連載
#2 ネットのよこみち
コピペルナー開発者が語った「やさしさ」、名前から伝わる学問への愛
卒業論文。大先輩たちは卒論も手書きで、参考文献から引用するにしてもせっせと手で写すしかなかったわけだが、2000年代半ばごろからPC・ネット環境が整備され、利用者が増えると、写すほうも随分ラクになる。コピペ問題と呼応するように生まれたのが、コピペ発見ソフト「コピペルナー」だった。その後、様々な改良版は生まれているが、「コピペ」がなくなる気配はない。さらには読み手をがっかりさせ、発覚した途端、袋だたきにあう。この悲劇を無くすにはどうすればいいのか。「コピペルナー」というネーミングに込められた「やさしさ」から考えてみたい。(吉河未布)
ネットはあっても知りたい情報はまだそこにはなく、図書館に行って借りてきた本をPCの横に置いてちまちまと入力するという時代を経て、ネット上にさまざまな情報・知見がたまってくると、調べたい放題。ということは、写したい放題ということでもある。
そして2000年代半ばごろから、コピペ問題が取りざたされるようになった。コピペ問題とは、「引用」では済まされない、“ほぼ丸写し”のようなもの。コピペ自体はそのもっと前からあった行為だろうが、簡単に写せるとなると広範囲になりやすい。またネットにより発見される率もあがるわけで、2007年には新聞社でも“盗用”が連続で報じられ、世間をあきれされた。
そんな折のことである。2008年5月、金沢工大知的財産科学研究所所長・杉光一成教授が「コピペ」を発見するソフトを開発中だという話題が、ネット上でもちきりになった。
学生のコピペが発覚したことから思いついたといい、コピペの有無を調べたい文書を読み込ませると、ネット上や文献データベース内を検索。語尾に“ゆらぎ”があっても検出する「あいまい検索」とともに、コピペが行われている箇所を解析し、コピペ割合やコピー元の文献などを表示するという仕組みだ。
その後もあっちこっちでコピペが常態化していることが明るみに出て、2008年9月1日放送の『クローズアップ現代』でもコピペ問題を特集。番組では“ネット上に広がる膨大な情報とどう向き合っていくべきか考える”とうたうにとどめたが、 “これは由々しき事態。どうにかしなくては”と憂える意識が広まるなか、ついに2009年12月、アンクから前述・コピペ発見ソフト「コピペルナー」が発売された。
コピペルナー……。
そのネーミングに、開発者のやさしい気持ちを感じざるを得ない。
「コピペルナー」という言葉に、なにがなんでも発見したるで、という鼻息荒い取締官のイメージは感じられない。やっちゃダメよ、ちゃんとバレるんだよ、という思いが詰まった名前ではないか。
実際、当時のリリースでも、杉光教授は「コピペルナー」への思いを次のように語っている。
“このソフトを特に教育機関が保有することで、そこの学生・生徒が、「どうせコピペしてもばれてしまうから自分で考えてレポートを書こう。」、そう思ってくれればこのソフトの販売は大成功だと考えます”
そしてこの「コピペルナー」は2009年12月末の発売以来、学校や企業、団体などに大人気。バージョンアップを繰り返し、類似ソフトも続々と登場するなか、2014年になり、「コピペルナー」が再注目される事件が起きた。「STAP細胞」論文問題だ。
「STAP細胞」論文は、ネットからの告発により不正疑惑が指摘された。さらにそれを発表した小保方晴子氏の博士論文にも多数のコピペが見つかると、ネット上には、〈コピペルナー、導入してないのかな?〉という素朴な疑問を抱く声が続出。そんな「コピペルナー」は3月13日放送の『情報プレゼンター とくダネ!』(フジテレビ系)でも紹介された。
今では、「CopyContentDetector」、「こぴらん」、「difff」など多数のコピペ発見ツールがあるうえ、ネット上にあらゆる行動が記録される時代。バレた時の傷痕は、はかりしれない。一個人はもとより、組織がやらかしたコピペ案件も、その履歴が消えることはないのだ。それでも、コピペがなくなる気配はまったくない。コピペで得られるのは、すぐはがれる金めっきのよろいのようなものなのに……。
「コピペルナー」リリース時、杉光教授はこんなことも言っている。
“本来、レポートの課題や感想文の宿題等は、単なる知識の有無を測定する試験ではなく、本来は自分の頭を創造的な意味で使う数少ない機会です。その機会を自分でつぶしてしまうのは本当に残念なことです”
「コピペルナー」という名前をもう一度、口に出してみる。北風と太陽。もしかしたら、今、求められているのは、バレたらヤバいという“痛み”をきざみ込むことではなく、生身で戦う格好良さを改めて認識することなのかもしれない。
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