連載
#19 ○○の世論
安倍首相の「政治判断」に納得しない人たち コロナウイルス巡る世論
感染の広がりが続く新型コロナウイルスに対し、安倍晋三首相は全国一律の学校休校を要請し、中国や韓国からの全面的な入国を制限するといった「首相判断」を打ち出しました。こうした危機対応について、3月の朝日新聞世論調査では評価が分かれました。支持層別や年代別でみてみると、政権にそそぐ視線は違うようです。(朝日新聞記者・磯部佳孝)
新型コロナウイルスについて、朝日新聞の世論調査では2月と3月に同じ質問をしました。
政府対応について、2月調査では「評価しない」方が多かったのですが、3月調査では「評価する」が増え、「評価する」と「評価しない」がともに41%で割れました。
支持層別でみると、内閣不支持層の評価は、ほとんど変わらず、低いままでした。
一方で、内閣支持層では「評価する」が大きく増えています。2月調査では4割近くが「評価しない」と答えていた内閣支持層の「辛口」評価を変化させる影響を与えたと思われるのが、一連の「首相判断」でした。
首相は2月下旬、全国的なイベントの自粛や小中高校の一斉休校を唐突に打ち出しました。学校の一斉休校は政府の専門家会議に諮らないまま表明したものでした。
さらに、3月に入って中国と韓国からの入国を大幅に制限する新たな措置を表明しました。この決定を行う際に、首相が事前に専門家会議の意見を聞いた形跡はありませんでした。
こうした「首相判断」について、有権者はどう見ているのでしょうか。3月調査で聞いてみました。
学校の一斉休校について、内閣支持層では81%が「評価する」と答えました。
一方、入国制限についても評価を聞きました。
入国制限を始めたタイミングについては、内閣支持層でも52%が「適切ではない」と答え、「適切だ」の41%を上回りました。ただ、「適切だ」は全体で26%にとどまったのに比べれば、首相の支持層の方が、高い評価をしていることがわかります。
そもそも中国の入国制限をめぐっては、首相の支持基盤である保守層が「中国全土からの入国拒否」を強く求め、首相の対応を「中国に甘い」と批判する声がすでにでていました。
それだけに今回の「首相判断」が支持層にある程度好意的に受けとめられた一方、一部の支持層には「遅きに失した」と映ったことで、内閣支持層でも「適切ではない」が過半数という結果になったとみられます。
全体として、首相の支持層の評価は、「辛口」から持ち直す傾向にあるようです。
3月の内閣支持率は、2月調査の39%から横ばいの41%でした。支持率をめぐっては、首相の「私物化」が指摘されている「桜を見る会」問題に、新型コロナウイルス対応が「後手」だとの批判が加わり、一部の報道機関の世論調査で支持率が低下傾向にあっただけに、その動向が注目されていました。
今回の調査からは、一連の「首相判断」により首相の支持層の離反をとりあえず食い止めた、と言えそうです。
ただ、新型コロナウイルス対策の評価について、年代別にみてみると、支持層別とは違った「世論」が浮かび上がってきます。
3月調査では、「評価する」が2月調査で40%と高かった50代をのぞく、すべての年代で2月調査より上がりました。
ただ30代は「評価する」が37%、「評価しない」が48%でした。ほかの世代と比べると、政府対応を依然として厳しい目でみていることがわかります。こうした世代別の違いの背景には、「生活不安」がありそうです。3月調査で次のように聞きました。
全体として「生活不安」がじわり広がるなか、30代はほかの世代とくらべて、不安を「感じる」が54%と高いことがわかります。30代は、いわゆる「子育て・働き盛り」の世代。「生活不安」をより感じている30代は政府対応を引きつづき注視していると言えそうです。
その30代に限ると、内閣支持率は2月の43%から3月は34%に下落しました。
新型コロナウイルスの感染拡大は収束の出口が見えず、経済にも影響が及んでいます。首相の看板政策「アベノミクス」の「成果」とされてきた株価は2万円台を割り込みました。
安倍政権は4月にも緊急経済対策をとりまとめる方向で調整しています。有権者の不安を取り払う対策となるのかどうか。政権の危機対応が問われ続けます。
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