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#87 #となりの外国人

外国人のためだけじゃない「やさしい日本語」 メディアができること

日本語を研究する言語学者とメディアの「中の人間」が、メディアをやさしくする方法を考えました

ニュースを通した、これからの社会との向き合い方を考えました
ニュースを通した、これからの社会との向き合い方を考えました

目次

ニュースをどうしたらもっと「やさしく」できるだろうか――。日本語を研究する言語学者とメディアの「中の人間」が一緒に考えました。マイノリティーの人が安心して暮らせる社会は、マジョリティー側にとっても生きやすいはず。「やさしい日本語」を通じて見えたのは、ニュースを通した、これからの社会との向き合い方でした。

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日本語(にほんご)にまだ()れていない(ひと)のために、この記事(きじ)を「やさしい日本語(にほんご)」にしました。
「やさしい日本語(にほんご)」で()みます。

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居場所になる言葉

withnewsでは昨年10月の台風19号をきっかけに、必要な情報を誰にでも分かりやすい言葉で届けたいと、「やさしい日本語」での発信を始めました。

「外国人にも分かりやすいように」記事を書くなかで、日本人からも「子どもに読ませたい」などの声が届くようになりました。

同時に、普段、書いている記事が日本人の読者にとっても難しいのではないかという思いも強くなりました。そこで、「やさしい日本語」の第一人者、一橋大学の庵功雄教授に、外国人にとってもわかりやすいニュースの届け方について伺うことにしました。

とてもつよい台風(たいふう)がきます【やさしい日本語】

30年後の日本を考える

庵さんからは、まず、「やさしい日本語」について説明してもらいました。

「やさしい日本語」は、まだ日本語の知識が十分ではない在日外国人への情報発信や、コミュニケーションの手段として注目されています。語彙と文法的な項目数を限定して、漢字はできるだけ使わず、50時間から100時間程度で習得できるレベルの日本語です。

日本に暮らす人で英語が流暢な人は、外国人、日本人双方に、多くはありません。そして、それぞれの国の言葉に訳せる環境だけではありません。

庵さんは、人口減少にともなって外国人の受け入れが進む中で、やさしい日本語は地域の「共通言語」になり得ると言います。

「30年後の日本を『日本人』だけでなく『外国人』とともに作るために、考えていかなければいけないことです」

庵功雄さん
庵功雄さん

やさしい日本語とは

阪神淡路大震災から25年。被災者には多くの外国人も含まれました。そこで、地震直後の報道から、やさしい日本語を考えてみることにしました。

当時の報道です。

けさ5 時46 分ごろ、兵庫県の淡路島付近を震源とするマグニチュード7.2 の直 下型の大きな地震があり、神戸と洲本で震度6を記録するなど、近畿地方を中心 に広い範囲で、強い揺れに見舞われました。

これをやさしい日本語にすると、次のようになります。

今日、朝、5 時46 分ごろ、兵庫、大阪、などで、とても大きい、強い地震がありました。地震の中心は、兵庫県の淡路島の近くです。地震の強さは、神戸市、洲本市で、震度が6でした。

庵さんは「地震の情報に慣れている日本人では、知りたい情報を無意識に選ぶことができる。日本語に不慣れな外国人は、全てを聞こうとして分からなくなってしまう。とりあえず何があったのかを知りたいときに、余計な情報は入れない方が良い」と話します。たしかに、地震発生直後に、マグニチュードの大きさは必要ないかもしれません。

やさしい日本語で文を書くときのポイント


・日常的に使う言葉を使う
・必要な情報に絞る
・一文は短く
・「揺れに見舞われた」など定型文は「です」に置き換える

自分のためにもなる

最近の台風の報道でも「やさしい日本語」を試してみました。

○○川周辺に避難勧告が出ました。

これは、自動翻訳などで「○○川に行く」という意味に混同される可能性があります。

「避難勧告」も、「避難すべき」なのか「避難した方が良い」のか、意味を伝えないと、正確に情報を伝えたことにはなりません。

○○川の近くに住んでいる人は、××に避難してください。

日本人にも分かりやすい表現になりました。

庵さんは「バリアフリーは全ての人が社会に参加できるようにするための手段。それは、情けは人のためならず、他人のためのものではなく自分のためのものになるということで、それがやさしい日本語の理念です」と話します。

やさしい日本語を使うための技術もありますが、「重要なのは『技術』ではなく、相手のことを考えて伝わるように伝えたいという『考え方(マインド)』です」と強調しました。

