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連載

#49 #父親のモヤモヤ

妻が海外勤務、育休を取得し「駐夫」に 「今度は応援」も感じた孤独

妻の海外勤務に育休をとって同行。そんな選択をした「駐夫」のモヤモヤとは――(写真はイメージです)=PIXTA
妻の海外勤務に育休をとって同行。そんな選択をした「駐夫」のモヤモヤとは――(写真はイメージです)=PIXTA

目次

#父親のモヤモヤ
※クリックすると特集ページ(朝日新聞デジタル)に移ります。
妻の転勤に夫が育休をとって同行する。共働きが増えるなか、そんな選択肢をとる家庭は増えてくるのかもしれません。40代の男性は数年前、妻が海外赴任になったため、育休をとって3人の幼い子どもたちとともに同行する「駐在夫(駐夫)」に。どうしてその決断を? どんな経験だったのか? 男性と妻に話を聞きました。
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「キャリア継続、なぜ夫だけ?」

妻は独身時代に海外勤務を経験。結婚・出産した後も、チャンスがあれば再び海外勤務することを望んでいました。そこへ飛び込んできた転勤の話。

とはいえ、育児の真っ最中。簡単に決められる話ではありません。最終的に育休をとると決めた男性にとっても、難しい選択でした。

育休をとることでキャリアが中断されれば、その後の仕事に影響が出るかもしれません。自分と子どもが日本に残り、妻が単身赴任する。そんな選択肢もありましたが、働きながらまだ小さい3人の子育てを男性が1人で担うことは現実的とは思えませんでした。

どうしよう……。考えを巡らせていた男性ですが、ふと、こんな疑問が自分自身のなかに湧いてきました。

「家庭内の夫と妻の間で、なぜ、夫だけが自分のやりたいことを実現できるのだろう? なぜ、それが安易に許されるのだろう?」

今度は応援する番

思い起こしたのは、2番目の子どもが生まれたときのことでした。先天性の病気をもって生まれてきたこともあり、妻はその時点でキャリアを中断。2年半の育休を取得し、育児を中心的に担ってくれました。その間、男性は仕事を続けることができました。

男性は言います。

「家庭をともにまわしていくパートナーである妻に対し、自分は『借り』がある。彼女に時間を返し、応援する番がまわってきたんだ。そう考えると、迷いや悩みが少し解消された気がしました」

夫婦がともにキャリアアップを希望するとき、互いの自己実現のために費やす時間や負担は、等しくあるべきだ。男性はそう考えたと言います。

自分自身のキャリアを考えれば、決してプラスとは言えないかもしれない。会社員としての人生は後退していくのかもしれない。でも、育休をとることで人とは違う風景が見られるかもしれない。長い目でみれば、キャリアを追求する人生とはまた違った意味があるのかもしれない。

家計を支える「大黒柱」は今後、妻になる可能性が高い。男性と妻はその点も、話し合いました。妻は「夫から『管理職として上をめざしてしっかり働いてほしい。その覚悟があるならついていく』と言われました。正直自信はありませんでしたが、望んだ海外勤務だったので、私なりに覚悟を決めました」と振り返ります。

夫婦がともにキャリアアップを希望するとき、「費やす時間や負担は、等しくあるべき」と語る男性=PIXTA
夫婦がともにキャリアアップを希望するとき、「費やす時間や負担は、等しくあるべき」と語る男性=PIXTA

海外で育児、想像以上にしんどかった

家族で海外にわたり、夫が家事育児を中心に担う生活が始まりました。

ただ、その生活は想像以上にしんどかったそうです。ただでさえ慣れない海外生活。言葉の壁があるなか、子どもの突然のけがで、病院をかけずりまわったことも。妻はそばにおらず、その判断や責任が自分の肩にかかっていると思うと、怖さを感じました。もちろん2人で育児をしているのですが、「いま最終的な責任者は自分なんだ、自分がまわしていかないとダメなんだと思いました」。

現地で友達をつくるのにも時間がかかりました。日本人の「ママ友」の輪に入ってはみるものの、継続的な関係を構築するのは難しかったといいます。

日々、子どもとばかり過ごす毎日。大人との会話がなくなり、孤独感がありました。

1年が過ぎ、子どもを週2回あずかってもらえる場所を見つけると、少しずつ自分の時間がつくれるようになり、気持ちにも余裕が出てきました。

「健康を維持し、子どもと一緒に安全に帰ってくる。それを目標に、必死に過ごしていました。子どもと向きあって過ごす時間は楽しいことだけでなく、大変なことが多い。妻はそれをこれまで担ってきてくれていたのだと実感しました」

一方、妻はこう言います。「ほかの日本人の駐在員をみていて、夫の赴任に妻と子どもがついていくという形は珍しくないのに、私たちのような逆のパターンはほとんどなく、こんなにも特別なことだったのかと思い知らされました。ただ、海外ではみんな家庭を大事にして定時で帰ることが根付いていて、その点は助かりました」

