MENU CLOSE

お金と仕事

1907

月収100万円ブロガーが問う介護の低賃金「改善待つのは時間のムダ」

底辺から出発して、幸せになるには?

「月収15万円だった現役介護士の僕が月収100万円になった幸せな働き方」(KADOKAWA)を出版した、たんたん、こと深井竜次さん
「月収15万円だった現役介護士の僕が月収100万円になった幸せな働き方」(KADOKAWA)を出版した、たんたん、こと深井竜次さん

目次

月収15万円だった介護士がブログで稼ぐようになり、ついに月収100万円に――。この間の経緯を自身で書いた介護士ブロガー「たんたん」さんの本が出版されました。「月収15万円だった現役介護士の僕が月収100万円になった幸せな働き方」(KADOKAWA)です。低賃金の業界には期待せず、自分で稼ぎ口を見つける。彼の生き方を通じて、介護現場に問われているものを朝日新聞編集委員(53歳)が考えました。


エコヒイキ入ってますが、お許しを

介護士ブロガー「たんたん」、こと深井竜次さん(26歳)と初めて会ったのは、2019年4月。彼が住んでいる島根県出雲市の「コメダ珈琲」でした。

取材するきっかけは、スマホのグーグル・アプリから配信されたブログの記事を読んだこと。介護士の働き方についてリアルに書かれており、感心しました。

【関連】深井さんが運営するサイト「介護士働き方コム」

そして書いたのが、こんな記事です。

【関連】26歳介護士ブロガー、月収100万円でも生活費8万3000円の理由

この記事は、多くの人が読んでくれて、Newspicksでは「今週多く読まれた記事 TOP5」入り。堀江貴文さんなど、多くのコメントが集まりました。

ぐんぐん成長、あっという間に出版

今回の本を読んで、また一段と成長したな、という印象を持ちました。

大学を出て、社会人を30年やっても、僕が手に入れられない「自信」を彼は手に入れたと思います。

「僕の人生散々だった」からスタート

深井さんの人生のスタートは恵まれたものではありません。

高校2年生で母親ががんで亡くなります。

専門学校卒業後に、保育士になったものの「先輩保育士さんに嫌われてしまい」挫折。

無資格で介護業界に飛び込んだ、今の世間的評価でいえば、「底辺」からの出発でした。

月給は手取りで15万円。10年先輩の上司のボーナス額が、自分より1万円しか変わらないと知って絶望したといいます。

それが、筆1本で月100万円を稼げるようになったのです。

本の背表紙側の帯が味わい深い。
本の背表紙側の帯が味わい深い。

誰からも助けてもらわない、組織の力も使わない、自分の頭で考え、試行錯誤しながら、生活パターンを変え、時間とエネルギーを「投資」して一つのビジネスモデルを構築しました。

ずっと同じやり方で稼ぎ続けることはできないかもしれない。

彼自身、「ブログからの(広告)収入は頑張っていても落ちるときには落ちてしまいます」(183ページ)という認識です。

でも、一度でも「自分で工夫し、ゼロから稼いだ」という経験は、これからの彼の人生を支え続ける自信になるでしょう。

これからの世の中で、生き抜くには、こういうたくましさこそ、必要になっていくのではないかと思います。

「たんたん」こと、深井竜次さんは、初対面の人に会うときはきちんとした格好を心がける。
「たんたん」こと、深井竜次さんは、初対面の人に会うときはきちんとした格好を心がける。

