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連載

#48 #父親のモヤモヤ

世界でつながり始めた「駐夫」 育児やキャリア「言えない」悩み共有

家族旅行で訪れた米・モニュメントバレーを眺める小西一禎さんと長女、長男=写真はいずれも本人提供
家族旅行で訪れた米・モニュメントバレーを眺める小西一禎さんと長女、長男=写真はいずれも本人提供

目次

#父親のモヤモヤ
※クリックすると特集ページ(朝日新聞デジタル)に移ります。
妻の海外赴任に同行する「駐在夫(駐夫)」を知っていますか? 妻のキャリアを大切にする男性は増えてきていますが、逆の立場の「駐在妻(駐妻)」と比べても、まだまだ少ない存在です。かけがえのない時間を家族でともにできる一方、慣れない外国での家事・育児やキャリア中断の不安といった悩みも。アメリカで駐夫をしている小西一禎さん(47)は、2018年11月、フェイスブック(FB)上に駐夫仲間を募るグループを立ち上げました。メンバーは世界各地に約40人。今は世界に広がる新型コロナウイルスについても、家庭での対策などが話題に上ります。グループを作った経緯やその意義について、メールでインタビューをしました。
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こにし・かずよし:7歳の長女、5歳の長男の父。96年慶応大卒、共同通信社入社。2017年12月より、製薬会社勤務の妻の転勤に伴い、家族全員で米NYマンハッタン・ハドソン川対岸のニュージャージー州に移住。会社の「配偶者海外転勤同行休職制度」を男性として初めて活用し、同社政治部記者を休職中、現在主夫。ブログなどで、駐夫と名乗る。

世界の仲間を募りたかった

――なぜグループを作ったのですか。

グループを作ったのは、渡米から約1年後の18年11月です。私自身、キャリアを中断して妻に同行したのは良いものの、慣れない異国生活での家事・育児に戸惑い、仕事をしていない自分にアイデンティティークライシスを感じました。そうした人知れない悩みや苦しみはなかなか吐き出せず、仮に吐き出したとしても周りに理解してもらえません。私と同様に孤独感にさいなまれている人が世界中にいるのではないかと思い、会員制として作り上げました。

たまたま近所に駐夫がいて、私自身、悩みや愚痴をシェアしていたのですが、その人が引っ越すということを聞いたのも、後押しになりました。
 
それまでも、メディアや自らのブログなどで駐夫としての思いを記していましたが、双方向性に欠けていました。それらで書いた辛さや苦しみ、片や喜びなどは、ともすれば自分だけの問題なのではないかと思い、多少なりとも私自身も孤立感を深めていました。そうした自らの思いを相対化し、客観視するためにも、世界の仲間を募りたかったという事情もありました。

立ち上げ時点で、駐妻の交流サイトは複数ありましたが、駐夫のものは見当たりませんでした。女性が進出している時代だからこそ、駐夫は世界中に必ずいて、交流を求めている人はそれなりにいるはずだろうという見立てもありました。

夕食の準備に追われる小西さん
夕食の準備に追われる小西さん

オンライン飲み会では「本音」も

――参加しているメンバーはどのような人たちですか。

3月現在、世界全6大陸から40人弱の日本人男性が参加してくれています。年齢は、30代から50代。数としては、北米と欧州が多いです。職業はまちまちで、制度を使って休職中の人もいれば、育休中の人、退職してきた人もいます。中には、現地で就職を果たし、働いている人もいます。

私がFBやツイッター、インスタグラム、グーグルなどで定期的に「駐夫」で検索をして、順次「スカウト」していきました。数カ月経てから、経験者にもその知見をシェアしてもらいたい、との思いから、日本に本帰国した駐夫OBにも声を掛け、厚みを増しました。最近ではブログや記事、SNSで存在を知った人からの入会申請が相次いでいます。

――どのような投稿、交流をしていますか。

まずは自己紹介をしてもらいます。それに対し、歓迎コメントや同じ地域や職種の人からコメントが寄せられます。自らのSNS投稿をシェアしたり、子どもの寝かしつけに苦しんでいる、お弁当作りがワンパターンになるなどの悩みも投稿されたりするといった、反応があります。ただ、どうしても物理的な距離があるので、一体感は乏しかったですね。
 