新聞は変わるべきか

メディアを巡る環境は、インターネットの浸透もあり激変しています。中でも、紙の新聞は購読者数が減り続けています。庵さんは「若者の活字離れが背景にあると言われていますが、それだけでしょうか。新聞のスタイルにも問題があるのではないでしょうか」と問い掛けました。

長い歴史の中で、新聞は現在の形を作ってきました。長年の読者の読みやすさにつながる一方で、そのスタイルや、表現方法など「型にはまっている様子」が、新しい読者の心が離れる要因になっていると指摘しました。

その上で、庵さんは以下の提案をしました。

・横書き
・時系列に沿って書く
・定型表現を使わない


デジタルの文章に慣れている若い世代を念頭に話してくれました。新聞だと続報では、文頭に新しい情報を持ってきます。それが「この前のあれだけど、どうなってる?」という風に話しかけられたように、新規の読者には読みづらい印象を与えます。

外的制約を設ける

庵さんのアドバイスに、現場の記者からは戸惑いの声も上がりました。

紙の新聞の場合、最新のニュースが入ると、他の記事の文字数を少なくして紙面に入れるため、あらかじめ、削りやすい部分を最後の方に入れておくという書き方をします。編集現場では、今でも、紙の時代の書き方が推奨されている現実があります。


そんな声に対して、庵さんは「外的制約」を設けることを提案します。

「時間に迫られて書く報道の現場で、現実的にうまくいくかは分かりません。ただ、伝わりやすさを考えれば、時系列順に書くことを崩さないようにする。横浜市との『やさしい日本語』での取り組みをして、劇的に変わったのは、情報をA4一枚に収められるようになったということです。難しい言葉や不必要な表現は使わない、何文字以内にまとめる、そうした外的制約を設けた中で、どう表現出来るかやってみるのが必要ではないでしょうか」

やさしい日本語について話を聞くメディアの「中の人」
やさしい日本語について話を聞くメディアの「中の人」

「らしさ」を疑ってかかる

新聞には、「らしい文体」も存在します。「定型表現を使わない」という提言には、「簡単に書きすぎて、バカにされていると感じる読者もいるかもしれない」と不安の声も上がりました。

庵さんは「『被害に見舞われた』など新聞らしい文体って、実質的には意味がないことです。東京新聞で、簡単な言葉を使って記事を書き換える実験をした。それまで新聞を読んだことがない大学生には好評だったが、50代以上の読者からは『そんなことやらなくていい』と文句がきた。その多くはファクスや手紙でした」と明かしました。

実際、「パスポート」を「旅券」と言うなど、新聞ならではの表現は少なくありません。
庵さんは、「日常的に本当に使ったことがあるか、お役所が言ったから使っているだけじゃないか、と疑ってかかるべきだと思います」と話しました。

やさしい報道とは

庵さんの話を聞きながら、自分も「定型」に寄りかかってしまっていたかもしれないと気づかされました。

15年以上日本に暮らしている同僚の中国人の記者は「私でも、日本文化に関して背景がわからないと理解しづらい文章というものはあります。本質が理解できないので、文化的な補完をしてもらえると分かりやすい」と明かしました。問題なく日本語の記事を書いている彼女がそう話していることに、驚きました。「わかっているだろう」は隣の席でも起こり得ることです。


最後にこんな質問が出ました。

記者「やさしい日本語を普及させるときの『敵』はなんでしょうか」


庵さんは「一番の敵は、無関心な人たちです。圧倒的多数が無関心だったら、例えば、予算はつきません。そうした状況を変えるには、マジョリティー(多数派)の日本人にとっても、わかりやすい『やさしい日本語』は良いことが多いと分かってもらわないといけない」と答えました。


「やさしい日本語」は、マイノリティー(少数派)である「外国人のため」だけのものだと考えると、マジョリティーのために力を割く方が良いと考えてしまいがちです。新聞だって読者の大半である50代以上のためのものだと思えばこのままのスタイルで良いのかもしれません。

でも「今後一緒に社会を作って行く人たち」という風に考えると、読者層を発信者側から絞ることはできません。分かりやすい言葉で情報が届くというのは、例えば外国人が「ここが居場所だ」と感じられるようになることにつながると、庵さんは言いました。

だれにとってもやさしい報道の在り方を、これからも考えていきたいと思います。

 

伝えたい情報を、なるべくシンプルに、誰にでも分かりやすい「やさしい日本語」にして届けます。
本当に「やさしい」のか、日本に暮らす外国出身の人や、専門家にもアドバイスをもらいながら、本当にやさしいニュースを作っていきます。

毎週土曜日に配信予定です。

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