて気づいたが、案外この疑似指先というのは大事。これがトングのようなものだと、「エサ感」が漂う気がする。

人間味あふれる「指先っぽさ」
人間味あふれる「指先っぽさ」

ボタンを押しながら前にスライドすると、指が左右に動き、指先に付いたポテチの粉を落とすしぐさをする。「この機能はいるのか?」などと思ってはいけない。ポテチを食べていないときでも、片手でついついイジりたくなるのも、意外な効用だ。 空いている片手でパンフレットを丸めてバシバシ叩く、鉛筆回しに躍起になる、といった“片手のヒマが耐えられない”族にとっては、地味に嬉しい発見。

本体を逆さまにし、左右にある金属プレート部をにぎると、お尻についているタッチペン部分でスマホを操作することが可能。おお、これは便利……!

「スマートポテトチップス」がポテチをつかむ瞬間

「マルチタスク時代」の人間性

見渡せば、世の中、あらゆる場面で「マルチタスク」化が進む。

電車に乗れば画面とにらめっこをしながらゲームに熱中する。飲み会では、おしゃべりを楽しみながらも視界の端には常にスマホの通知画面がある。そんな「マルチタスク」化からは、スマホに縛られる現代人の悲哀も漂ってくる。

ポテチの手が机に置いてあると、その持ち主は絶対わるい人じゃないような気がする。持ち主に話しかけたくなるという感情が揺さぶられ、コミュニケーションツールとしても役立ちそうだ。実用的な機能だけではない遊び心は、受動的に見えがちな「ながら食べ」を、主体的な行為に生まれ変わらせてくれる。

もはや、スマホなしの生活に戻ることはできない。「マルチタスク」は今後も加速するだろう。際限なく広がる人間の欲求を、ささやかな日常を壊さずにかなえてくれるポテチの手。テクノロジーがどんどん生活の中に入り込んでくる時代、ポテチの手は、私たちがその変化をどう受け止めるべきかを教えてくれているのはないだろうか。

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