そうした中、2月はグループ上で参加者を募った「オンライン飲み会」を初めての試みとして開催。米国、日本、欧州、豪州、アフリカから15人が参加し、予定を超えて3時間近くにわたり、画面越しに顔を合わせながら話しました。

やはり、同じ境遇、経験を経た人たちなので、前提条件の説明不要で、本題に入っていけます。「駐夫になった経緯」「駐妻との距離感の難しさ」といったものから、「家事・育児に時間が取られ、自分の時間がない」「駐夫を終え、本帰国後のキャリアをどうするか。転職すべきか否か」といった悩み、「自分の収入がなく現地で買い物をする時、男として卑屈にならないか」「料理の手抜き方法はないか」まで、話題は尽きませんでした。酒の力も借りて、それぞれが率直に実情を打ち明けていました。

また、世界各地で広がる新型コロナウイルスについても、それぞれの実情を話してもらいました。一斉休校を直後に控えた日本在住の駐夫OBは、日中の育児についての夫婦分担や勉強面の遅れへの不安を一様に吐露。現役駐夫が、彼らの思いを十分に受け止めつつ「いずれ、自分の滞在国でも起こり得る」と真剣に応じたことで、ストレスは多少軽減されたようでした。

3月には、NY周辺のメンバー駐夫を集めて、オフ会的なリアルの飲み会も開きました。いずれは、子連れBBQやピクニック、キャリア勉強会なども開きたいと思ってます。

オンライン飲み会での記念撮影。右端が小西さん
オンライン飲み会での記念撮影。右端が小西さん

世界中の駐夫は「同志」

――グループを作ってよかったことは何ですか。駐夫生活を続ける上でどのような存在になっていますか。

同じ悩み、苦しみ、楽しさを抱いているのは自分だけではないというのが分かり、感情的な独りぼっちから解放され、心身が楽になりました。こちらに、元々の友人や新たな友人はいますが、やはり同じ駐夫でなければ、悩みを理解してもらいづらいです。

例えば、「昼間何しているの」などと、興味本位含みで聞かれることもあります。彼らは、駐在員・現地就職組などですから、心のどこかで、「働いていない」自分自身が引け目を感じている側面が、今もあります。

地域や子どもの年齢などそれぞれの現況は違えど、「夫婦でキャリアの共同形成」や「自分のキャリアをセーブして、妻のサポートにあたる」「異国で子どもとの時間に専念する」など、日本の伝統的価値観・家族観・夫婦観では、まだまだ理解されにくい環境下に自らを置いた上で、新しい価値観を創出する。駐夫は新たな男性のライフスタイルを身をもって体現していこうという思いを共有する、大変心強い同志であり、世界各地に散る、いわば戦友のような存在です。

社会的認知はまだまだ

――小西さんが休職を始めた頃と、駐夫をめぐる環境は変化していますか。

まずもって、私が渡米した2年ほど前と比べて、駐夫がどんどん増えていることに驚いています。渡米前後、「駐夫」で検索しても、OBのブログしかヒットしませんでした。

今や、多くの駐夫が発信しています。それだけ、女性の社会進出が日本企業でもこの2年で増えているのかなとも思います。駐夫という存在に対し、プレゼンスが一定程度上がっているのも変化の一つかと感じます。

同時に、男性の生き方、考え方がより柔軟になってきているのかなとも感じます。これまでは「妻だけが単身で海外赴任していた」あるいは「夫の反対、拒否を受け、泣く泣く海外勤務を断念した」というケースも少なからずあったと推察しますが、制度の浸透などもあり、駐夫になる決断に踏み切りやすくなっているような気がします。私自身、休職制度がなければ決断できなかったので、退職して駐夫になった人には尊敬に近い思いを抱いています。

一方で、存在感が上がっていると言っても、社会的に認知されているかと言えば、疑問が残ります。私の例で恐縮ですが、渡米に際し、上の世代は軒並み冷ややかな対応でした。

「昼間、何やってるの」などという質問を、こちらでも50代以上の男性を中心に聞かれます。自分の妻が、家事・育児に長い時間を費やしているということを知らない、知っててもふたをしているため、同じことを駐夫がしているという当たり前のことに、想像力が働かないのでしょう。

