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#14 ○○の世論

主婦の年金、若者の本音 保険料免除「賛成」が多い理由

共働きには不公平に見える「専業主婦の年金保険料免除」。若者ほど「賛成」な理由は? ※画像はイメージです
共働きには不公平に見える「専業主婦の年金保険料免除」。若者ほど「賛成」な理由は? ※画像はイメージです

目次

いろんな世論調査をする中で、「あれ? 意外な結果」と感じる質問が時々あります。2019年暮れの郵送調査で尋ねた「主婦と年金」に関する1問がまさにそれ。その疑問を社会学者にぶつけてみると……。 (朝日新聞記者・渡辺康人)

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主婦の年金保険料免除、18~29歳に多い「賛成」

専業主婦らが年金保険料を免除される今の制度の賛否を尋ねたところ、こんな結果になりました。

【いまの公的年金制度では、サラリーマン家庭の専業主婦や多くのパート主婦に年金保険料の負担を求めていません。この仕組みに賛成ですか。反対ですか】
・賛成(49%)
・反対(42%)
※その他・答えないは省略
<調査方法>昨年11~12月、全国の有権者から層化無作為2段抽出法で3千人を選び、郵送法で実施。有効回答は2055で、回収率は69%

わたしが「意外」と感じたのはこの全体の賛否ではなく、年代別の回答結果でした。

 

18~29歳が賛成63%と最も高く、年代が上がるほど賛成が減っていき、70歳以上は賛成40%、反対50%と賛否が逆転しました。

専業主婦は減っているのになぜ?

わたしの認識では、今の若い世代ほど独身や共働き夫婦が多く、年金制度の「主婦の恩恵」が受けられる人たちは少ないはず。そして高齢世代ほど専業主婦の割合が比較的高く、こうした年金制度の恩恵を受けてきた人たちが多かったはず。

ん? 若い世代ほど「主婦の保険料免除」への支持が多くて、高齢の人ほど反対が増えているぞ。逆ではなくて??

ちなみに記者は57歳。主婦の保険料免除の制度が始まった1986年はちょうど大学を卒業した年で、専業主婦のほうがかなり多い時代でした。厚生労働白書のデータでは、1980年は専業主婦が1114万世帯に対し、共働きは614万世帯だったのが、2017年では完全に逆転し、専業主婦は641万世帯、共働きは1188万世帯となっています。

 
   

「そりゃ、若い人ほど賛成が多いに決まっていますよ」

自分の疑問への答えがほしくなり、家族社会学が専門の中央大の山田昌弘教授に電話をしてみました。「パラサイト・シングル」や「婚活」という言葉の生みの親で、高齢者の孤立死から若者のセックス観まで人の本音に迫る考察が深く鋭い研究者です。

趣旨を伝えると、開口一番「そりゃ、若い人ほど賛成が多いに決まっていますよ」。その答えを待ってました。さっそく、東京・八王子にあるキャンパスの研究室まで理由を聞きに行ってきました。

山田昌弘教授=東京都八王子市、中央大学
山田昌弘教授=東京都八王子市、中央大学

実態は「生活のための共働き」

――「働く女性は年金保険料を払うのに、主婦は優遇されすぎ」といった批判は昔からありますよね。女性の社会進出や非婚が進む世代になぜ賛成が多いんでしょうか。

山田教授「まず働く女性が増加したとはいっても、年金制度上は『主婦』として扱われる年収130万円未満のパートが多いことも押さえておく必要があります。女性の社会進出というより『生活のための共働き』というのが実態です」


――それにしても、保険料免除の主婦の数は減っています。それに女性の社会参加意識の高まりからすれば、「男は外で仕事、女は家で家事」といった古い家族像が透けて見える主婦の「特権制度」に若い世代は抵抗を感じるのでは。

山田教授「確かに若い人たちはこの制度で損をする世代です。昔は当たり前だった専業主婦家庭はなかなか望みがたく、恩恵は受けられないのに、よその専業主婦家庭の年金保険料は自分たちが負担するようなかっこうですから。とはいえね、それならば反対意見が増えるはず、というのは違います」


――どういうことでしょう。

山田教授「3つ理由が挙げられます。まず若い世代ほど経験のなさから『負担がないなら、そっちのほうがいい』と、質問文に単純に反応してしまいがちなこと。専業主婦家庭でなければ逆にその分を負担する側に回ることに考えが及ばず、得する側に身を置いて答えてしまう。若い人はこうした質問に理想をイメージしますから」

「女性の社会進出というより『生活のための共働き』というのが実態です」(山田教授) ※画像はイメージです
「女性の社会進出というより『生活のための共働き』というのが実態です」(山田教授) ※画像はイメージです

昔も今も変わらない「専業主婦願望」

――理想で答えた結果がこれということは、「専業主婦家庭」を望んでいると。

山田教授「そこが2つ目で重要な点ですが、いろいろ調べてみると若い世代の『専業主婦願望』の高さは昔も今もほぼ変わらないことがわかるんです。もちろんお金以外の目的で仕事を望む女性もいますが、『もしかなうものなら』という純粋な希望としては『専業主婦がいい』と考える若い女性が今も多いし、男性が女性に望む意識もそう。願いがかなう確率が低かろうが、回答にはこの理想が反映されます」


――なるほど。実際に恩恵を受けているかというよりも、こうなりたいという「願望」が若い世代の回答に現れているということなんですね。では3つ目は?

山田教授「若い人が『理想』で答えるのに対し、中年は『現実』で答える。そして高齢者には『自分の年金が減らされないほうがいい』という知恵と意識が働きます。年金財政が苦しくなって受取額が減っては困るわけですから、主婦の保険料免除は自分たちにとってマイナスなわけですよ。若いほど賛成が多く、高齢ほど反対が多いのはそういうわけです」

「若い世代の『専業主婦願望』の高さは昔も今もほぼ変わらない」(山田教授) ※画像はイメージです
「若い世代の『専業主婦願望』の高さは昔も今もほぼ変わらない」(山田教授) ※画像はイメージです

「若い世代、答えるべきは反対だと思いますよ」

――なるほど、わたしは「主婦特権の恩恵が大きかった世代=賛成」「恩恵の乏しい世代=反対」と単純に図式化して考えたことになりますね。

山田教授「そうですね。これを言ってもしかたないですけど、わたしも若い世代が答えるべきは『反対』だと思いますよ。自分たちのためを思うなら。情報も足りないんでしょうね」


――ちなみに山田先生がこの質問に答えるとしたら。

山田教授「『反対』です。夫がサラリーマンで妻は専業主婦をしていられるなんて、いまどき恵まれた家庭です。家事、育児は大変な労働ですし、収入のない主婦をサポートする制度であることも理解しなくてはなりませんが、母子家庭や非正規で働く人、零細でも自営業の奥さんらは年金保険料を払っているわけですよ。所得の高い正社員家庭がより多くの恩恵を受けるのは、社会保障の逆進ではないかとわたしは考えます」

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