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#1 ネットのよこみち

バルス祭り、なぜ下火に? 企業アカ参入「そういうことじゃ……」

「ラピュタ」と同時中継した動画サイト「ニコニコ生放送」でも一斉に「バルス」の書き込み=2013年8月2日、瀬戸口翼撮影
「ラピュタ」と同時中継した動画サイト「ニコニコ生放送」でも一斉に「バルス」の書き込み=2013年8月2日、瀬戸口翼撮影

目次

『天空の城ラピュタ』がテレビ放映されると、セットで話題になる「バルス祭り」が生まれたのは10年ほど前のことだった。2ちゃんねるのサーバーが落ち、その後、ツイッターまで陥落した。しかし、今、往時の盛り上がりを見ることはない。潮目は2013年。企業アカウントが続々参戦した「ノリ」が払った代償は小さくなかった。PCからスマホ、5Gを目前に控え、私たちは「バルス祭り」から学べることはあるのだろうか。「ネットのよこみち」から考える。(吉河未布)

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【連載:ネットのよこみち】 流れては消えていくインターネットの歴史。黎明期から見続けてきたY嬢が、次の時代につなぐヒントを求めさまよいます。

「バルス」で謎の一体感

テレビでリアルタイムに放映されるシーンに合わせ、ツイッター上で「バルス」をみんなでつぶやく「バルス祭り」が始まったのは、10年ほど前のこと。

今となっては「あーあれ、昔盛り上がってたよねー。まだやっている人いるんだー」的な感じすら漂うが、ラピュタ側だって、テレビ放映が始まった時(1988年、『土曜特別ロードショー』。翌年からは『金曜ロードショー』)には、まさか「バルス」で謎の一体感が生まれるとは思っていなかったに違いない。

「天空の道」「ラピュタの道」と呼ばれて人気の阿蘇市狩尾の市道=2014年10月10日、阿蘇市狩尾
「天空の道」「ラピュタの道」と呼ばれて人気の阿蘇市狩尾の市道=2014年10月10日、阿蘇市狩尾 出典: 朝日新聞

ツイッター、バルスのためにサーバー増強

歴史的には、2009年11月20日の放映時に、2ちゃんねるで実況用(≒番組を見ながら、あーだこーだ雑談を交わす場)のサーバーが陥落した時から、すべてが始まったと言えるだろう。

2010年に入りツイッターが一気に普及した背景(※)もあってか、2011年12月9日放映時には、ツイッターでも「バルス!」に乗っかりたい人たちが大賑わい。ツイッターが一時不安定になるほどで、秒間ツイート数(2万5088ツイート)で初めて世界新記録になった。

(実際この頃のツイッターへの注目度は急上昇で、ニールセンの調査によれば、2009年6月のツイッター訪問者数が45万だったのに対し、2010年8月度に1000万、2011年10月には1455万だというから、爆速的な普及がうかがえる。)

この時、ツイッターではつながりにくい時に現れる“くじら”がほうぼうで目撃されたが、ツイッター社は今後に備えてサーバーを増強。日本のバルスのために……と思うと、技術の進化はこういうところから生まれるのだなあとしみじみする話だ。

ついでにいうと、これ以来、ツイッター上でくじらが発見されると、バルスの時のことを知っている人には「バルス以来だ!」と言われ、ツイッター増強以降のバルスしか知らない人には「バルスでも落ちないのに」と言われている模様である。

ちなみに2ちゃんねるでは、日テレ実況板からあぶれた人たちが、他局の、1ミリも関係のない(ところで、どうしてこういうとき“ミリ”が単位なの?)番組用の実況板になだれ込み、バルス!バルス!の大合唱。個人的には、その“とりあえずこの波のっとく?”的なノリを見ながら、「アホ(褒め言葉)だなぁ」と大笑いしていた記憶がある。