父親の葛藤、「恐怖感」から来るのでは

帰国後、男性は職場に復帰。夫婦共働きで、家族5人一緒に暮らす生活に戻りました。子どもの保育園の送りは妻が、迎えは男性が担います。夫婦で仕事も家事育児もシェアする生活が続いています。
 
男性は仕事をこなしてこそ一人前、女性は仕事の前に家事育児をするべきだ。そんな伝統的な考え方は薄まったかもしれませんが、まだ根強く残っています。

そのなかで、男性のような選択をすることは簡単なことではありません。「#父親のモヤモヤ」では、共働き社会のなかで抱えるさまざまな父親の葛藤を紹介してきました。

ただ、男性はこう言います。

「男性が働くべきだという社会通念が根強い日本で、その風圧に耐え、家族に時間を割くことへの難しさは、ある程度理解できます。しかし、自己実現において夫と妻には同じ権利があるはずです。夫が感じているのは『モヤモヤ感』というより、社会の流れと逆行した行動をとることへの『恐怖感』なのではないでしょうか」

男性から届いたメールには、性別による役割意識への疑問が投げかけられていた
男性から届いたメールには、性別による役割意識への疑問が投げかけられていた

増える駐夫、つながりが大切

「女性の社会進出と、それに伴う男性の意識変化。企業による休職制度の増加もあり、妻の海外赴任に夫が同行する駐夫が増えるのは自然の流れだと思います」

こう語るのは、自身も夫の海外赴任に同行した「駐在妻(駐妻)」の経験がある、駐在妻キャリアサポートコーチの飯沼ミチエさんです。2018年2月に立ち上げた情報・交流サイト「駐妻café」では、妻のキャリアを心配する男性駐在員からの問い合わせも増えており、「夫婦のキャリアを平等に尊重するという意識を感じます」と話します。

人間関係やキャリア中断による「アイデンティティーロス」など、駐妻の悩みの大半は駐夫にも当てはまると語る飯沼さん。一方、「『男性は仕事』という従来の価値観からくるプレッシャーや同性の同じ立場がまだまだ少ないという、駐妻とは別の悩みもあるようです」と指摘します。

これから駐在妻になる人に向けて、飯沼さんが開くオリエンテーション=2018年、飯沼さん提供
これから駐在妻になる人に向けて、飯沼さんが開くオリエンテーション=2018年、飯沼さん提供

妻の転勤に伴い休職し、7歳の長女、5歳の長男とともにアメリカに移った小西一禎さん(47)は渡米から約1年後の2018年11月、フェイスブック上に駐夫仲間を募るグループを立ち上げました。メディアやブログなどで「駐夫」を名乗り発信していましたが、同じ境遇の悩みや喜びをシェアできる人は少なく、孤立感があったという小西さん。「そうした人たちが世界中にいるのではないかと思い、グループを作りました」

現在は、北米や欧州を中心に約40人の駐夫がメンバーに。小西さんのように休職中の人もいれば、退職して妻に同行する人もいます。グループでは、子どもの寝かしつけに苦しんでいることや、お弁当作りがワンパターンになるなど、家事・育児の悩みを共有。2月末には初めて「オンライン飲み会」を実施し、「駐夫を終え、本帰国後のキャリアをどうするか。転職すべきか否か」「自分の収入がなく、男として現地で買い物をする時、卑屈にならないか」といった悩みを本音で語り合いました。

グループを作ったことで「同じ悩み、苦しみ、楽しさを抱いているのは自分だけではないというのが分かり、心身が楽になりました」と話す小西さん。日本の伝統的価値観では、まだまだ理解されにくい環境だからこそ、こうしたつながりの大切さを実感しています。

「地域や子どもの年齢などそれぞれの状況は違えど、新たな男性のライフスタイルを身を持って体現していこうという思いを共有する、大変心強い同志。世界各地に散る、いわば戦友のような存在です」

父親のモヤモヤ、お寄せください

記事に関する感想をお寄せください。また、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためとして、政府が小中高校や特別支援学校の休校を要請しました。ネット上では、判断の是非だけでなく、しわ寄せが「母親」に集中しているとの批判もみられました。一方、こうした状況について、子育てに深く関わる父親はどう感じたのでしょうか。ご意見を募ります。

いずれも連絡先を明記のうえ、メール(seikatsu@asahi.com)、ファクス(03・5540・7354)、または郵便(〒104・8011=住所不要)で、朝日新聞文化くらし報道部「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。

 

この記事は朝日新聞とYahoo!ニュースによる連携企画記事です。共働き世帯が増え、家事や育児を分かち合うようになり、「父親」もまた、モヤモヤすることがあります。それらを語り、変えようとすることは、誰にとっても生きやすい社会づくりにつながると思い、この企画は始まりました。今回は「転勤」をテーマにした記事を配信します。

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