連載
#51 #父親のモヤモヤ
反響集めた「とるだけ育休」、名付け親が本当に伝えたかったこと
【平成のモヤモヤを書籍化!】
結婚、仕事、単身、子育て、食などをテーマに、「昭和」の慣習・制度と新たな価値観の狭間を生きる、平成時代の家族の姿を追ったシリーズ「平成家族」が書籍になりました。橋田寿賀子さんの特別インタビューも収録。
――「とるだけ育休」という問題を1月下旬に記者会見をして指摘しました。どのようにこの問題に気づいたのですか。
ここ1年ぐらいで、男性の育休に対する社会的な熱量の高まりを感じていました。当初は良い流れだと考えていました。
しかし、ママリへの投稿を見ると、「別にうちの夫にとって欲しくないけど」といった声がちらほらみられて、どういうことなのかなと思ったのが元々のスタートです。男性育休が助けるはずのママたちはそんなに驚いていないというか、そんなに喜んでもいないところにずれがあるんじゃないかと思い調査をしました。
――調査をして見えてきたものは何ですか。
一つは数字になったということですね。3992人のママにインターネット調査をしました。このうち、夫が育休を取得した方は508人です。
肝になるのは二つだと思っていて、一つは別にとって欲しくないと思っている人たちが半分くらいいるということ。そして、とったパパたちの行動も必ずしもママが求めていたものではない、つまり家事・育児時間は2時間以下というのは、おそらくママたちの満足度が低かったのではないか。だからその二つの数字は、僕たちが思っていたよりもずれているなと思いました。社会は、男性の育休の過ごし方について、ちゃんと認識できているのか、議論をちゃんとできているのかに不安を感じました。
――記者会見で発表をしました。その後の反響はどうでしたか。
僕たちが思っていた以上に大きな反響がありました。多少は狙っていた部分もあるんですけれど、小泉進次郎環境相が前の週に育休取得を発表するなど社会の流れにうまくマッチし、いろいろな方に取材を頂きました。その後の国会議員さんたちのツイッターとかでも話題になりました。
僕たちの活動はママたちの声で少し社会を変えるということを目的にしているので、一石を投じることができたのではないかなと思っています。メディアの取材でも育休をとる、とらないだけじゃなく、その先の質の話が話題になるようになり、非常にありがたいなと思っています。
――一方で、「大変な母親」、「何もしない父親」というイメージを固定化してしまうのではないかという声もあります。父親も家事・育児をやるんだという社会の雰囲気に水を差した部分はありませんか。
記者会見で僕たちが話したかったことは、「とるだけ育休」の現状の話と、それを打開するための法則があるという話、さらに会社として、問題解決のために自治体で10万部の冊子を配るプロジェクトを立ち上げたという三点セットでした。
その中で、「とるだけ育休」の現状のところは注意喚起だったので誰にも注目されないまま終わると意味がない。言葉として強いものが必要だというのはありました。その結果、三点セットの他の二つの文脈を取っ払ってセンセーショナルな部分だけが報道されました。そこからツイッターなどで「今の男性たち、イケていないよね」という一くくりにする議論が生まれてしまいました。できれば避けたかったけど、そうなってしまった部分はあると思います。
ただ、注意喚起はできたので、メディアが育休の質の話をしてくれるようにもなった。日々忙しくて育児のことを考えられない人たちが、これからの義務化とか取得率を上げるという流れの中で育休をとることが増えると思っています。そうなったときに、こういった注意喚起と、サポートするための取り組みがいろんなところで立ち上がればいいなと思っています。
――育休という名前が誤解を呼んでいる部分があると思います。どういう名前にしたら良いと思いますか
別に育児休業とか育児休暇とかいう名前が悪いわけではなくて「育休」ってなっちゃうというのが、そこが悩みだなあと思っていて。僕たちに限らず次の名前を考えようとしているところは結構あると思いますけれど、何が良いんですかね。その名前が生む誤解というか、なんか、むしろ忙しくなるはずなので。休むという概念がやっぱり難しいですよね。
休むって、仕事の時は使うけれど家事の時は使わないじゃないですか。そこをもうちょっとうまく伝えられる言葉がもし生まれたら何か変わるかもしれないですよね。
――男性育休に対する母親の満足度が低いという現状を変えていくためには何が必要だと思いますか。