「天空の城ラピュタ」に登場するドーラに扮して山崎剛学長(手前)から学位記を受け取る金沢美術工芸大学の卒業生=2019年3月1日、金沢市小立野5丁目
「天空の城ラピュタ」に登場するドーラに扮して山崎剛学長(手前)から学位記を受け取る金沢美術工芸大学の卒業生=2019年3月1日、金沢市小立野5丁目 出典: 朝日新聞

企業アカの「してやったり」感

潮目と言えるのは、1年半後の2013年8月2日放映時だろう。

ネット民の盛り上がりになんとかイッチョカミしたかった企業アカウントが、「俺ら固く見えるかもしんないけど、案外遊び心わかってるんだもんね、みんなに交じれる度量の広さもってるもんね」風に続々参戦。

ラピュタを放送しない局であるテレ朝やテレ東、TBS、NHKも乗っかる始末で、「他局を応援しちゃう俺らかっけえ」をアピールし、てんやわんやの一大ムーブメントとなった。いやアピールのつもりかどうかは知らないが、見てるほうはそう見えちゃったんだから仕方ない。

ちなみにツイッター社はこの日、〈今回の「バルス」がどうなるのか楽しみです。(サーバーが持ちこたえますように!)〉としつつ、特設サイトに「バルス!をツイートする」ボタンを設置する余裕を見せた。

ボタンといえば、「Yahoo!JAPAN」でも、トップページに「バルス」ボタンを設置。クリックするとデザインが崩れるという仕掛けで、“滅びの呪文”を再現した。そうそう、こういうことに一生懸命になるのが、ネット企業だった。とはいえ、今振り返っても、まあまあ乗っかったなあ、みんな………。

結果、記録は秒間14万3,199ツイートで、それまでの最高である同年の「あけおめ」の秒間3万3,388ツイートを激しく上回った。飛躍的な世界記録更新で、2ちゃんねるはやはり一時落ちたが、ツイッター社はフフンとばかりに見事持ちこたえてみせたのだ。それがニュースにもなったほど、“バルスでサーバーが落ちるかどうか”は、ネット上の関心事で、ツイッター社にしてみれば、安堵と同時に“してやったり”であっただろう。

ジブリ作品「天空の城ラピュタ」の「ロボット兵」などをイメージしたとみられる苔アート=2019年2月17日、埼玉県東秩父村白石、山口啓太撮影
ジブリ作品「天空の城ラピュタ」の「ロボット兵」などをイメージしたとみられる苔アート=2019年2月17日、埼玉県東秩父村白石、山口啓太撮影 出典: 朝日新聞

“公式”参戦の代償

2016年、ついに日テレという“公式”が、堂々の参戦を表明。データ放送で「バルス」までのカウントダウンを表示させた。

でも、そういうことじゃなかったんだよ……。

ひとりひとりのネットユーザーが今か今かと時計とにらめっこし、SNSでは「まだですか?」「もうすぐだと思われます」などといったやり取りがおこなわれ、なかには「過去はだいたい○時○○分くらいでした」などというデータを示す人もいて、そういう“みんなで情報を交換し合いながら遊ぶ”のが良かったんだよ……。

“せっかく自習室で騒いでいたのに、先生が入ってくると調子狂うんだよな”的なムードが影響したのかどうなのか、NTTデータのリアルタイム計測による比較では、最高秒間ツイート数は前回からほぼ半減(ツイッター社は発表せず)。

以降、徐々に話題は落ち着き、コンマ何秒にヒリヒリしながら、今か今かと待機する緊張感はない。

もちろん、それにはさまざまな要因があるだろうし、そうやって少しずつ「風物詩」になってゆくのかもしれないけれど、ネットでの大盛り上がりが失速したと思ったら、キョーミなくなった風なメディアや企業アカウントさんも多いのは、使い捨て感が漂うというか、なんだかなあと思うのでした(ただしそのなかでの救いは、日テレ公式が、その後も参戦し続けていること。ぜひとも、今後延々と音頭をとっていってほしいものです)。

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