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IT・科学

「天気の子」監修の雲研究者が「映え写真」連日投稿する理由

SNSや書籍など様々なチャンネルを通じて気象情報の発信を続けている荒木健太郎さん
SNSや書籍など様々なチャンネルを通じて気象情報の発信を続けている荒木健太郎さん

目次

「防災情報をチェックしましょうね」。その講演後に起きた豪雨災害。準備していた人はほとんどいなかった。気象庁で雲の研究に携わる荒木健太郎さんは、SNSや書籍など様々なチャンネルを通じて気象情報の発信を続けている。Twitterで「映える」写真を投稿するインフルエンサーでもあり、「天気の子」(新海誠監督)の監修もつとめる。「どうすれば平常時から気象に関心をもってもらえるか」。荒木さんの活動から、災害が来る前に育てておくべき「ゆるい当事者意識」について考える。(FUKKO DESIGN・木村充慶)

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講演後に起きた豪雨

気象庁の研究施設「気象研究所」で災害をもたらす雲のしくみなどの研究をしている荒木さんは、個人の活動として、雲の魅力を紹介する書籍を出したり、全国各地で講演をしたりしている。

もともと地方気象台で防災情報の作成・発表を行っていた経験から、雲の魅力をわかりやすく紹介することはもちろん、防災についても丁寧に解説してきた、つもりだった。

荒木さんが「防災情報を伝えるだけではダメだ」と思ったのは、2015年9月にあった関東・東北豪雨が起きる前に、茨城県常総市で講演したことがきっかけだった。

市内の中学校と教育委員会で講演した際、雲の話をした後、「防災情報がどこで発表されているかチェックしましょう」「ハザードマップを確認して備えておきましょうね」など防災に関する話をしたという。

しかし、その後、常総市は大雨で被災し、講演をした中学校にも大きな被害が出た。しばらくして講演会の参加者に会った時、「まさか自分の住む場所で被害が起きるとは思わなかった」と言われたという。

防災の講演を聞くと、その時はモチベーションが上がるが、その意識は続かないことがほとんど。常総市での講演もまさに同じことが起きてしまった。

「どうやって日常で防災に関心を持ち続けられるか、アプローチを考えなきゃいけない」

そこから、一方的に発信するだけでなく、多くの人が関心を持ち続けられるような仕組みを考えるようになったという。

孤立していた水海道さくら病院から全ての入院患者が救出された後に、自衛隊などのボートに乗り込む病院関係者=2015年9月12日、茨城県常総市水海道森下町、西畑志朗撮影
孤立していた水海道さくら病院から全ての入院患者が救出された後に、自衛隊などのボートに乗り込む病院関係者=2015年9月12日、茨城県常総市水海道森下町、西畑志朗撮影 出典: 朝日新聞

楽しみながら防災リテラシーを

災害が起きた時にいきなり対策をしようとしても、すぐには行動に移せない。災害が起きる前から備えておき、起きたらすぐに動ける 「防災リテラシー」が不足しているからだ。

そこで、日常的に気象を楽しむ機会を作り、結果的に防災リテラシーを向上させることができないか考えるようになったという。

例えば、荒木さんは、虹のようなきれいな現象がどのような状況であれば撮影できるか、書籍や講演、Twitterなどを通して紹介している。

「空で起こる現象は偶然ではなく、予測できることが多い。虹は、たまたま出現すると思われているかもしれないが、太陽と反対の方角に雨が降っていると現れることが多い。だから、気象レーダーの雨量情報から予測すれば撮影できるタイミングがわかり、虹に自分から出会えるようになる」

日頃から天気に親しむという意味で「観天望気」も啓蒙している。雲の形、動きを見ることで、その後の天気の変化を予測する方法だ。

「天気予報はメディアでチェックするものと思っている人が多いと思うが、実は空を見ることでわかることも多い。これも多くの人が天気に関心を持つきっかけとなる」

いざ災害が来るという時、気象レーダーなどの防災情報をチェックすることは必要だ。同時に、空を見ることである程度の情報を自分で把握することもできる。しかし、一般の人の多くはこの二つのスキルをなかなか習得できていない。荒木さんは、いざという時、役立つスキルを日常で、楽しみながら覚えることができるよう取り組んでいる。

一般の人と一緒に研究「シチズンサイエンス」

最近はTwitterを活用して、一般の人と一緒に研究を行う「シチズンサイエンス」にも力を入れている。Twitter上での「#関東雪結晶 プロジェクト」もその一つだ。

首都圏は雪があまり降らないため雪の観測が少なく、降雪の実態についての研究が十分にできていないという。そのため、Twitterを活用して一般の人から情報を提供してもらい研究に活かしているという。

研究用の情報提供と言っても、スマホ1台で参加できる。

「雪の結晶は特殊なカメラでないと撮影できないように思われがちだが、実はスマホのカメラを最大ズームするだけで簡単に撮影できる」

雪の結晶を撮影してTwitterに投稿するだけの簡単な作業。楽しみながら一緒に研究できるので、多くの人が参加してくれている。しかも、写真を撮るために、事前にレーダーの雨量情報や天気予報を見たり、空を見たりすることが多くなり、防災リテラシー向上にもつながる。

「#関東雪結晶 プロジェクト」にも取り組む荒木健太郎さん
「#関東雪結晶 プロジェクト」にも取り組む荒木健太郎さん

防災のリーダーシップ育成

書籍を作る際には、先読みしてもらい一緒に本を完成させるTwitterキャンペーンも企画した。参加者には書籍の初稿を送り、初稿を読んでもらった上でコメントをもらう。それらをまとめて書籍に反映するという取り組みだ。

参加者の名前もクレジットで入れた「雲を愛する技術」(光文社新書)には685人が参加してくれたという。

「多くの方が書籍の内容を読み込み、自分事として協力してくれている。このような取り組みによっても防災リテラシーの向上が期待できるかもしれない」

荒木さんが一連の活動を通して目指すのは、防災に関するリーダーシップの育成だ。

「災害時は多くの情報であふれる。だからこそ、信頼できるのは身近な人の情報。防災リテラシーを持った人が、それぞれのコミュニティで正しい防災情報を発信するリーダーのようになってほしい」

気象に関心を持つようになることで、自ら気象についての防災情報を調べられるようになる。そうなれば、いざ災害の危険性が高まっているような状況でも、自ら防災情報を調べ、自身のコミュニティでも主体的に発信できるようになり、多くの人に防災情報が伝わるようになるのでは、と考えている。

荒木健太郎『雲を愛する技術』(光文社新書)

「ほどよい当事者感」を生み出す「継続性」

災害が起きた際、多くの人はTwitterなどネットの情報を確認する。被災地からは、生々しい現地の動画がアップされることも珍しくない。

一方、役所やメディアが伝える災害情報は、まず、目の前に危険が迫っている人向けのものが重視されがちだ。命を守るためには必要だが、それだけだと、被災していない人に当事者意識を持ってもらいにくい。

荒木さんは普段から一般の人たちと一緒に気象観測することを大事にしている。「写真映え」する雲をきっかけに、気象に関わる流れを生み出し、防災リテラシーを向上させようとしている。

平常時にも「ほどよい当事者感」を生み出すためには、一過性で終わらない地道な活動が求められる。それを荒木さんはTwitterをはじめ様々なチャンネルを通じて実践している。

東日本大震災で注目されたSNSでの情報発信だが、緊急事態だけでなく、平常時の対策にも力を発揮できる。荒木さんの地道な活動は、防災におけるSNSの大事な可能性を気づかせくれる。

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