男性育休は、育児に夫婦で向き合うために良い機会だと思います。夫婦で納得できる分担ができるようにしてほしい。そういう意味で言うと、いま足りていないのは、「産後のママの心身の状態」、「育休をとるパパのメリット」、「どういった育児・家事がどれだけあるのか」という三つの理解だと思います。この三つの理解を夫婦がお互いに準備品として持っているといろいろとよくなるのではないかなと思っています。
――確かに育児・家事の分担が事前に話し合えていると違うと思います
同じようにスタートラインに立てる良いきっかけだなと思っていて。大変なときを二人で過ごすわけですから、通常であればそこに最善の準備をすべきです。
二人でうまくコミュニケーションをとりながら進めていくのが本当は必要なことなんですけれど、パパが育休1日目になってスタートラインだとやっぱり追いつけない。なので、「嫁はこういう状態であろうから、こういう心構えをしておこう」とかっていう事前情報を入れておくのは非常に重要だと思います。
――3年間、ママリの編集長をされています。ユーザーのニーズや状況の変化は感じますか。
生活の変化という意味合いではそんなに大きな変化はないんじゃないかなと思います。むしろ起きていないことが課題だなとも思っています。長くユーザーの行動を見てきて、毎日違うママが同じ悩みを投稿しているんですよ。
僕たちのサービスは井戸端会議というか、コミュニケーションの場なので、直接何かを解決する場ではない。その時々には寄り添えているけれど、課題を解決していないから、次の日、違うママが同じ悩みを投稿するというような状態がずっと続いている。だから、ママたちの周辺を取り巻く環境を変えなければいけないと思っていて、その大切なひとつのきっかけが、男性の育休を変えていくことです。その中で少しでも悩みが減ると良いなと思っています。
――アプリとして成長し続けられているのはなぜだと思いますか。
ママリはコミュニティーなので、発言しやすくて敵がいない状態が必要。そこが上手にできているんだろうと思っています。だからユーザーは女性オンリーにしていますし、同じ経験や感情を持ったママ、プレママたちが集まっています。例えば、「本当に泣きやまなくて、子どものことが嫌いになりそう」って、オープンな場所で投稿してしまうと共感できない人たちが、「それ、虐待だろ」とか「ママ失格だろ」というたたかれ方をしかねません。ママリの中だったら「私もそうだから大丈夫だよ」といった反応が来ます。そういう場であり続けられていることがユーザーの増加につながっているんだろうと思います。
――男性である湯浅さんはどうやって母親の気持ちを理解しているんですか
ママをしてきたスタッフは社内にいっぱいいて、その人たちとの会話は意図的に取るようにしていますね。感情的に寄り添うことが大事だなと思っていて、例えば、待機児童関連の情報はメディアを見て本を読めば分かるんですけれど、実際にそれと向き合っているママたちが、どのくらい大変で、死活問題かというのは当事者と会話を続けないとなかなか入ってこない。そういう環境が会社の中でできているというのと、それ以外に社内のユーザーインタビューなどを通じて、テキストにない情報を埋めていくというのを心がけています。
――これからパパになる人にアドバイスがあれば。
まず伝えたいのは、僕たちはパパたちにけんか売るつもりはなかったということです。夫婦が一番大事。お互いがお互いにとって一番の味方であるはずなので、相手を諦めたりとか諦められたりとかする状態をできるだけ作らないようにして欲しい。
5割の「育休をとらなくて良い」と思っているママたちの中には、「帰ってきても使い物にならないから」といった諦め方をしている人がいる。そういったことを減らしていくためには、できるだけ家事・育児、赤ちゃんを育てるということを二人のプロセスだと認識した上で、一緒に歩んでほしい。それは育休が終わった後も続く関係性だと思います。
共働き家庭が増えていますが、その中で家事と育児のタスクも増えています。だから、家庭として抱えている全体的なタスクの総量を二人で話し合って、棚卸して、やることやらないこと、外注することっていうのを決めて欲しい。
職場だったら、仕事の量がめちゃめちゃ増えているのに仕事の仕方を変えていなかったら、ただの「仕事ができない人」じゃないですか。仕事が増えすぎた時、会社だったら、当たり前のように、外注したりとか、人を採用したりとか、やらない仕事を決めたりする。全然それでいいと思っていて。掃除の頻度を下げるとか、ルンバを買うとか、ベビーシッターを雇うとか。そういう考え方が夫婦でできると、もっと子どもや夫婦のコミュニケーションに時間を割けると思います。
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