連載
#16 ○○の世論
迷言の代償…進次郎氏、後継レースで失速 自民支持層の「心変わり」
安倍晋三首相の次の自民党総裁を争う「ポスト安倍」レースに、異変が起きています。最近の朝日新聞の世論調査では小泉進次郎氏が失速し、石破茂氏が伸びています。その背景には、自民支持層と内閣支持層の「心変わり」があるようです。(朝日新聞記者・磯部佳孝)
2月の調査で7人の名前を挙げて聞いたところ、最多は石破氏の25%(昨年12月調査は23%)で、小泉氏の14%(同20%)を引き離しました。
「ポスト安倍」を聞く質問は2018年10月調査以降、これまで5回ありました。選択肢が異なるので単純な比較はできませんが、小泉氏の支持率は環境大臣として初入閣した2019年9月を潮目に、下がり始めます。
入閣前の2019年5月は全体で29%だったのが、入閣した9月以降は22%→20%→14%と落ち込んでいます。と同時に、内閣支持層と自民支持層でも支持率が落ち込み、「小泉離れ」が進んでいることが読み取れます。
その理由の一つは、小泉氏から持ち味の「歯切れの良さ」が失われたことがあります。小泉氏は入閣前までは、森友・加計学園問題をめぐって安倍政権に苦言を呈してきましたが、入閣後は「内閣の一員」と繰り返し、政権批判はすっかり影をひそめました。
「迷言」も飛び出しました。2019年9月にニューヨークで開かれた国連気候行動サミットで、小泉氏が記者会見で「気候変動問題に取り組むことはきっとセクシーでしょう」と英語で述べ、国内外で波紋を呼びました。
今年2月調査直後の18日の衆院予算委員会では、いまの小泉氏を象徴するようなやりとりもありました。
小泉氏が、全閣僚が出席する新型コロナウイルス感染症対策本部の会合を欠席し、地元後援会の新年会に出席したのではないかと野党議員から問われたのです。すると小泉氏は「ご指摘があった通り」と答えたものの、野党議員から何度聞かれても、「新年会に出席した」と説明することは避け続けるという不思議な答弁を繰り広げたのです。
結局、小泉氏が新年会に出席したと明言したのは翌19日の衆院予算委でした。
小泉氏に代わって、内閣支持層と自民支持層の支持を集めつつあるのが、石破氏です。
2019年5月以降、じわりと数字を伸ばしています。さらに内閣支持層と自民支持層を見ると、2020年2月の調査で石破氏は内閣支持層と自民支持層の両方で小泉氏を押さえてトップとなりました。
「ポスト安倍」をめぐって、これまで石破氏を支持してきた層は、内閣不支持層や立憲民主支持層といった安倍首相に批判的な層でした。それが最近では数字を見る限り、内閣支持層や自民支持層といった安倍首相を支えている層にも浸透しているようです。
なぜ石破氏が支持を伸ばしているのか。その背景として、安倍首相の「私物化」が指摘されている「桜を見る会」の問題をめぐる、内閣支持層や自民支持層の「不満のマグマ」があるようです。
2月の調査で、国会での安倍首相の説明に納得できるかを聞いたところ、「納得できない」と答えたのは、内閣支持層の52%、自民支持層の58%にのぼりました。
石破氏は森友・加計問題だけではなく、「桜を見る会」の問題をめぐっても安倍首相の対応にクギを刺し、その舌鋒は鈍っていません。いまのところ石破氏は、こうした不満の受け皿となっているといえそうです。
かたや岸田文雄氏は、安倍首相が「後継」に目しているとの見方が政界で広がっています。ただ、岸田氏の支持はつねに一ケタと低迷しています。
岸田氏の支持率が伸び悩むのは明確なカラーが見えず、自民党政調会長ながらも知名度が不足しているためです。岸田氏は2月3日、新年度予算をめぐる衆院予算委員会の党のトップバッターとして質問に立ったものの、安倍首相への配慮もにじみ、党内からも「踏み込み不足」との声が漏れました。
今後を占ううえで、ポイントになりそうなのが、「ポスト安倍」をめぐる質問で、「この中にはいない」と答えた層です。
「この中にはいない」は2019年9月以降、27%→29%→32%と3割前後の水準を保っています。2020年2月の調査では、内閣支持層の28%、自民支持層の26%、無党派層の37%が「この中にはいない」と答えています。
こうした人たちが今後どう動いていくのでしょうか。安倍首相の党総裁としての任期は来年9月末まで。「ポスト安倍」レースの行方に注目が集まります。
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