世代と言ってしまえばそれまでですが、同じ質問を、こちらで30代からされることもあります。そう考えると、共働きがこれだけ増えているといっても、日本社会に「(共働きでも)家事・育児は女性がするもの」という空気感が充満しており、彼らもそれに染まっているということがあろうかと思います。ましてや、駐夫となれば「奥さんに海外までついて行って、家事・育児するなんて、あり得ないんじゃね」という見方です。

昨年のサンクスギビング(感謝祭)で、3時間かけて調理したターキー(七面鳥)
昨年のサンクスギビング(感謝祭)で、3時間かけて調理したターキー(七面鳥)

男性育休への課題が当てはまる

――社会や企業に望むことは何ですか。

まずは、海外に同行して、家事・育児の専念にあたっている駐夫という存在への理解です。小泉進次郎さんの育休取得をめぐる騒動であぶりだされましたが、男性育休に対する理解の欠如、取りにくい雰囲気にあふれている空気感。これは、休職制度を使って帯同する駐夫にも実は置き換えられる話です。要は、妻が働き、夫が育休を取った際のミッションを海外で行うということですから。

これから、さらに駐夫が増えていく過程で、休職しづらい空気感というのは、問題として出てこようかと思います。そもそも、同行休職制度がない企業も数多く、復職制度も含めて、安心して帯同できる制度が拡充してほしいものです。

また、育休よりも休む期間が長期になりがちなわけですから、キャリア中断後の働き方について、駐夫のほとんどが不安に感じています。不利益な扱いを受けるのではないか、同期と差がつけられるのではないか……などです。さらに、本帰国後も妻のサポートにあたりたいとして、総合職以外の働き方を模索する駐夫もいます。

しかし、女性と違って、男性は総合職以外の選択肢があまりないのが実情です。男性の時短勤務には、厳しい視線が注がれることもあるでしょう。男性の雇用・勤務形態がより柔軟に選択できる環境が望ましいです。

渡米後、趣味でマラソンを始めた小西さん
渡米後、趣味でマラソンを始めた小西さん

駐夫の経験、社会に還元を

「家族はやはり一緒にいた方がいい」。政治現場の最前線で取材・執筆をしていた私が、駐夫になった最大の理由です。決断まで色々と逡巡しましたが、家族で幸せに暮らすにはどうすれば良いか、と最終的に考えたところ、極めてシンプルな結論に至りました。

妻のキャリアを尊重するため、夫が一時的にキャリアをセーブし、海外で家事・育児に専念するという生き方に対し、まだまだ否定的な見方が大半なのが現実でしょう。男性からだけでなく、少なからず女性も同様です。ところがアメリカ人からは、男女を問わず、こちらが恥ずかしくなるほど「素敵」「素晴らしい」などと言われます。

その違いの原因は、国民性や気質だけでは説明できないと思います。働き方や男女役割、キャリア形成への考え方、家族観などの他にも要因は色々あるはずです。多様な価値観に基づくライフスタイルが定着するためには、共働きを当然と思う世代の考え方を理解し、一歩踏み出した決断を目の当たりにした時に、冷ややかなまなざしではなく、温かい空気感を醸成するのが大切です。

私自身、駐夫生活を終えてからも、こちらで新たに得られた価値観を執筆活動などで紹介し、少しでも駐夫への理解が進むような社会となるよう、培った経験を還元していきたいと考えています。

父親のモヤモヤ、お寄せください

記事に関する感想をお寄せください。また、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためとして、政府が小中高校や特別支援学校の休校を要請しました。ネット上では、判断の是非だけでなく、しわ寄せが「母親」に集中しているとの批判もみられました。一方、こうした状況について、子育てに深く関わる父親はどう感じたのでしょうか。ご意見を募ります。

いずれも連絡先を明記のうえ、メール(seikatsu@asahi.com)、ファクス(03・5540・7354)、または郵便(〒104・8011=住所不要)で、朝日新聞文化くらし報道部「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。

 

共働き世帯が増え、家事や育児を分かち合うようになり、「父親」もまた、モヤモヤすることがあります。それらを語り、変えようとすることは、誰にとっても生きやすい社会づくりにつながると思い、この企画は始まりました。あなたのモヤモヤ、聞かせてください。

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