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ネットの話題

ダンボール箱を埋め尽くす円周率の謎 「割れ物注意」ではない意味

円周率が二千数百桁にわたって印字された奇妙な段ボール箱が昨年、ある男性のもとに届いた。一体何のため?記者が謎に迫った。

円周率が印刷された段ボール箱
円周率が印刷された段ボール箱 出典: 朝日新聞

目次

数学の中で「割り切れない」数字として知られる円周率。円の直径に対する円周の長さの比を表しており、3.14159265359…とずっと続く。そんな神秘的な数字が二千数百桁にわたって印刷された商品梱包用の段ボール箱が昨年末、ツイッターで話題となった。いったい何のために印刷されたのか? 「問い合わせを受けたのは初めてです」。記者の質問に、社長は数字の謎について語りだした。

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二千数百桁

発端は、東京都市大の津村耕司准教授(37)によるツイート(昨年12月25日)だった。津村さんは昨年5月に結婚式をし、その記念にとブーケをドライフラワーに加工してもらえるサービスを利用。商品を受け取ったところ、梱包していた段ボール箱のふたの部分に円周率が印字されているのに気付いた。

写真を添えた投稿は瞬く間に拡散。3万以上リツイートされ、「いいね」も11万を超えた。

「見つけた時は驚きました。円周率は割り切れない数なので、商品が割れないようにとの願かけかと思いました」と津村さんは振り返る。

真相を確かめるべく、筆者は送り主の会社「カナックス」(東京)を訪ねた。菅野健社長によると、津村さんが利用したサービスは「アフターブーケ」という。

23年前から始まった商品で、結婚式のブーケなどをドライフラワーにしたり、押し花にしたりして思い出の物に仕立てている。菅野さんは言う。

「結婚式はお金がかかるイベントで、その時はとても華やかですが、あとで振り返ってみると結婚した当人たちのものってないんですよね。2人にとって一番の思い出の品を考えた時、やっぱりブーケだろうと。じゃあ、それを残すようなサービスをやろうじゃないかということになったんです」

ドライフラワーになったブーケ
ドライフラワーになったブーケ 出典: 朝日新聞
押し花になったブーケ
押し花になったブーケ 出典: 朝日新聞

円周率の印字は「割れ物注意」という意味なのか。

「そうではないんです。円周率がずっと続く数字なので、『結婚した2人の愛が永遠に続くように』との思いからです」。菅野さんはそう明かした。

「アフターブーケ」を入れる段ボール箱。ふたに円周率が印字されている
「アフターブーケ」を入れる段ボール箱。ふたに円周率が印字されている 出典: 朝日新聞

「数字の羅列はデザイン的にも雰囲気がいいんです。例えば、フランスのファッションブランド『メゾン マルジェラ』はタグに数字を羅列したデザインを採用しています。そしてそれはデザイン的に美しいだけでなく、意味があることが重要。そういう意味で、円周率はアフターブーケの理念にぴったりです」

そんな意図をあえて段ボール箱に書かないのは「弊社の企業文化なんでしょうね。うちは商品について広告はほとんど出していません。『もしよろしければどうですか』という姿勢を大切にしています。恩着せがましいのは望みません」

社員たちと談笑する菅野社長(左から2人目)=東京
社員たちと談笑する菅野社長(左から2人目)=東京 出典: 朝日新聞

年間4万件依頼

それでもアフターブーケの依頼は年間約4万件にのぼり、受け取りは半年待ちだ。でも円周率の「謎」について問い合わせを受けたことはこれまで一度もなかったという。

客から送られたブーケ。注文は殺到しており、発送は半年待ちだと言う=東京
客から送られたブーケ。注文は殺到しており、発送は半年待ちだと言う=東京 出典: 朝日新聞

「よかったら、製作現場を見ませんか?」。菅野さんの好意に甘えてオフィス内を案内してもらった。部屋の一角には待機状態のブーケがずらりと並び、その横で女性たちが黙々と作業をしていた。

ブーケをドライフラワーにするカナックスの社員=東京
ブーケをドライフラワーにするカナックスの社員=東京 出典: 朝日新聞

乾燥された花をピンセットで慎重につかんだり、押し花にするために花びら一枚一枚を丁寧に台紙に置いたりしていた。実に根気のいる作業だ。

乾燥した花びらを整えるカナックスの社員=東京
乾燥した花びらを整えるカナックスの社員=東京 出典: 朝日新聞

津村さんに円周率印字の真相を伝えたところ、こんな感想が返ってきた。「特に理系の私にとっては、とても粋で面白いなと思いました。今回のことがきっかけで、この面白い取り組みとその想いが少しでも広まることに貢献できたとすればうれしく思います」

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