若者向け「お金の教科書」でもある

本当の安定は正社員で働くことではなく、「どこでも稼げる能力」を持つことではないでしょうか。
本書35ページ

この本のなかで繰り返される重要なメッセージです。

深井さんは、生活費は10万円以内に抑えつつ、「自分を豊かにして成長させてくれるもの」には出費を惜しみません。

それは「どこでも稼げる能力」を身につけるのに役立つからです。

具体的には「読書と旅と人に会うこと」です。

そして若い時にこそ、お金を使って経験とスキルを身につけ、将来への備えにするというポリシーに沿って行動します。

お金は使うことで価値を発揮する。貯めていても安心材料にしかなりません。
本書52ページ

フリーランスより副業がおすすめのワケ

この本は、単なる個人の「成功談」にとどまらない、実践的な内容が含まれています。

たとえば、「フリーランスより副業がおすすめ」という項(72ページ)があります。

「フリーランス」で働く人は、国民健康保険(国保)と国民年金(国年)に加入して、いったん自分の懐に入ったお金から保険料を払います。

これに対して、深井さんは「副業」でブログを書きつつ、派遣会社に登録し、そこで社会保険に加入しています。

保険料は給料から天引きされ、会社も半分負担するので、将来の年金は確実に多く受け取れます。給料が高くなければ、自己負担分が国民年金より安くすむこともあります。

支払い事務は会社がやってくれて楽だし、自分で払うよりも天引きの方が払うストレスは少ないという分析もしています。

固定費を節約するため、民間の医療保険には入らない。社会保険で十分。
固定費を節約するため、民間の医療保険には入らない。社会保険で十分。 出典:PIXTA

自分を守る基本の「き」

長年、社会保障を取材してきた私からみて、これは極めて有利な制度の使い方です。

ケガや病気になったときに自分の身を守るため、そして(想像しにくいでしょうが)必ず訪れる「老後」のためにも、身につけて欲しい「基本のき」が、公的制度の活用です。

「社会保障なんてムダ。オレは国には頼らない」と思っていた人が、社会保障に救われた話は、私も記者としてたくさん見聞きしてきました。

「働いて健康保険に入っている間に倒れたのは不幸中の幸いだった。もし、仕事をやめた後に倒れていたらもっと大変だったろう」:朝日新聞デジタル
介護保険は無駄と信じた私 要介護の今、実名で伝えたい
いくら元気な人も、いつ病気で健康を損なうか分からない。その時のことも考える
いくら元気な人も、いつ病気で健康を損なうか分からない。その時のことも考える 出典: 朝日新聞

一部の週刊誌や学者・評論家が「日本の社会保障はもうダメだ」とか不信感をあおる言葉をまき散らしていますが、日本の医療や年金の制度は案外うまくできています。

やはり会社で入る社会保険が有利です。「保険料が天引きされると手取りが減るから」といって社会保険に加入していないパートやアルバイトの人は、よくよく考えてみてください。

日本社会にとって「劇薬」かも

介護職の給料が低い、という話に戻ります。

根本的な原因は、介護保険という制度に投入される「お金」の不足です。

具体的には、国民が負担する介護保険料や税ですが、まあほとんどの人は「国に召し上げられるお金」くらいにしか思っていないでしょう。政治家も選挙に不利になるから「もっと払って」とは、なかなか言いません。

結果、介護サービスに対する報酬が低く抑えられ、スタッフの給料も上がりません。

「残業がデフォルト」ではもたない

ところが、介護を必要とする人はどんどん増えます。

これまでは、給料が安くても「大事な仕事だから」と、職員がサービス残業などのムリをして辻つまを合わせてきました。

同時に、「国はなんとかしろ!」と文句をいってきました。私たち記者も、同じく国の責任を追及します。だって、介護保険は国が運用する制度で、「サービスをいくらにするか」という値付けも国がやっていますからね。

疲れすぎると、新しいことに取り組んで自分を成長させるのが難しい
疲れすぎると、新しいことに取り組んで自分を成長させるのが難しい 出典: PIXTA

「立ち去り型」の抵抗は強いかも

一方、深井さんは「見通しが立たない待遇改善を、指をくわえて待っていても時間のムダ」という考えです。

文句をいうくらいなら、1円でも自分で稼げるよう努力した方がいい。

これは、国や政治といった権力に「都合のいい振る舞い」なんでしょうか。いや、私は逆だと思います。

なぜなら、深井さんは残業、特にサービス残業は断固拒否するからです。

介護職に現場から立ち去られて困るのは誰なのか
介護職に現場から立ち去られて困るのは誰なのか 出典: PIXTA
出世のために望まないサービス残業をするより、副業をして1万円でも自分で稼ぐ力を身につけたほうが将来の利益につながります。
本書54ページ

こう考えるからです。

「そんなことしたら他の職員にしわよせがいく。無責任な派遣だからできる」という批判はあるでしょう。

でも、「他の職員」もみんなサービス残業を拒否して、立ち去ってしまったらどうでしょう。職場は回らなくなるかもしれません。必要なサービス量が確保できなくなり、利用者の生命に関わるかもしれません。

その責任は、現場の職員にあるのでしょうか? 人員を確保できない施設の管理職の責任でしょうか? 

それとも、介護の現場にお金を回せない国の責任でしょうか? 国の責任って、本当は誰の責任なんでしょうか?

僕が従事している福祉業界では、この「やりがい搾取」が顕著に表れていて、無給(もしくは少ないお金)でプロのスキルを使おうとします。
本書47ページ
介護職員が不足すると困るのは誰なのか
介護職員が不足すると困るのは誰なのか 出典: PIXTA

「やりがいを搾取」しているのは誰なのか? これは、とてもディープな問いです。

「介護で働く人たちが、いずれ中堅やベテランになっても手取り15万円からあまり変わらない」ことに絶望を深め、
「将来、苦しい思いをしないためにどうすればいいのか」を自分の頭で考え出し、
「何か新しいことを始める気力・体力を温存するため、長時間ハードに働くのはやめよう」と行動を始めたら、

介護の現場はどうなるでしょう?

「たんたん」こと、深井さんの思考と行動パターンは、私たち一人ひとりに鋭い刃を突きつけていると思います。

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます