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連載

#7 クジラと私

捕鯨批判は「人種差別」か? 日本が反感、招きやすくなった理由

日本の商業捕鯨再開に反対するデモ参加者=2019年6月29日、ロンドン中心部、下司佳代子撮影
日本の商業捕鯨再開に反対するデモ参加者=2019年6月29日、ロンドン中心部、下司佳代子撮影 出典: 朝日新聞

目次

捕鯨をめぐる記事には「他の国も捕鯨をしている」「日本ばかり批判するのは人種差別だ」という声が寄せられます。しかし、中には感情的で正確さに欠けるものが少なくありません。それでは、なぜ日本ばかり国際社会から批判されている印象があるのでしょう? 問題を余計にこじらせないために、捕鯨をしている国、批判する国の関係について整理してみたいと思います。(朝日新聞名古屋報道センター・初見翔)

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クジラを追って

複雑な「捕鯨」の定義

まず、ここで問題にする「捕鯨」の定義を確認します。

第一に捕獲する対象は国際捕鯨委員会(IWC)が管理の対象にしている種です。生物学的な「クジラ」は世界に80種以上いるとされます。イルカも人間が大きさで区別しているだけで、生物学的には「クジラ」です。

日本政府の解釈では、IWCが管理の対象にしているのはそのうち17種類(当初は13種類でしたが分類が進んで増えました)。

シロナガスクジラやマッコウクジラなど大型でかつて乱獲の対象になった種が中心で、日本が商業捕鯨で捕っているミンククジラやニタリクジラ、イワシクジラも含まれます。

一方、日本ではツチクジラや各種イルカなども捕獲していますが、こちらは今回問題にする「捕鯨」の枠の外です。

第二に捕獲している国がIWCに加盟しているかどうかという違いもあります。

日本は2018年6月に脱退したので、商業捕鯨を再開できました。インドネシアやカナダはもともとIWCに加盟せずに捕鯨をしています。一方、ノルウェーとアイスランド、アメリカやロシアはIWCに加盟しながら捕鯨をしています。

第三は目的です。IWCを脱退する前、日本は科学調査のための「調査捕鯨」だとして捕鯨を続けていました。今は肉などを売るための「商業捕鯨」です。

一方、アメリカやロシアは「先住民生存捕鯨」と呼ばれる、昔からクジラを食べてきた先住民が生きるために必要な食料を確保するための捕鯨です。

それに対し、ノルウェーとアイスランドは最初から「商業捕鯨」として続けています。


【動画】捕鯨の現場は? ノルウェーの捕鯨船に記者が同乗した=初見翔撮影

堂々と商業捕鯨を続けられる「仕組み」

本題に入ります。

IWCは1982年に商業捕鯨の一時停止(モラトリアム)を採択しました。このモラトリアムを受け入れた加盟国は「商業」目的でクジラを捕まえることができなくなりました。

ところがIWCに加盟したまま商業捕鯨を続ける方法もあったのです。モラトリアムに対して「異議申し立て」をすればその決定に従わなくて良いという仕組みです。

ノルウェーは商業捕鯨モラトリアムに対して一貫して「異議申し立て」をしているので、現在でも堂々と商業捕鯨を続けられます。

アイスランドの場合はやや複雑で、一度モラトリアムを受け入れたあとでIWCを脱退したのですが、その後モラトリアムへの「異議申し立て」をした状態での再加盟が認められました。

日本はというと、一度は「異議申し立て」をしたのですが、その後取り下げたために商業捕鯨ができなくなりました。

これは、米国政府が「モラトリアムを受け入れなければ米国沿岸(200カイリ)から日本の漁船を締め出す」と圧力をかけたことが背景にありました。当時の日本は、米国沿岸で日本全体の漁獲高の半分近くを稼いでいたため受け入れざるを得なかったと言われています。

ただ、日本がモラトリアムを受け入れた直後、米国は日本を含む外国漁船を沿岸域から締め出してしまいました。当時の外交の駆け引きとは別に、結果だけ見れば日本は商業捕鯨と米国沿岸漁業の両方を失ってしまったのです。

古式捕鯨の像や大型捕鯨船が展示されているくじら浜公園=2018年12月25日、和歌山県太地町
古式捕鯨の像や大型捕鯨船が展示されているくじら浜公園=2018年12月25日、和歌山県太地町 出典: 朝日新聞

「反捕鯨」への感情的な反発

私のこれまでの記事に、一部から「ノルウェーも捕鯨をしているのに、日本ばかり批判されるのはおかしい」「西欧諸国からの人種差別だ」といった反応がありました。

これはやや感情的で正確さに欠けるものだと言わざるを得ません。

ノルウェーも捕鯨に反対する立場からの批判を受けています。私が乗った捕鯨船カトー号は20年ほどまえに環境保護団体「グリーンピース」からの妨害を受けたそうで、その様子を撮影した写真を使ったグリーンピースの捕鯨反対ポスターまで出回ったということでした。

一方で捕鯨に反対する立場からみて日本が目立ちやすかったのも事実です。

国際的に認められた権利とはいえ「調査捕鯨」と称して大量のクジラを捕獲した日本と、「商業捕鯨」と言い続けてきたノルウェーとではそもそもの立場が違います。

また、ノルウェーやアイスランドは自国の排他的経済水域(EEZ)内に限定したのに対し、日本は南極海で捕鯨を続けたことも反感を招きやすかったと考えられます。

南極海はかつて欧米を含む世界の捕鯨船が競うように鯨を追い求めた海域で、一部の人には鯨保護の象徴の海と映っていたともいえます。

「クジラは1頭たりとも捕獲するな」など、捕鯨に反対する意見のなかには私自身も納得できない部分があります。

ただ批判に対して感情的になり、なぜ批判されているのかを読み間違えては問題は余計こじれる一方だとも思います。

今回はその前提として捕鯨国の間にもある「違い」に注目してみました。

 
【連載:クジラと私】クジラを食べられなくなったら困りますか?平成生まれの私はこれまで、「困らない」と思ってきました。でも、今その考えは変わりつつあります。この夏、ノルウェーの捕鯨船に乗った記者が、捕鯨をめぐるあれこれを発信していきます。

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